第二章 友達と修行

2.1.修行の成果


 少し強めの風が森の中を通り抜けていく。

 草木が揺らめき、優し気な音を奏でていた。

 森の中には虫や動物も多く生息していて、羽音や鳴き声なども耳をすませば聞こえてくるだろう。


 とても自然が豊かな森だ。

 しかし少しばかり木が密集しすぎているだろうか?

 だがここは自然林。

 人の手が一切入らず、自然の力だけで構築された森だ。

 そういった場所は何故だが木も痩せず、地面に深く根を下ろしている。


 そんな根っこたちに仲間入りをするかのように、一人の人物が地面に埋まった。

 轟音が轟き、地面に沈む。

 普通であれば致命傷となりえる攻撃を喰らったのにも関わらず、その子は少しむくれた表情で這い出した。


「むぅ……捕まえられない」


 ウチカゲお爺ちゃんめ……思いっきり吹っ飛ばすんだもんなぁ。

 僕じゃなきゃ大怪我してるよ本当に!

 よーいしょっと!


 腕の力を使って埋まった地面から飛び出す。

 スタッと着地した瞬間、咄嗟に身を低くして攻撃を回避する。

 まだ修行終わってないんだった……。


 黒い粘液質の塊が、大きな樹木にへばりついている。

 顔らしい場所はないが、それは僕を見つめるようにして狙いを定めて来た。


 あれはウチカゲお爺ちゃんの『闇媒体』という技能だ。

 不定形で色んな姿を取らせることができ、尚且つ自分から離れて行動することもできる。

 時には猿、時には剣、時には人……といったふうに、姿を取れないものはほとんどないはずだ。

 あれ単体で動く場合は、不定形か動物の姿をしているのが基本なんだけど、僕を追いかけてくる時は一番火力の出る粘液質の塊形態で襲ってくる。

 今さっき地面に沈められたのは、あの闇媒体に思いっきり殴られたせいだ。


「まったく勝てる感じしないんだけど……」


 この修行、実は既に五年と半年行っている。

 特訓を開始したのは僕が七歳になる手前……なので今僕は十二歳になっていた。

 最近はこれに何の意味があるのか分からなくなってきたけど、ウチカゲお爺ちゃんもお母さんも『戦えるようになっていた方がいい』というからずっとやっている。

 そんな必要、あるのかなぁ……?


 と、そんな事を考えていると闇媒体が体を収縮しはじめた。

 あれは突撃の合図だ。

 止まっていたらただの的になってしまうので、すぐに走り出す。


「『爆拳』!」


 ボンッ!!

 足元に爆拳を撃ち込んで大きく跳躍する。

 体がまだ小さく軽いので、大きな爆発でなくても飛ぶことができた。


 もうこの爆拳の扱いにも慣れたもんね!

 他にも技能手に入れてるし、今日こそはウチカゲお爺ちゃんの闇媒体を捕まえてみせるぞ!!


 いつもやっている特訓内容は、闇媒体を完全に捕らえること。

 僕は硬いみたいだから、闇媒体は本気で襲い掛かって来て僕を尽く吹き飛ばしていく。

 これが最近の日課……になってる。

 でも今日は秘策がある!


 その瞬間、腰に強い衝撃を受けた。

 何かがぶつかっているということは分かる。

 その証拠に……またすごい速度で吹き飛ばされていた。


「ぬああああ!! 飛ぶのは駄目だって言われてたんだったああああ!!」


 空中には足場がなく、飛んでいる最中は決めた方向にしか移動することができないので、戦闘に長けているものであればその着地点、及び空中を飛んでいる最中に狙い撃つことができる。

 ウチカゲお爺ちゃんは四百年以上生きている最古の鬼だ。

 戦闘経験が……豊富すぎる!!


「わああああああ!!」


 ボンッガンッバギャギャギャッ!!

 地面に勢いよくぶつかり、岩を砕いてから直線状にあった大木を三本へし折ってしまった。

 闇媒体はウチカゲお爺ちゃんの力の半分を持っている。

 これで半分っていうのが未だに信じられないけど、あれに勝てないと本体で修行はしてくれなさそう。

 うぐぬぬぬぬ……秘策を使う以前の問題だった……。

 よし、今度こそ!


 ひょいっ立ち上がり、肩を回す。

 大木が三本倒れてしまったので視界が悪くなってしまったけど、ウチカゲお爺ちゃんの闇媒体は積極的に攻撃をしてきてくれる。

 探す時間が省けて楽ではあるのだが……本当に今、何回吹き飛ばされたんだろう。

 まぁいいけど!


 がさがさっ。

 倒れた大木の木の中から、枝と葉を搔き分ける音が聞こえた。

 確実にそこにいるはずだ。

 僕はバッと手を向けて、新しく発現した技能を使用する。


「『ツタ縄』!」


 大木に多くから待っていたツタが、急に意志を持ったかのように動き出す。

 即座に音のした方へと飛んでいき、狙った獲物をしっかりと巻き取った。

 だがあれはウチカゲお爺ちゃんの半分の力がある。

 大量に巻き付けない力技だけで抜け出してしまうと思うので、周囲のツタをすべて使用して巻き付かせていく。


 これだけ巻き付ければ絶対に大丈夫!

 捕らえた感触はあった!

 ふふん、これでやっと一本取ったことになるぞ!


「やったぁ! 僕の勝──」


 ズドンッ!!

 横っ腹に慣れ親しんだ衝撃がやってきた。


 どうして、と思ったのだが……吹き飛ばされていく最中に僕が捕らえていたであろう存在を目にすることができた。

 それは……クマリスという大きなリスだ。

 棲み処にしていた木が倒れたから、慌てて巣穴から出てきたのだろう。


「そっちかああああ!!」


 ドゴンッ。

 また、僕は地面に埋められた。




【あとがき】

 執筆の関係で今日から二日に一回投稿になります……すいません!

 次回更新は明後日です!

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