2.23.友達のピンチ


 僕はとにかく混乱していた。

 さっきまで姫様と手遊びで遊んでたんだけど、急に姫様が誰かと話はじめて……それがウチカゲお爺ちゃんで……。


『急でごめんだけど今からウチカゲの所に行ってもらうね!』


 って言って、僕の目隠しを魔法で取ってからなんか変な技能を使った。

 そして気付いたらアマリアズと一緒に修行していた森に居て……来るや否やウチカゲお爺ちゃんが僕を投げるって言ってる。

 ちょっと意味が分からなさすぎる。


 目が見えるようになったのはまぁありがたいけど、なんかすごいいやな気配がビンビンするんだけど!

 よ、四匹……? 

 いや六匹くらいの気配がある!

 どれもアマリアズを大怪我させたベチヌくらいの奴だけどなんでそんなのがいっぱいいるの!?

 それでなんでウチカゲお爺ちゃんはそれと戦ってる訳!?


「え、っと? えっと?」

「話は後だ宥漸。先程アマリアズという子供が攫われた。お前なら時間を稼げるはずだ。急行してアマリアズを助けてくれ」

「あ、アマリアズが!?」

「む? 知り合いか? だったら話は早い」


 ガッ。

 ウチカゲお爺ちゃんが熊手を収納したあと、僕を掴んだ。


 ……?

 え、待って待って。

 投げるって本当に言葉そのままの意味なの?


「ここは任せろ。向こうは頼んだ」

「えっえっ」

「はっ!!」

「おおおおわああああぁぁぁぁ……──」


 声が遠くなっていき、最後には聞こえなくなる。

 宥漸を投げ飛ばした余波で周囲の木々が風圧で揺れて少しの間騒がしくなるが、次第に静かになって獣の声の方が大きくなった。


 向こうは任せるしかない。

 こちらを何とかできるのは自分だけだと、ウチカゲは再び武器を構えた。


「さぁ、子供たちが居なくなったことだし、準備運動はここまでで良いな?」

「──(コクリ)」


 その言葉に『闇媒体』は深く頷き、再び変形する。

 どろりと溶け、ウチカゲの手に戻ってから姿を形成し、巨大な日本刀のような姿になった。

 形が整ってウチカゲの手にそれが握られると、先ほどまでとは違う重圧が魔物たちに付与される。


 その変わりように地面を歩く三匹の魔物は一歩だけ後ずさる。

 魔物の……というより、獣であった時の本能が警告を発し続けていた。

 だがその警告は無視をせざるを得ない。

 ローブの人物に課せられた枷を外せない以上、彼らはこの場から撤退することはできないのだ。


 ウチカゲがすり足で構えを取り、『闇媒体』で作った大きな日本刀を中段に構える。

 久しく握っていなかったが、握ればその使い方が自然と頭に入ってきた。


「『闇媒体刀剣変化、天打』」


 すっと腰を落とした瞬間、ウチカゲは魔物との間合いを潰していた。



 ◆



 投げ飛ばされて空中を飛んでいる中、僕は考えていた。

 こんな状況ではあるが、ようやく落ち着きを取り戻し始めて現状を理解することができていた。


 いや、うん。

 なんでこんな状況で落ち着けるかっていうのはよく分かんないんだけどね。

 でもアマリアズがピンチっていうことは分かった!

 だったら助けに行かないと!

 でもこの状況には納得できていないけどね!


 何本か行く手を樹木が邪魔していたのだが、それは僕の爆拳で壊した。

 ぶつかって勢いが止まったら意味ないからね!

 ……でもウチカゲお爺ちゃんは見当をつけて僕を投げたのかな?

 そうじゃなかったらどこで止まればいいか分からないんだけど。


 すると、二つの気配を感じることができた。

 一人は知らないけど、もう一人はアマリアズだ。

 どうやらこのまま真っすぐ行けばそこに辿り着くらしい。

 僕は気を引き締めて、アマリアズを連れ去ろうとしている人物を警戒する。


 どうやらアマリアズは意識があるようで『空圧剣』を何度もローブの人物に刃を振るっていたようだったが、まったく効いていないらしい。

 破裂させないのは自分もその攻撃範囲にいるからだろう。

 今のところアマリアズだけではローブの人物から逃げるのは難しいみたいだ。

 だったら僕が蹴り飛ばす!!


 相手も何かが接近してきていることに気付いたようだったが、目視で確認するより僕が接近する方が早かった。

 ローブの人物が振り向いたところで、僕の蹴りが見事に直撃する。

 本当は『爆拳』を使って倒したかったけど、アマリアズが近くにいるので爆発は危険だ。

 なので初撃は蹴り一発を喰らわせて、アマリアズを解放させることに専念する。


「おごっ!!?」


 鈍く鋭い音が鳴り、ローブの人物は吹き飛ばされてアマリアズを手放した。

 手に『空圧剣』を握ったまま受け身を取り、僕の方へと逃げてくる。

 特に外傷はないようで、体勢を立て直したらすぐに『空圧剣』をローブの人物へと向けた。


「大丈夫!?」

「助かったよありがとう!」

「あの人はなに!?」

「私の技能が目当てらしい! ……あっ」

「アマリアズ技能持ってたの!?」

「あっはっは~」


 ちょっと何呑気に笑ってんのさ!

 だったら僕も技能持ってるんだから危ないかもしれないじゃんっ!

 っていうか何であの人技能のこと知ってるの!?

 もしかして凄い長生きしてる人なのかな……。


 いや、何にせよ僕の友達に危害を加えたことに間違いはない。

 向こうはアマリアズに危害を加えるつもりがないのが救いだったかな。

 とりあえず無事に助けることができた。


 でもこの状況……。

 相手は大人だし、足の遅い僕たちが逃げても意味ないよね。

 それに、ウチカゲお爺ちゃんにこっちを任せられてるんだ。

 あのローブの人をやっつけるぞ!


「まぁ話は後でいいや! アマリアズ、逃げるのは無理だよね?」

「無理。でもあいつから話を聞きたいからできれば生け捕りがいいな。殺しちゃダメだよ」

「ひ、人には死んでほしくないな……!」

「でも手加減できる相手じゃないよ。あいつ、ウチカゲお爺さんの一撃を耐えたんだ。どうやらいい防具を付けているみたいでね」

「な、なるほど……」

「ま、本気でやるくらいが丁度いいと思う。あと『影武者』っていう魔法を使ってくる。簡単に言えば分身。本体は私の『木化け』みたいに気配を消せるみたいだから気を付けて。見分ける方法は“攻撃しても傷がつかない奴”が偽物ね」

「了解!」


 そこまで分かったら何とかなるかな!

 よし、やるぞ!


 すると、奥の方から草を踏みつける音が聞こえてきた。

 どうやらずいぶんと怒っているらしいということが歩き方で分かる。

 強い殺気と苛立ちがローブの人物から溢れていた。


「この……ガキどもがぁ……! 何度も何度も邪魔しやがって……! もう無傷で連れていくのは止めだ!! 片足くらい切り落として大人しくさせてやる!! ああ、今日はなんてついてねぇんだクソッ!!」


 何処からか取り出した長剣を乱暴に振るい、大きな巨木を両断する。

 ゆっくりと倒れていく巨木が地面にたたきつけられた瞬間、ローブの人物は構えを取った。


「頑張ろう宥漸君。君が居れば何とかなる」

「分かった!」

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