第三章 発覚

3.1.成長


 森の中でいつもの稽古風景が、ウチカゲの目の前で行われている。

 人型になった『闇媒体』が手に日本刀を持ち、目の前にいる二人を警戒していた。

 黒い髪、黒い瞳を有した優しそうな好青年は鬼人舞踊無手の構えを取って『闇媒体』と対峙している。

 そして地面を蹴って接近した。


 同時に『闇媒体』も走り出して日本刀を構え、下段から掬い上げるようにして斬撃を繰り出す。

 それを生身の足で蹴り飛ばして受け流し、がら空きになった胴体に握り込んだ拳を打ち込んだ。

 と思ったのだが、そこで防御態勢を取る。

 その瞬間、『闇媒体』の目の前に半透明の小さな球体が投げ込まれた。


 パァアンッ!!

 甲高い破裂音が響いた瞬間『闇媒体』のみが吹き飛ばされて地面を転がっていく。

 黒髪の青年の後ろに手をこちらへ向けて構えている男の子がそこにはいた。


 灰色の髪の毛は少し長くなり、青年と同じ背格好をしている。

 灰色の瞳は少しだけ不気味だったが、顔の良さがそれを完全に隠していた。

 二人とも前鬼の里で造られた和服を着ており、手足には籠手をしている。


「宥漸君よく分かったね!」

「まぁね。アマリアズの攻撃に合わせるのも慣れたよ」

「そりゃ進歩だ!」


 僕とアマリアズは、ウチカゲお爺ちゃんに稽古をつけてもらっている。

 以前、アマリアズのお母さんに許可を取りに行った時から五年の歳月が流れていた。

 今僕は十七歳で、アマリアズは十歳だ。

 なのにどうして僕と同じ背格好になっているかというと、これも技能の影響らしい。

 確か成長が速くなるとかなんとか。

 詳しくは教えてもらっていないけどね。


 元より外と中身が完全に不一致だったので、今の方が接しやすくはあるかな。

 でも五年で僕の背と同じってのはなんか納得いかない。

 技能……技能なんだよなぁー。


 アマリアズと会話を終えた瞬間『闇媒体』が地面を蹴って肉薄した。

 それにいち早く反応した僕はすぐに懐に入って日本刀を持っている左腕に肘を打つ。

 次に右肘を横腹へとめり込ませ、渾身の力で『闇媒体』を吹き飛ばす。


 なんなく受け身を取って体勢を立て直されたが、そこでアマリアズの『空圧剣』が地面に何本も突き刺さった。

 成長したおかげで技能の精度が良くなり、作り出せる形状、数、大きさを変更できるようになったらしい。

 『闇媒体』が反応するよりも早く、それをすべて破裂させた。


 空高く舞い上がった『闇媒体』に、僕が狙いを付ける。

 落ちてくる場所を予測して走り出し、タイミングを合わせて拳を振るう。

 ズダンッと踏み込んだ地面が少しだけ抉れ、右拳に乗せた渾身の一撃を『闇媒体』へと喰らわせた。


 何とか防ごうと日本刀で拳を切り裂こうとしたようだったが、それは意味なく終わった。

 僕が日本刀に触れた瞬間『爆拳』を使用し、腰の乗った重い打撃へと変換される。


「『爆拳』!!」

「──」


 ドガアァンッ!!

 勢い良く吹き飛ばされた『闇媒体』はさすがに今の攻撃では受け身を取ることができなかったようで、ゴロゴロと転がって大木に激突した。

 でろりと『闇媒体』が溶け、粘液質の状態となってウチカゲお爺ちゃんの所へと戻っていく。

 それが手に触れると再び形を成し、折れた日本刀を申し訳なさそうにウチカゲお爺ちゃんへと返した。


「……よし、今日は以上だ」

「「疲れたぁ~……」」


 べしゃりと地面に倒れ込む。

 いや……『闇媒体』硬すぎるんだって……。

 僕の『爆拳』を十一回当てないと技能解除されないってどうなってんの。

 アマリアズの『空圧剣』はもっと攻撃が当たってるはずだけど……いや、空気圧縮も当たってたかな。

 僕以上に当ててたから今回は結構早く倒せると思ったんだけど……駄目だったぁ……。


 朝からやって昼過ぎに稽古が終わるって……ちょっとスパルタじゃない?

 いや、頼んだのは僕だから何とも言えないんだけどさ。


「お疲れ~宥漸君」

「お疲れアマリアズ。どう? 新しい技能発現した?」

「だめだめ。多分これは経験値不足だと思うから……魔物とかを倒さないと増えないと思う。多分宥漸君もこの五年間でそんなに増えなかったでしょ」

「うん。『受け流し』『貫き手』『空圧結界』しか増えなかった」

「私は『障壁』と『真空地雷』だけだなぁ……」


 う~ん、やっぱり二人とも少ないなぁ。

 ていうかこの辺の魔物全部狩りつくした感じするしね……。

 危ないからっていう理由でウチカゲお爺ちゃんに狩って来いって何回か言われたから倒してきたけど。

 だからこの辺の森は凄い安全なんだよね。

 前にも増して動物がたくさん住むようになった。


 まぁそれもなんだけど、一番気になることがある。

 あの事件から、一度も刺客が襲って来てないんだよね。

 おかげで結構鍛えることができたとは思うんだけど……向こうも勢力を増しているかもしれないんだよなぁ。


「二人とも、こっちに来い」

「はぁーい」

「さぁいつもの反省点のお時間だ」

「茶化しちゃダメだよアマリアズ」

「へへ」


 稽古の後はいつもウチカゲお爺ちゃんが反省点を指摘してくれるから、結構助かってる。

 でも今回は『闇媒体』に不覚は一回も取らなかった。

 ちょっとは評価が良いんじゃなかろうか!?


「宥漸は足が遅い」


 そんなことはなかった。

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