2.24.増えた影武者
ローブの人物が長剣の切っ先をこちらに向けて狙いを定めている。
濃厚な殺気が纏わりついて来るが、アマリアズの殺気より幾分かマシだ。
……いやそれはどうなんだろう?
とりあえず僕は鬼人舞踊無手の構えを取って対峙する。
アマリアズは少し下がって後方から援護してくれるようだ。
『空圧剣』を構えたまま、もう片方の手に小さな『空圧剣』を幾つか作り出す。
そこでローブの人物がフードを取った。
オールバックに整えられた髪型に似合った面構えをしている。
顔には深い傷が一つ付けられており痛々しい。
しかし怒りの表情を浮かべる彼の顔はその傷によって更に恐ろしく感じられた。
そして一歩踏み込み、突きを繰り出す。
「『遠距離牙突』」
ガンッ!!
男が突きを繰り出した瞬間、僕の肩に衝撃が走った。
少しのけぞってしまったが、すぐに立て直して構えを取る。
今のは何だったんだろう?
「さっすが宥漸君。大丈夫そう?」
「なにが?」
「ああ、問題なさそうだね」
「なっ……に……!?」
なんかあの人驚いてる。
今のが攻撃だったのかな?
ちょっと肩を押されたくらいだったと思うんだけど。
まぁいいや!
「『ツタ縄』!」
「むっ」
周囲にあったツタを男へと向かわせる。
しゅるしゅると近づいたツタたちだったが、男はそれを確実に切り落として無力化させてきた。
だがただ切り落としているだけではない。
切りながらこちらへと近づいてきている。
それを見ていたアマリアズが『空圧剣』を投擲する。
男が弾くか弾かないかの所で破裂させてみるが、男には一切のダメージがないようだった。
あ、あれは偽物なのか!
ってなると本物は!?
「はぁああっ!!!!」
「わっ」
キーーンッ。
僕の真後ろから男が出てきた。
すぐに振り向き腕で剣を止め、剣の腹を裏拳で殴って接近する。
急な行動に驚いていたようだったが、すぐに男は対処して攻撃を防ぐ。
だが僕はこれに『爆拳』を混ぜる。
防いだ瞬間拳を爆発させ、男を吹き飛ばした。
……はずなのだが、男は無傷だ。
「あれ!? これも偽物!?」
「なんだ貴様は……!」
男も想像以上の硬さに驚いているようではあったが、すぐに剣を振りかざして連撃を繰り出す。
僕はそれを回避しつつ、アマリアズの援護を待った。
あれ、なんか結構避けられる……。
ていうかこの人の殺気が濃すぎてどこから攻撃してくるかよく分かるなぁ。
これが修行の成果なのかな?
そこで『空圧剣』が飛んできて破裂する。
僕も少し吹き飛ばされるが、まったく問題はなかった。
すぐに立ち上がって周囲の気配を感じ取り、三つの気配を確認する。
「三つ!?」
「二人は『影武者』っぽいね。でもおかしい……どっちも剣に当たり判定があった。一人はツタを切ったし、もう一人は宥漸君を攻撃した」
「それってもう偽物とかじゃなくない?」
「実質三対二だね。加えて相手の二人は無敵」
「卑怯だ!!」
そんなのズルだぁ!
あ、でも剣を壊せななんとかなるのかな?
ていうか本物出てこないんだけど!
気配的に居る場所は分かるんだけど……邪魔されていけないかも。
あっ、『ツタ縄』で追いかけたらいいじゃん!
「『ツタ縄』!」
「まって宥漸君! 気配があるのはおかしい! 本体は気配を隠しているはずだから!」
「むぅ! そ、そうか!」
そ、そういえばアマリアズがさっきそんなこと言ってたな……。
ってことはあの人『影武者』を三人出してるって事?
でもどうして一人はあそこで固まっているんだろう……?
すると『影武者』二人が同時に動き出して僕から離れた。
走っていった方角は……アマリアズの方だ。
ああ!
あの人アマリアズから最初に攻撃する気だな!!
そうはさせない!
「『ツタ縄』!」
「フッ!」
「はっ!」
「!? むぅ!」
やはりツタは簡単に切り落とされて使い物にならなくなる!
周囲にあるツタもほとんど使っちゃったみたいだし……だったら僕が『爆拳』を使って近づけばいい!
地面に『爆拳』を撃ってアマリアズに迫る『影武者』二人に接近しようとしたところで、三人目の『影武者』が動き出した。
スッと気配が消えた瞬間、僕の目の前に出現する。
大きく振りかぶった長剣を全力で振り抜き、僕の胴体へと直撃する。
く、空中を飛んでたから回避できなかった……!!
でも、でもどうやってこんな急に近づいてきたの!?
剣が振り抜かれると僕はアマリアズとは真反対に吹き飛ばされた。
空中で『爆拳』を使用しての空中移動はまだ身に付けていないため、体勢を立て直せない。
そのまま地面にぶつかってしまい、ごろごろと転がってしまった。
すぐに体を起こしてアマリアズを見てみると、既に三人の『影武者』に囲まれている。
同時に剣を振りかぶって三方向から攻撃を仕掛けるつもりのようで、あれをアマリアズが回避でいるとは到底思えなかった。
「アマリアズ!!」
アマリアズに手を伸ばして声を出す。
だが無慈悲にもその斬撃はアマリアズへと直撃してしまった。
一つは剣の腹で背を叩き、一つは右足の関節部に直撃し、一つは柄頭で頭を突いた。
三方向からの攻撃により、アマリアズは空中で踊って吹き飛ばされる。
地面に力なくドシャリと響いた音が、僕の耳にも届いた。
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