2.25.身代わり
男は『影武者』と共に確実に長剣をアマリアズへと向け、斬った。
小さな体であの剣を受け止めることは不可能であり、現にアマリアズは地面に倒れて動かない。
目の前で友達が傷つけられたことを否応にも理解してしまう。
だが……違和感があった。
アマリアズに攻撃が繰り出された瞬間、自分の頭部、腹部、足に小さな衝撃が走ったのだ。
それが何だったのか、今の精神状況で考えることはできなかった。
そこでアマリアズが顔を上げる。
「うわびっくりした」
「「「!!?」」」
「へ!?」
平気な顔をして僕の方に視線を向ける。
すると親指を立ててから、その手の中に空気圧縮を作り出した。
「完璧なタイミングだ」
「!!? お前何を──」
「『空気圧縮』!」
パアアァンッ!!!!
乾いた破裂音が響き渡り、近くにあったものがすべて吹き飛ばされた。
今アマリアズが使用した『空気圧縮』は川で魚を獲った時に使ったものと同じ威力だ。
地面が抉れ、少し離れたところにあった樹木が割れ、爆風を呼び起こす。
近くにいた男たちとアマリアズはその攻撃をもろに受け、その衝撃で吹き飛んでいった。
男と『影武者』二人は木に突撃して勢いを止めたが、体をしたたかに打ち付けたようで呼吸をするのが困難になっているらしい。
意識の混濁からか『影武者』二人が掻き消える。
アマリアズは僕の方に転がってきた。
慌てて受け止めてはみたが、今の衝撃をもろに受けて無事だとは到底思えない。
すぐに怪我をしていないか確認してみると、アマリアズはこちらを向いて片手で二つの指を立てていた。
「ナイスだよ宥漸君!」
「え!? な、なんで!?」
「無意識に君は『身代わり』っていう技能を使ったんだ。いやぁ~死ぬかと思ったぁ! はっはっはっは!」
「ど、どういう技能なの!?」
「対象一人のダメージを全部肩代わりする技能だね。今私が喰らった攻撃全部が宥漸君に行ったんだ。それで私は無傷って事!」
な、なんか急なことで頭が回らないけど……。
とにかく大丈夫なんだね!!
よかったぁ!!
説明を終えた後アマリアズは立ち上がり、再び『空圧剣』を作り切っ先を男へと向ける。
僕もすぐに立ち上がって警戒した。
だが、男はもう戦えないようだった。
吹き飛ばされた衝撃で剣は折れ、木に激突したことにより体の一部を損傷してしまったらしい。
いくらいい防具を付けていたとしても、アマリアズの最大火力である『空気圧縮』の攻撃には耐えられなかったようだ。
アマリアズが男の方へと歩いていく。
半透明の剣を喉元に向け、問いただす。
「お前らの神とはなんだ?」
「ごぁ……ッ、ググゥ……ッ」
「んんー、話せないのか。んじゃちょっと物色しますよ~」
手に持っている『空圧剣』で男のローブを切り、身に付けている防具を露出させた。
パッと見るだけでは普通のレザー装備に見えるそれは、心臓を守るようにして本くらいの大きさの装置が付けられており、そこから装備全体に青い光が走り回っている。
これが鬼であるウチカゲの攻撃を耐え凌いだカラクリだ。
「これは……。あー、駄目だこれに関しての記憶はないな……」
「だ、大丈夫なの?」
「うん。背骨と腰骨が砕けてるからもう立ち上がれないよ。激痛で腕も動かせないんじゃないかな」
「で……それはなに?」
「分からない。まぁ特殊な防具ってことは分かるけど、多分ウチカゲお爺さんの方が詳しいと思う」
そ、そうなの……?
まぁウチカゲお爺ちゃん義足の修理とか自分でやるもんね。
機械には少し詳しいのかも。
でもこれ……明らかに魔道具っていうやつだよね。
お母さんに何回か教えてもらったことがあるけど、高価だから手に入らないって聞いたことがある。
か、体全体を覆う防具の魔道具……どれくらい高いんだろう……。
でも青い光がまだ動いてる。
多分機能自体は生きてるのかな。
そこでアマリアズが男の持っていた荷物を漁り始めた。
ベルトを切り、魔道具袋をひっくり返して地面に中に入っていた物をすべて出す。
魔道具袋からは大量の武器に加え、数枚に書類と水晶のようなものが転がり出てきた。
武器を搔き分けて書類と水晶をアマリアズは手にする。
書類に目を通してみたところで、眉を顰めた。
「……」
「なんて書いてあるの?」
「……読めない」
「え?」
アマリアズの見ている書類を見ようと、ひょこっと顔を近づける。
文字を読んでみようとしたのだが、確かに読めなかった。
なんだろうこれ。
僕が教えてもらった文字とは全然違う。
まぁこういうのはウチカゲお爺ちゃんに任せるのが一番かな。
で、その水晶は何だろう?
「それはなに?」
「通信水晶。改良されて遠方まで通信ができるようになってるみたい。でも通信するには登録されている人の魔力が必要。セキュリティ上がったなぁ……」
「へぇ~」
何言ってるか分かんないや。
魔道具のことについて僕はあんまりよく知らないし、それは持ってもおらっておこう。
「えっと、この人どうするの?」
「持って帰りたいね。ウチカゲお爺さんに話を通せるかな?」
「多分大丈夫だと思う。でもこの人動いてないけど……」
「え?」
アマリアズが僕に書類をすべて押し付け、すぐに男の容態を確認する。
すると口から大量の血を零しており、完全に項垂れていた。
血の臭いに混じって何か妙な臭いがする。
だがそれは嗅いだことのある臭いであり、すぐに服で口を押えて僕と一緒に下がった。
「こいつ口の中に毒仕込んでたのか!」
「え!? 毒!?」
「暗殺者がよくやる手口だよまったく……! はぁ、くそ。情報源が断たれた……」
「し、死んじゃったの……?」
「……まぁね。大丈夫、宥漸君のせいじゃない」
「う、うん……」
ガサガササッ!!
大きな足音と共に何かがこちらに近づいてくる気配があった。
肩をビクリと跳ねさせて驚いたあと、僕とアマリアズはすぐに構えを取って警戒する。
……あれ?
この気配……僕知ってる!
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