2.14.狩り修行


「狩りかぁー……。でもそれって修行なの?」

「目が見えない時点で結構難易度の高い修行してると思うけどね。でもでも、本題はそこじゃない」

「?」

「さぁさぁ行ってらっしゃい!」


 得意げにそう言ったアマリアズは、なんだか楽しそうだ。

 なにを考えているのかはよく分からないが、狩りであれば邪魔してくることはないだろう。


 でも……狩りかぁ。

 気配も感じ取れるようになったし、大地の加護のお陰で周囲の状況を把握することもできるようになったから、狩り自体はそんなに難しくない。

 ベチヌみたいな魔物が出てこなければ、だけどね。


 とりあえずお腹が空いたので、早速狩りへと向かうことにする。

 気配を感じ取ってみれば、周囲に数体の獣がいるということが分かった。

 これも大地の加護のお陰なのだろうか?

 ずいぶんと鮮明に獲物の位置を把握することができた。


 すごいなぁ……。

 これなら簡単に獲物を狩ることができそうだぞ!

 よしよし、一番大きな獲物を探してみることにしようかな。


 僕だったら襲われても大丈夫だろうし、挑戦してみよう。

 あれだけ危険な魔物を拘束できたんだから、今回も『ツタ縄』を使って狩りをしよう!

 えーっと、この近くにいる獲物で一番大きそうな気配は……あっちか!


 気配を感じ取り、早速走ってそちらの方へと向かう。

 大地の加護のお陰で木々の位置や石が転がっている場所がまるわかりだ。

 前みたいに木の枝にぶつかったりすることも、これでなくなる。

 ぴょんと根っこを飛び越えて得物へと近づいていった。


 気配がどんどん濃くなってきた。

 この辺で止まって、様子を確認してみよう。

 バレていたら意味ないしね。


 そう思って目隠し越しに目を瞑る。

 するとより鮮明に周囲の状況と獣の位置を把握することができた。

 そこに居たのは自分くらいの大きさのイノシシ。

 地面を掘って食べ物を探しているようだ。

 どうやらこちらにはまだ気付いていないらしい。


 よしよし。

 意外と気付かれないで近づくことってできるんだなぁ……。

 ああ、そういえば相手より先に相手の位置を把握する、だったよね。

 確かに自分が相手の位置を把握しておけば、できる事が一気に増える。

 今回もずっとあのイノシシの姿を捉え続けてたからここまで近づけた。

 やっぱりウチカゲお爺ちゃんの言うことは間違ってないんだよね。

 修行方法はどうかと思うけど!


 まぁいいか!

 よし、あのイノシシがこっちに気付く前に、捕獲してしまおう!


 僕はスッと手をイノシシに向けて、狙いを絞り込む。

 周囲のツタの位置を『ツタ縄』で確認し、捕獲するのに十分な量のツタを用意したところで、一気に飛び掛からせる。

 ツタで一気に体を縛り、グルグル巻きにして拘束した。

 イノシシは急にツタが襲ってきたことに反応することができなかったようで、成す術なく拘束されてしまう。

 しばらく暴れていたが、ツタが完全に体を拘束して動けなくなってしまった様だ。


「よっし!」


 結構簡単に捕まえられた!

 じゃあこのイノシシをアマリアズの所に持っていこう。


 ウチカゲお爺ちゃんからシメ方?

 っていうのを前に教えてもらった気がするんだけど、覚えてないや……。

 新鮮な状態で持って行って、シメ方教えてもらおう。


 イノシシをツタでグルグル巻きにした状態のまま、引きずって先ほどの焚火の場所へと戻る。

 戻ってみると、アマリアズは焚火をつついていた。

 僕が戻ってきたことに気付くと、手を振ってくれたようだ。


「お帰り~」

「これでよかった?」

「あはは、やっぱりすごいの獲ってきたね」


 立ち上がり、手の中で何かを作ってそれを僕に手渡してくる。

 なんだろうと思って受け取ってみると、それはあの時使った短剣だった。


「……? えっと?」

「さぁ、ここで宥漸君に私から出す最後の目隠し修行です」

「最後なの?」


 け、結構終わるのが早い……!?

 もっと長く続くものだと思ってたんだけどな……。

 でも早く終わるんだったら、今度こそウチカゲお爺ちゃんにリベンジできるぞ!


 ……だけど、この短剣を使って何を修行するんだろう?

 もう周囲の状況を把握できるようになってるし、気配も感じ取れるようになってきた。

 殺気や危険な攻撃も分かる。

 それ以外に何か必要なことってあるんだろうか?


「さて宥漸君に問題です」

「うん?」

「君は今色んな気配を感じ取れるようになったよね。遠くに居たイノシシも気配だけで場所を把握した。敵からの攻撃、殺気も感じ取れるようになった」

「うんうん」

「では、最後に足りないものはなーんだ?」

「ええ?」


 た、足りないもの?

 戦闘経験においてはこれだけで十分すぎる気もするんだけど、一体何が足りないって言うんだろう……。

 んーっと、んーっと……。

 え、ちょっと待って本当に分からないんだけど。


 首を傾げている僕を見て、アマリアズはくすくすと笑っていた。

 しばらくしても答えがまったく出そうになかったので、仕方なく答えを教えてくれる。


「正解は……日常生活に使用する気配」

「……ど、どういうこと?」

「宥漸君が把握できるようになったのは、生きている生物から発せられる気配と、地形のみ。だけどその短剣からは気配を感じ取れないんじゃないかな?」

「え?」


 アマリアズの言う通り、確かにこの短剣は渡してもらってようやく何かを理解することができた。

 目が見えていたのであれば、手に触れずとも何か分かったはず。


「……え、ちょっと待ってもしかして」

「私が最後に出す目隠し修行……。それは、目隠ししたまま日常生活を送れるようになること!」

「ええええええ!?」

「では手始めにイノシシの解体からどうぞ」

「ええええええ!!」


 そ、そんな無茶なああああ!! 

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