3.3.水車の修理
水車は畑から少しだけ離れたところにある。
物自体が大きいので流れが少し強い場所じゃないと回らないから、比較的流れの速い場所に作ろうとした結果離れてしまったのだとか。
とはいえ水の流れは速い。
持ち上げた水は作られた水路を走ってすぐに畑へと足を運んでくれる。
僕とアマリアズはその水路を目印にして水車のある方向へと歩いていた。
水の流れに沿って行けば、水車の場所には行けるんだよね。
でもあれ凄い大きいんだよなぁ。
前鬼の里すべての田んぼに水を運んでいるんじゃないかな?
なんていう名前だっけ……。
水汲み水車だったかな?
そんなことを考えていると、意外と早く水車のある場所へと辿り着いた。
少しだけ広い川幅の中に六つの水車が並んでいる。
大きな樋が設けられており、水車に設置されている木の桶が水を汲み上げて樋の中へと水を流し込んでいた。
川の流れが少し早いのでばしゃばしゃという音がよく聞こえている。
六つの内一つの水車に六人の鬼とお母さんが集まっていた。
鬼の力で水車を持ち上げ、地面に降ろしてお母さんと老人の鬼が修理を行っているようだ。
「おおーい! みんなぁー!」
「ん? やぁ宥漸君! アマリアズ君! どうした?」
「手伝おうと思って!」
「そりゃありがてぇ!」
「あら、宥漸。稽古はもう終わったの?」
「ノルマはクリアしたよ~。ウチカゲお爺ちゃんはお仕事に戻った」
簡単に説明して、皆の輪に入り込む。
アマリアズはこちらに混ざらず、水車が設置されていた部分を眺めていた。
顎に手を当てて何かを考えているようだけど、まぁそっちは任せよう。
あ、ていうかこのお爺さん大工さんか。
僕の家もこの人が作ってくれたっけ。
穴の開いた手拭いを角に通して巻いているからよく分かるんだよねぇ。
「お爺さん、今どんな感じ?」
「いやぁ、長い事働いてもらってたからガタが来ててなぁ。これ、水桶の設置部位や水車自体がボロボロなんじゃ。他の奴も見てみないと駄目やもしれん」
「直せそう?」
「最悪水車を作り直さないとな。その場しのぎで何とかなるかもしれんが……。ん~~~~、しかしなんでこんなにボロボロに……」
と、大工のお爺さんは結構悩んでるみたい。
水車一つ作るのに材料も時間も凄いかかるし、作り直すまでの間は頑張ってもらえるように何とかしたいみたいだけど、確かにこれは……難しいかもなぁ。
水桶を触って見たら分かるけど、すごいガタガタ動く。
いつ壊れてもおかしくない感じだね。
他の水桶もそんな感じ。
この川には軽い石が多いらしいから、川の流れの強さで石が飛び回って水車に結構傷がついちゃうんだって。
それで長いこと放置してたからボロボロになったみたいだね。
だけど、大工のお爺さんが言うにはあまりにもボロボロすぎるとの事。
他にも魚が悪いことする時もあるらしいけど……。
今度は魚が入らないように網でも設けた方がいいかも。
「おおーい、皆ぁ~」
「アマリアズ君どうしたの?」
「こっち来てー」
水車の設置場所を用心深く見ていたアマリアズが何かに気付いたらしい。
全員が近くに寄って指を指している方向を凝視してみると、そこは水車を支えている大きな杭が見えた。
水の流れが激しくて水中の中が見にくいが、アマリアズはその根元を指さしている。
目を細めてよく確認してみると、杭の根元が何かに削られたようになっているのが見えた。
日本刀で大きく傷つけられたような傷だ。
「わっ! こ、これは……」
「マレタナゴの縄張り争いだね。群れと群れの戦いになるから、石とかも割れてることが結構ある。この辺はそいつらの戦場っぽい」
「相変わらず詳しいのぉ」
「どうしたらいいかしら?」
「んー」
お母さんの問いに、アマリアズは少し悩むそぶりをしながら説明する。
「このままだと水車を作り直してもすぐに壊れるね。ここまで良く持った方だと思うよ。多分劣化が激しいのはマレタナゴが戦って砕いた石や岩の鋭い欠片がぶつかり続けたのと、縄張り争いで大きく傷つけられたのが原因かな。頭のいい戦闘魚だから遮蔽物の管理もしっかりしてたと思う」
「ってことは、マレタナゴをどうにかしないと駄目ってことね?」
「うん。でもなぁ……」
「ううん……」
その場にいる誰もが頭を抱える。
だってさ……マレタナゴって普通に危ない魚なんだもんなぁ……。
えーっと、昔からずーっと生息している魚で『部位強化(鋭)』っていう魔法を使うんだよね。
攻撃力に個体差はあるけど、基本的には大きなマレタナゴほど切れ味のいい攻撃を放ってくるって感じかな。
水中じゃないと発動できないらしいから釣り上げれば無害だけど……あの魚釣るのめっちゃ大変なんだよね……。
だから網漁の方がいいんだけど、水中だと魔法を使われるからすぐに穴が空く。
結局獲れたとしても数匹なんだよなぁ……。
それに餌も用意するのが大変。
マレタナゴの好物がまさかのマレタナゴっていう共食いをする魚なんだ。
そのくせして繁殖力が高いから一向に数が減らないんだよね。
まぁ……簡単に言うと、マレタナゴを何とかするのは一筋縄では無理ってこと!
水車が壊れかけてる原因が分かったのは良かったけど、それ以上の障壁が立ちはだかったなぁ……。
「お母さん、何か知恵ある?」
「ないわね~。ここはウチカゲに聞いた方がいいわ」
「ウチカゲお爺ちゃんかぁ~。まぁそうだよねー」
こういう時こそおばあちゃんのの知恵袋だよね。
お爺ちゃんだけど。
じゃあ僕が聞いて来ようかな。
「分かった、ちょっと聞いてくる! 皆は水車の様子を見ててー!」
「ありがとう宥漸。お願いねー」
「アマリアズは他の水車をおねがーい!」
「あいあーい」
よし、じゃあウチカゲお爺ちゃんの所に行こう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます