2.21.Side-ウチカゲ-増援到着
幾つか聞いたことのある鳴き声がウチカゲの耳に届いた。
そのすべてが魔族領に棲んでいる魔物の泣き声であり、それが的確にこちらの位置を把握して向かってきているようだ。
近くにいたアマリアズもその鳴き声に聞き覚えがあり、若干顔を青くする。
「べ、ベイローダーとメチック、ディモールにバデバン……」
「詳しいな」
「今の私じゃ一匹倒すのも無理だと思う……」
「使えそうな技能はあるか?」
「……『空圧』っていう技能がある。でも私の魔力量じゃまだ使えない……。使えるのは『空圧剣』と『空気圧縮』。あと『空弾』っていう技能」
「一番魔力使用量が少ないのは?」
「『空弾』だよ」
「ではそれを連射しろ。私であれば避けられる」
鳴き声が近づいてくる。
たった四匹の魔物ではあったが、どれも強力な魔物でありウチカゲでも手を焼く存在が一匹いた。
あれだけは野放しにしてはいけない。
もう片方の足があれば、まだ何とかなったかもしれないが……。
しばらくの休息のお陰で、アマリアズは技能を発動させることができるまでに回復した。
骨は折れていなかったようだ。
そのことにほっとしながら、もう少しだけ痛む背中を庇いながら『空弾』を展開する。
「名前はなんという?」
「アマリアズ」
「私はウチカゲだ。ではアマリアズ、君は魔物に詳しいようだな。先程口にしたベイローダーとバデバンについて教えてくれ。私はその魔物を知らない」
「分かった」
前方に警戒しながら、アマリアズはその二匹の魔物の説明をする。
「ベイローダーはイノシシを三倍に膨れ上がらせたような赤黒い魔物。突進攻撃に『フライングバッシュ』っていう魔法を使うはずだよ。本体より少し前に当たり判定がある」
「レッドボアが進化した存在か……」
「バデバンは六本脚のキツネみたいな白い魔物。幻影魔法を使うから注意が必要だよ。攻撃すれば消えるけど、そのタイミングで襲ってくることが多いから遠距離攻撃で消すのが効果的。ちなみに口は横に開く」
「理解した」
この二匹の中でウチカゲが注意を払わなければならないのはバデバンだ。
幻影を使用する魔物は基本的に厄介な存在が多い。
接近戦を得意としているウチカゲではあったが、今からあの四体とまともに戦うのだ。
その中に幻影が混じっていたとしても、気付けるか怪しい。
だがそれよりも、他の二体の方には特に警戒をしなければならなかった。
ディモールとメチック。
ディモールは翼を生やし、濃い紫色をした狼の様な魔物だ。
毛はなく硬そうな、それでいて柔らかそうななんとも気色の悪い皮を有しているのではあるが、それが斬撃と魔法攻撃をある程度緩和させる盾となっている。
過去に一度戦ったことがあったが、当時は自分の全力をもってしても傷を付けられなかった。
おそらく、この世界のどの様な攻撃にも耐えられるように進化を遂げたのだろう。
しかし弱点はある。
眼球や口の中といった場所は気色の悪い皮に覆われていない。
そこを狙うことができれば、簡単に倒せるはずだ。
そしてもう一匹の魔物、メチック。
この存在が一番厄介だ。
大きな鷲のような姿をしており、大量の羽毛が体を覆っている。
体に炎を纏うことができる魔物で、その炎は鉄に纏わりつく性質を持っていた。
さながら磁石の様に炎が鉄に向かって飛んでくるのだ。
炎なので触れれば熱いし火傷もする。
鉄製の武器を持っている時点で急に劣勢状態からスタートしてしまうことになるのだが、メチックは炎を纏えても飛ばすことはできない。
なので接近する必要があるのだが……十メートル以内に近づかれると炎が鉄に向かって飛んでくる。
速度の速いメチックは安全圏から炎の攻撃範囲に入ることができるのだ。
いくら速いウチカゲであっても、その範囲は少しばかり広すぎた。
それにもしメチックが味方を守るためにその場に滞在すれば、半径十メートルは自動攻撃の範囲内となる。
「まったく、どこぞの誰かさんを思い出させる炎だ」
ウチカゲは姿勢を低くし、両腕を脱力させてぶら下げる。
アマリアズは言われた通り『空弾』をいつでも撃てるように前方を警戒した。
狙うのはメチックとバデバン。
作り出された幻影は遠距離攻撃で撃ち抜けば無力化される。
だがそれよりも今回はメチックを近づけさせないようにするのが一番の大仕事になるだろう。
魔物のことをほとんど知っているアマリアズはそれをすで理解していた。
炎を纏っているのであれば、この暗い空間では良く目立つ。
加えて『空間把握』を展開して相手の位置を正確に割り出した。
「前方にディモールとベイローダー! その上にメチック! 右手に三匹のバデバン!」
「まずベイローダーを仕留める。次にディモールだ。その間残りの二匹を押さえてくれ」
「早めに! 早めにね!!?」
「分かっている」
メチックが近くにいるのが少し不安だが、まずは大きな獲物をしとめるのが先だ。
数が減れば、思考を減らせる。
ウチカゲはとんとん、と義足の付け根を軽く叩く。
久しぶりに技能を使うが、耐えてくれるかどうか怪しいところだ。
だがこれは今まで何度も改良し、様々な鉄を使用して強度を上げてきた最高傑作。
そう簡単に壊れないだろうと、ひとまず義足を信じることにした。
「さて、雑魚共。参るぞ。『闇媒体』『鬼人瞬脚』」
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