2.27.現場確認
カドマとカンヌキが森を歩いていると、急に横から声を掛けられた。
「ご苦労」
「「うぉおお!!? う、ウチカゲ様!!」」
「シー……」
急な声に驚いてしまったが、そこでウチカゲは口に人差し指を添えて静かにする様に促す。
それは無茶というものだ、と二人は心の中で呟いたが、ウチカゲはこういう人だ。
里以外では気配を完全に消し、どこからともなく現れる。
まったく油断も隙もない御仁だ。
すると後ろから息を切らしているシズヌマとタタレバも現れた。
どうしたことかずいぶんとぼろぼろだ。
服が破けているということはないのだが、泥だらけで髪の毛が乱れている。
「……ど、どうしたんだお前ら……」
「「……」」
カドマの問いに二人は口を固く結ぶ。
申し訳なさそうに俯き、ウチカゲの静かな睨みに耐えているようだ。
すると彼は一つため息を吐いてこちらに向きなおった。
「こちらのことは良い。そちらは問題なかったようだが……どうだ?」
「無事に宥漸君とアマリアズという子供を保護しました。二人はこの男を倒したようです。ですが男は毒を服用して死亡。情報は聞きだせなかった様です」
「ウチカゲ様よぉ。ちょっち詳しく話しちゃくれねぇか? この子供はなんだ? この男は? あと姫様って誰だ? 分かんねぇことが多すぎるぜ」
「……そうさな、説明せねばなるまい」
これから、ここにいる者たちは宥漸とアマリアズを守ってもらう存在になる。
だというのに隠し事をするというのは良くないだろう。
ウチカゲは一つ頷き、ぽつぽつと説明した。
「その子はアマリアズ。宥漸にとって、非常に重要な存在だ」
「なんでそうなるんだ?」
「それを説明する前に一つ知ってもらわなければならないことがある。お主が先ほど申した姫様はヒスイという名で、私が仕えていた女性の亡霊だ」
「「へっ!?」」
「「!?」」
「今は二の丸御殿にて夜と新月の黄昏時から姿を現す」
ウチカゲが仕えていたということは、それこそ四百年ほど前の話になるということはこの場の誰もが理解できた。
いろいろと聞きたいことが増えたが、ウチカゲはそれを阻止して『話を最後まで聞け』と問いを遮る。
「……姫様は『占い』という技能を所持しておられる。精度の悪い未来視ではあるが、宥漸の数百以上の未来の中にすべてアマリアズという子供がいたそうだ。この子は宥漸にとって重要な存在になるらしく、ここで失うわけにはいかなかった」
「どうしてこいつがその子供って分かったんだ?」
「見た目の割に中身がしっかりとしているらしい」
「ああ……」
確かにアマリアズはまだまだ幼いというのに、喋り方は大人の様な感じだった。
受け答えもしっかりできたし、説明も上手かった……というより上手すぎた。
ウチカゲの言った通り、この子が『占い』で見つけた子供だろうということが分かる。
姫様についてとアマリアズのことはなんとなく理解できた。
ではこの男は一体何なのだろうか。
ウチカゲはそれを説明するために、まずはカンヌキの担いでいる男へと目を向ける。
「……その男は、アマリアズを狙っていた。アマリアズは私や宥漸と同じように失われた技能を所持している。それが狙いだそうだ」
「技能……か。というと、もしやこの男は技能を所持している人物を捕らえ、何かしらの実験に使う予定だったのでしょうか?」
「それは分からん。だが良からぬことに使われるのは明白だ」
技能の抽出、技能の再現、失われた技能を取り戻す方法の確立……。
考えられることを頭の中で整理してみるが、どれもこれも実現不可能なものだ。
だがこれらを本当にできる方法があるのだとしたら、技能を所持している人物が狙われるというのも納得できる。
恐らくこの中で一番可能性が高いのは“失われた技能を取り戻す方法の確立”だろう。
技能とは魔法を誰でも簡単に使うことのできる危険なものだ。
思いつかないような魔法も、それで発現させることができる。
その危険性はこの場にいる誰もが理解できた。
現にウチカゲの技能は非常に危険なのだから。
「はぁー、なんとなくわかったぜ。とはいえ、黒幕は分かってねぇな」
「向こうもそんな馬鹿じゃないですよ。情報を吐かせないように自害する暗殺者を雇うくらいですからね。……もしかすると結構大きな組織なのかもしれません。それに情報が不足しすぎています」
「カンヌキの言う通りだ。まだ分かっていないことは多い。だが技能を所持しているアマリアズがここにいるということは、もしかすると既に向こうに漏れているかもしれん。待っていれば、奴らは来る可能性が高い」
「……アマリアズを餌にすると」
「然り」
カンヌキの言葉に、ウチカゲは間髪入れず肯定する。
後ろで控えていたシズヌマとタタレバもその話を聞いて自分たちがなすべきことを理解したようだ。
しかしカドマが口を挟む。
「お、おいおい! 中身はどうあれ人間の子供だぞウチカゲ様! 餌って……そりゃちょっとないだろ!」
「お主の言い分も分かる。だがな……技能を所持している者が狙われるということは、宥漸も、私も狙われる可能性がある」
「あっ」
「……刺客が現れた以上、対処を遅らせれば重大な損失を被るかもしれん。なに、餌にするとは言っても見捨てるわけではない。案ずるな」
「ああ、そうだな……」
カドマはその説明に納得し、先ほどの発言を恥じた。
そこで手に持っていた紙束の存在を思い出す。
二人を抱えているので読むことはできていないが、とりあずそれをウチカゲに渡すことにした。
「ああ、ウチカゲ様。この紙束なんだが宥漸が持ってたんだ。どういう経緯で手に入れたか分かんねぇけど見てくれ」
「ふむ」
「恐らくこの男の魔法袋の中から出てきた物でしょう」
説明を受けながら紙束を受け取る。
ウチカゲはそれに目を通してみた。
「……なんだこれは」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます