3.4.マレタナゴ対策
「ウチカゲお爺ちゃーん!」
「む?」
スパアァンッと襖を開いてウチカゲお爺ちゃんの仕事部屋に入る。
仕事中申し訳ないけど、食料事情に直結する畑の問題は解決した方がいいから、邪魔してでも対策を聞いておかないとね。
僕はすぐに目の前に正座で座って、先ほどあったことを共有する。
他の水車もマレタナゴのせいでボロボロになってる可能性があるから、調査してもらうように頼んでおく。
今はアマリアズがやってくれているけど、大工さんに見てもらわないと分からないこともあるからね。
「ってことがあったんだ」
「ふむ……水が運べなくなるのはマズいな。分かった、まずは大工を呼び集めよう。して、マレタナゴについてだったな」
「うん。そいつが悪いことしてるみたい。暴れた後の鋭利な小石も何とかしたいんだけど……」
「難しい注文ばかりしおって……。そうだな、では一つ策がある」
「なになに!?」
前のめりになってその策を聞いてみる。
すると、聞いたこともない単語がウチカゲお爺ちゃんの口から飛び出した。
「ベドロックという魚を知っているか?」
「べどろっく??」
なにそれ。
変な名前の魚……。
「ああ。今では個体数が少なくなってしまっている魚なのだが、今も上流にいることがあるそうだ。昔に比べて魔法の脅威度は下がったが、それでも奴の放つ香は強力だ。他の魚を呼び集め、捕食するという特徴を持つ。姿は潰れた饅頭の様で、色は黒と紫が混じったような色をしている」
「じゃあそれを捕まえてマレタナゴのいる川に放てば……!」
「大方、マレタナゴはほぼいなくなるだろうな」
おおー!
そんな魔法を使う魚がいるんだったら話は早い!
厄介な魚を食べてくれる掃除屋さんじゃん!
……って、待てよ?
マレタナゴって『部位強化(鋭)』っていう危ない攻撃を放つんだよね。
べ、ベドロックを捕まえて連れてきても殺されちゃったら意味ないじゃん!
その辺はどうなの!?
「大丈夫だ。ベドロックは非常に硬く、マレタナゴの攻撃程度では怯みもせん。それに奴は動かない。生態系が壊れる前に川から回収すれば、被害はないはずだ」
「そうなの!? じゃあ捕まえてきたら大切に飼わないとね! じゃあ行ってくるー!」
僕はすぐにその場から立ち上がって廊下に飛び出した。
この事を話しに行かなければと、先ほどいた場所まで全速力で戻る。
「ぬ、待て宥ぜ……ああ、行ってしまった」
残されたウチカゲが軽く頭を掻く。
一つ言いそびれてしまったことを、誰にも聞かれることなく呟いた。
「……ベドロックは動かないのではなく、強力な吸盤で動けない……というのを忘れていたな……」
◆
合流する前に、ベドロックなる魚を確保するための道具を城下町で集めることにした僕は、道具屋に入って何が必要か考えながら商品を吟味していた。
そういえば大きさを聞いていなかったなぁ……。
まぁ魚だし、そこまで大きい魚じゃないでしょ。
でも水桶は必要だなぁ。
盥くらいの大きさがあれば大体の魚は中に入るよね。
あとは……釣り竿?
んー、釣るっていうより捕獲だから網を持っていこうかな。
ああ~ウチカゲお爺ちゃんにベドロックの生態を聞いておくの忘れてたなぁ。
まぁこの辺はアマリアズも知ってるでしょ。
それじゃあ盥と網と……これくらいでいいかな。
「これくださーい」
「はいはい~」
会計を済ませた後、購入したものを抱えて今度こそ皆の場所へと戻る。
そういえばアマリアズはどこにいるのかな?
ベドロックの特徴を聞いておきたいんだけど……。
まぁこういう時はあれだよね。
その場で立ち止まり、目を瞑る。
アマリアズの気配を感じ取った僕は、最短ルートで合流をする為に走り出す。
これも慣れたものだなぁ。
昔は四苦八苦してたけど、今だったらずっと目隠しをしてても生活できる。
この上達速度だけはウチカゲお爺ちゃんに褒められたっけ。
そんなことを考えていると、アマリアズが他の水車を点検している姿を発見した。
他の鬼たちも集まっているようで、農作業を担当している鬼に今起きていることを説明しているようだ。
「おお~い、アマリアズ~!」
「お帰り宥漸君。どうだった……って、何それ」
「ベドロックを捕獲しに行くよー!」
「……ええー……」
アマリアズはベドロックという名前を聞いて、心底嫌な顔をしたのだった。
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