2.20.Side-ウチカゲ-占いの子供
白い角に白い髪の毛、とても老齢な鬼と呼ばれる存在が腕に熊手を装備してローブの人物へと襲い掛かっていた。
ローブの人物も自分の得物を取り出してその攻撃を防いだのだが、アマリアズはそれを見て驚愕した。
いくら老齢とはいえ鬼の一撃をローブの人物は凌いだのだ。
普通の人間ができる技ではない。
鍔迫り合いをしていても、一切引けを取らずに鬼と対等に渡り合っている。
アマリアズと戦っている時、このローブの人物は全然本気を出していなかったらしい。
実際、本物と偽物を見分けられなかったのだ。
気配も感じることができず、ただ遊ばれていたことを痛感する。
苦悶の表情をしているアマリアズを横目でちらりと見たウチカゲは、姫様であるヒスイの言葉を思い出していた。
『数年後、宥漸ちゃんの未来に欠かせない人がこれから現れる。宥漸ちゃんより年下だけど、年相応の性格はしていないわね』
この言葉を聞いてから五年が経った。
なぜこんな所に子供がいて、なぜ襲われているのかという点を考えてみれば、明らかに何か大きな価値がこの子供にはあるということが分かった。
それに、見るからに宥漸よりも年下だ。
まだ確証は持てないが、ヒスイが言っていた事と一致している。
そしてここまで近づいてようやくわかった。
この子が『操り霞』のような気配を出した人物だということが。
名前も知らない子供ではあったが、ここでこのローブの人物に奪われてはいけない。
ウチカゲは力の入れ方を変更し、相手の剣を押し返すようにして持ち上げる。
急に腕が上がったことに慌てたローブの人物は咄嗟に身を引いた。
賢明な判断だ。
もしそのまま力で押し返そうとしていたのであれば……ウチカゲが今装着した左腕の熊手に切り裂かれていただろう。
「まったく、とんだ拾い物だな」
「ず、ずいま、ぜん……」
「喋るな。そのまま休んでいろ」
ウチカゲはアマリアズの前に守るように立ち、熊手を構えてローブの人物を睨む。
「この子に、何か用があるのか?」
「ああ、もちろんだ。だが抵抗されたからな。少し乱暴だが無理矢理連れていくことにした」
「目的はなんだ」
「ふふふふ、お前は知らねぇかもしれないが、そいつは技能を持っている。技能を使える奴が、俺たちには必要なんだ」
「私が言うのも何だが、そこまで話してもよいのか?」
「ああ、問題ねぇ。てめぇの太刀筋は見切ったからな」
「ほう。よし、では……やって見せろ」
ズンッ……!!
ウチカゲが相手に殺気を放ち、静かに歩いていく。
ビリビリとするような気配が周囲を覆い、地響きすらしているような気がする。
静かに歩いているはずなのに、その一歩は巨大生物が思い切り地面を踏み抜くような感覚すら覚えた。
久しぶりに挑発されてウチカゲはご立腹だった。
耐性がないというわけではなかったのだが、どういう訳か今回は感情が制御できない。
少しばかりの理性でその理由を考えてみれば、すぐに分かった。
──こいつが、宥漸にベチヌをけしかけた人物。
気配で分かる。
ローブの人物から微かにではあるがベチヌ特有の気配が纏わりついていたのだ。
一度戦ったことがあるからこそ、この気配は覚えていた。
いくら宥漸が無事だったとはいえ、許しはしない。
「チッ……! 本質持ちの鬼かよ、くっそ……!」
「無駄口厳禁」
「ぐんうぅ!!」
瞬時に肉薄したウチカゲが攻撃を繰り出すと、ローブの人物は咄嗟にその攻撃を受け止めた。
だが体はその勢いに押し負けてしまったようで、ズザーッと滑って勢いを何とか減らす。
とはいえそこで追撃を止めるウチカゲではない。
滑っている間にも攻撃を仕掛け、腹部に蹴りを喰らわせた。
渾身の蹴りローブの人物を吹き飛ばし、地面を抉って木々を二十本へし折ってしまう。
とんでもない威力にアマリアズは口を開けて驚いていた。
過去に一度悪鬼となった鬼と戦ったことはあったが、それと同等の威力をウチカゲは有していたのだ。
片足が無くなっているのにも拘らずこの威力を出せる鬼は、今の前鬼の里にはいない。
「ふむ、自然破壊は良くないな」
「ぐぅ……まだ、あいつ……まだ生きてる……!」
「分かった」
アマリアズの言葉を聞いてウチカゲは頷く。
自分の攻撃を二度受け止めた人物だ。
そう簡単には死なないだろうと踏んでいたが、あれを喰らって生きているのには少し感心した。
なかなか、良い魔道具を保有しているようだ。
「……あれはテキルの……。ふん、やはり悪用されていたか」
防御力を極限にまで引き上げる魔道具。
そういわれているものではあるが、実際は魔力で体を覆って硬質化させているだけだったはずだ。
魔力が切れれば効果はなくなるのだが……どうやら攻撃される瞬間にのみ発動するように改良されているらしく、魔力消費はとても少ないらしい。
昔、何度か試作品を見せてもらったことがあったが、ここ三百年間同じ機構が使われているということはこの世界の魔道具技術は発展していないようだ。
さて、あれをどう突破したものかと考えていると、足元にナイフが飛んできた。
回避するまでもない攻撃ではあったが、猛烈に嫌な予感がしたためアマリアズを抱えてその場を離脱する。
少し離れたところで振り返ってみると、そこには人がすっぽり入るくらいの紫色のワープゲートが開かれていた。
「……そういうことか」
「ゲホッ。あ、あれが……ベチヌを連れてきたカラクリってことね……!」
ワープゲートの奥から、酷く低い唸り声が幾つも聞こえてきた。
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