3.2.不干渉


 それから少しウチカゲお爺ちゃんからの反省点を聞いたが、やはり今回はそこまで多くなかった。

 ただ僕の足が遅いってのは許して欲しい……。

 なんか昔より体が重くなっている気がするんだよね。

 なんでかは分からないけど……。


 ちなみに、アマリアズの反省点は『味方ごと攻撃するな』だった。

 まぁ……あの攻撃は僕だから耐えられるようなもので、他の人じゃ絶対に無理だよね。

 でもあの戦い方は僕と一緒に戦うことを前提としているから、やり方としては悪くなかったと思う。

 完全に相手の不意を突ける攻撃だしね。

 それに、僕なんともないし。


 何個かウチカゲお爺ちゃんの反省点を聞いたあと、ようやく今日の初休憩が始まった。

 お母さんに用意してもらったお昼ご飯を皆で食べる。

 最近ではこれが日常だ。


「はぁー……。ていうかウチカゲお爺さん。私たちを襲ってきた奴ら、全然来ないね」

「鬼が集う前鬼の里に、そうそう来る者はおらんだろう。それが狙いでお前をここで匿うことにしたのだからな。とはいえ、来てもらわなければ情報が集まらないのも事実。スレイズにも協力はしてもらっているが、成果はなしだそうだ」

「不干渉か~。警戒されてんのかなぁ?」

「恐らくな」


 うん、確かに刺客は来ていない。

 五年間も来ないっていうのはちょっと予想外だったけど……僕たちを襲うことを諦めているんだろうか?

 ああ、そもそも向こうに情報が入っていない可能性もあるんだった。

 でも多分情報は共有されてるって思った方がいいよなぁ。


 今のところ、技能を持っているってのがバレてるのはウチカゲお爺ちゃんとアマリアズだけ。

 僕も技能を使って戦いはしたけど、連絡するような瞬間はなかったと思う。

 だから最初に狙われるのは、ウチカゲお爺ちゃんより弱いアマリアズ……。


 ん~、やっぱり情報がないから考えても分かんないなぁ。

 おにぎり美味しい。


 すると木の影から『闇媒体』がこちらを覗いていた。

 そちらを見ると、すすっと出てきてウチカゲお爺ちゃんの隣に座る。


「そういえば『闇媒体』って誰かの魂が入ってるんだっけ」

「ああ。姫様が魂を呼び出した」

「え、あれマジだったの?」

「『闇媒体』が少し特殊だったからな。だが魂が嫌がればすぐに抜けだすらしい。ま、こいつは抜け出さなかったがな」

「(コクリコクリ)」


 頷いてる……。

 意思疎通が取れる技能って面白いなぁ。


「誰の魂が入ってるの?」

「天打だ」

「ブッ!! げっほごほげほげほ!!」

「……アマリアズ、大丈夫?」

「だ、大丈夫……(私を殺しかけた奴かよ……!)」


 盛大にむせた後、お茶を飲んで落ち着いたようだ。

 大きなため息をついて息を整えた。


「天打って誰?」

「私の兄だな。鬼人舞踊七代目師範だった男だ」

「ああ~! それでケンラさんに教えてたんだぁ!」

「よく覚えていたな。だが一つ言っておくとケンラは表の型は免許皆伝を持っているが、裏の型はまだ修得していない」

「ふ、二つあるの?」

「うむ」


 話を聞いていた『闇媒体』もコクリコクリと頷いていた。

 い、一回ケンラさんと模擬戦したことあるけど、あの気迫はすごかったなぁ。

 表の型だけでも凄いのに、裏の型を覚えたらもっと凄くなるんじゃないかな。


 あの時、僕何もできずに切られちゃったんだよねぇ。

 鞘から抜き放った日本刀が見えなかった。

 気付いたら振り抜いてて、気付いたら僕が地面に倒れてたからね。

 ああいう敵との戦いも想定しておいた方がいいのかもしれないけど……最近忙しくて付き合ってくれてないんだよなぁ。

 暇だったらまた相手して欲しい。


 するともう一度お茶を飲んだアマリアズが口を開く。


「そういえばさ、テキルって人が作った魔道具の件。あれどうなったの?」

「進展はない。それだけ難しい技術で作られた代物だからな。それに、あいつは技能を使って魔道具を作っていた。今の技術力では同じ物を作ることはできないだろう」

「ああ、そうなんだ。それじゃあ羊皮紙は?」

「未だに技能で隠され続けている」

「すっごい長持ちしてるね……。技能だから仕方ないか」


 あれ、どっちもまだ解読できてないんだ。

 まぁ技能で造られたものだし……やっぱり難しいんだろうなぁ。


 ……ここまで長いこと何もないと、逆に警戒心が薄れちゃいそうだ。

 それが狙いなのかもしれないけど……うーん、どうなんだろう。

 ていうかまだまだ分からないことが多いんだよね。

 あれから一切の進展がないってのはちょっと痛手かもしれないなぁ。


「よし、ご馳走様ぁ~」

「ご馳走様でした。ウチカゲお爺ちゃん。このあとはどうする?」

「ノルマはクリアしたのだから、今日は終わりだ。私も仕事をする」

「じゃあ帰ろうか」

「ふぬぅ~……! っだぁ~。久しぶりのお休みだねぇ……。でも宥漸君は~?」

「お母さんのお手伝い」

「だよねー! んじゃ私も暇だし付き合おうかね~」

「うわ珍しっ」

「たまにはね」


 そう話している間に、ウチカゲお爺ちゃんはもう帰ってしまったらしい。

 やっぱり速すぎるよ……。


 僕も片づけをした後、前鬼の里へと歩いていく。

 今日はお母さん何をしてるんだっけ?

 えーと、ああ、水車の修理だ。

 水を持ち上げて田んぼに水を引くための水車が不調らしいんだよね。

 で、力加減ができるお母さんが呼ばれたみたい。


 それだったら僕とアマリアズもお手伝いできるかな。

 よし、行ってみよう!

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