2.13.大地の加護


 しばらく泣いていたが、次第に落ち着きを取り戻していった。

 とはいえなんだか修行する気にはなれず、その場に座ってぼーっとしている。


 アマリアズは先ほど仕留めたベチヌを本格的に解体していた。

 それを今日のお昼ご飯にするらしい。

 とはいえ、先ほど僕がめった刺しにしてしまったので使える肉が少ないようだ。

 目が見えないので正確に解体するのはどう頑張っても無理なので、その辺は許して欲しい。


 っていうか……魔界にいる魔物って食べられるの?

 なんか……あんまり美味しそうなイメージがないんだけど。


 だがアマリアズはそんな心配をよそに解体を続けていく。

 犬のミイラみたいな姿をしているベチヌではあるが、実は内臓はしっかりと存在していて、そこにある肝臓が珍味なのだ。

 一匹から取れる肝臓は少量だが、焼いて食べるだけでも結構おいしい……らしい。

 だけど僕が内臓を初めに傷つけてしまったため、少し匂いがきついかもしれないとの事。


「……」

「ふんふん~」


 鼻歌を歌いながらアマリアズは解体を続けていく。

 もう本当になんともないようだ。

 だが先ほど吹きとばされているところを感じ取っているので、なんだか変な感じだ。

 普通の人はすぐにあそこまですぐに回復できないし、そういう魔法も僕は知らない。


 あれは本当に普通の魔法なのだろうか?

 えっと、『殺吸収』だっけ。

 敵を殺して回復する……っていう魔法? 技?

 んー……。


「ねーアマリアズー」

「お、元気になった?」

「うん。さっき使ったって言ってた『殺吸収』って、本当に魔法なの?」

「魔法だよー。とても特殊な魔法だから使える人は少ないかもねー」

「技能じゃないの?」

「いやいや、技能じゃないよ」


 笑いながらそう答えたアマリアズ。

 そこで解体が終わったらしく、僕の方に戻ってきた。


「よし、じゃあ宥漸君はツタ縄で焚火に使う枝集めて来てくれる?」

「分かった。『ツタ縄』」


 技能を使用すると、ツタが動き出して落ちていた枝をたくさん集めてくれた。

 案外早くたくさん集まり、十分な量の枝を確保できたようだ。

 するとそこで、何か違和感を感じた。


「……あれ?」


 木の位置が分かる。

 どのツタが動いているか分かった。

 周囲の石の位置もしっかりと理解でき、今自分が森の何処にいるかも把握することができてしまった。


 急な情報量の多さに戸惑いを隠せなかったが、今僕は目隠しをしていて周囲の様子は目視で確認はできない。

 だが今は目を使わずとも、周囲にあるほとんどのものの位置を把握することができていた。

 アマリアズの位置はもちろんのこと、近くにいるであろう動物の位置までしっかりと把握できる。


 なな、なにこれ!

 すごい!


「おお!?」

「え? どうしたの?」

「な、なんか全部分かる! なにこれ!」

「あー、なるほどね。宥漸君がそんなに早く周囲の気配を感じ取れるようになるわけがないから、多分それは『大地の加護』っていう特殊魔法だね」

「だいちのかご?」


 聞き返すと、アマリアズは小さく頷いた。

 焚火を組みながら、その魔法について説明してくれる。


「『大地の加護』は立っている土地の性質を読み取って自らの力にできる。っていうものなんだけど、周囲の状況を把握することができる魔法でもあるんだ。ベチヌを倒して少なからず経験値が入ったんだろうね」

「えー、じゃあ修行の成果って訳じゃないのかー」

「いやいや、魔法っていうのは一生ものだし、君のものだから修行の成果はあったと思うよ。なんなら私は宥漸君にそれを習得してもらうために頑張ってたわけだし」

「そうなの?」

「そうそう。じゃ、焚火に火をつけてくれる?」


 小さな爆拳を使って焚火に火をつける。

 火種を大きくして、いい具合の火加減になるまで調整していく。


 えーと、とりあえずこれは喜んでもいいのかな?

 ていうかこれ魔法じゃなくて技能だよね。

 これがあったらもう僕前鬼城に帰ることができそうだな……。


 でも帰っちゃったら、またウチカゲお爺ちゃんに違う修行をさせられそうだし、そうなったらアマリアズと一緒に修行できなくなっちゃう。

 それは嫌なので、しばらくは帰らないでおくことにしようかな!


「はい、どうぞ」

「え? もう焼けたの?」

「炙るくらいが丁度いいんだってさ。さぁ珍味っていうけど、どんなもんかな……。いただきまーす」

「あ、僕も! いただきまーす!」


 一緒にベチヌの肝臓の炙り焼きにかぶりつく。

 少しばかり臭みがあるのは目をつぶることにする。

 一口食べると、とんでもない刺激が二人に走った。

 かぶりついた状態で制止し、顔を青くする。


 この料理の感想を一言でいうのであれば……。

 ──くそ不味い。

 である。


「「うええええ!!」」


 即座に口の中にあった肉を吐きだし、用意してあった水を口に含んでうがいする。

 苦味、渋味、酸味が混じったようなひどい味が口の中いっぱいに広がった。

 舌が驚いて縮んでしまいそうだ。

 水でうがいをしても口の中にまだ味が残っている気がする。


「くっそロクナログあいつ騙しやがったな!! ぺっぺっ!!」

「お、おええ……。な、なにこれ……。大人の人って……こんなの食べるの……?」

「いや……それは違うと思う。うん」


 こんなにひどい味の食べ物を大人の人が食べられるとは僕も思わないけど……。

 でもこれじゃあ、お昼ご飯にはならないなぁ……。


「げっほ。はぁ、仕方ない……。宥漸君、次の修行に移ろう!」

「でもお腹空いたよ」

「フフフフ、次の修行は……狩りだ! 今の君なら何とでもなるはずだよ!」

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