2.2.振り返り
地面に埋まったまま、空を見上げる。
まさか全然違う獲物に『ツタ縄』を使っていたなんて……。
よく考えたらウチカゲお爺ちゃんの『闇媒体』をあんな細いツタで捕らえるっていうのが間違っているのかもしれないなぁ。
はぁー……。
しばらくそうしていると、足音がこちらに近づいてくた。
足音は僕が埋まっている地面の手前で立ち止まり、上から覗き込んできた。
見えたのは、白い角に白い髪をしている老齢の鬼の顔。
あれがウチカゲお爺ちゃんだ。
いつもの和服を着て腕組をしている。
ああしている時は、ちょっとした説教……というより反省点を指摘してくる。
「
「うそー」
「それと、爆拳での空中移動。様になっては来たがまだまだ実践には使えない。現に闇媒体から攻撃を貰っただろう。最低でも三度、空中で爆拳を使用しての移動をこなせるようにならねばならないぞ」
「三回!? 無理無理!!」
確かに空中で移動速度を上げたり、飛んでいく角度を変更するのには相手からの攻撃が当たりにくくはなるだろうけど……。
僕は走って跳躍し、そこから爆拳を使っての空中移動をしている。
一度ジャンプしないと飛距離を伸ばせないのだ。
空中で爆拳を使用しての方向転換なんて、今の僕には無理!
やっとあそこまで距離を延ばせるようになったんだもん!
一回は絶対にできるとして、足場のない空中で爆拳を使用したら、僕がどこに飛んでいくか自分でも分からないよ!
それをできるようになれって言ってるのは分かるけども……。
うう~……でもこれができるようにならないと、ウチカゲお爺ちゃんの『闇媒体』は捕まえられないだろうなぁ……。
今は攻撃を回避するだけで精一杯なんだもん。
おかげで逃げ方はなんとなく分かってきたけど。
ていうか!
「ウチカゲお爺ちゃんに勝てる人っているの?」
「いるぞ。さ、まずは出てこい」
ウチカゲお爺ちゃんが手を差し伸ばしてくれる。
僕はその手を取り、埋まった地面から脱出した。
服についた土汚れを簡単に払い、話を聞くために顔を見る。
「本当に?」
「ああ。お前は知らないかもしれないが、カルナは私と肩を並べて戦ったことがある」
「え!? お母さんって強いの!?」
「特殊な技を持っているからな。とはいえ随分前の話だ。お前を育てていた時期は戦いというものに身を投じていなかった。相当鈍っているだろうがな」
「へ、へぇ……!」
凄く意外だった……。
お母さんがウチカゲお爺ちゃんと一緒に戦える程の技を持っているなんてびっくりだ。
今日もし会うことができたら聞いてみよっと。
「だが、カルナでは私に勝てない」
「じゃあ誰なら勝てるの?」
「そうだな……。この世界で私に勝てる人物は、非常に少ない。私が知っている中でも、五人くらいか。だがあくまでも可能性だ。やるとなれば私が勝つ」
「す、すごい自信だ……」
でもそれって、ウチカゲお爺ちゃんと同じくらい強い人が、世界に五人はいるってことだもんね。
あ、だけどそれも数百年前の話かもしれないのか。
となると今はもっと減っているかもしれないなぁ。
ウチカゲお爺ちゃんの知り合いかぁ~。
ちょっと気になる。
すると、ウチカゲお爺ちゃんが僕の頭の上に手を置いた。
なんだ、と思っていると、優しく撫でられる。
「では話の続きだ。闇媒体との戦闘でどうすればよかったと思う?」
「……んー……。思ったけど、大体僕が見てない方向から攻撃されることが多かった……気がする」
「なるほど。だがそれでは及第点にも届かない回答だ。それは結果。ではその解決策は?」
「解決策? 解決策……」
見ていない方向からの攻撃を何とかする方法なんてあるのだろうか?
少し考えてみたけど、あんまりいい案は浮かんでこない。
……あ、でも向こうが攻撃してくるってことは、ウチカゲお爺ちゃんの『闇媒体』は僕を見ているるってことだよね。
視界を遮れば何かできる……?
「視界を遮る!」
「どこから見ているか分からないのにか?」
「そ、それは……ほら! 僕の爆拳で地面を殴って! 土煙を上げれば!」
「自分を覆い隠すということか。なるほど、悪くはない。が、結局相手の位置は分からないままで宥漸は土煙の中にいるということが相手には分かってしまう」
「あう」
「もう少し根本的な解決策を考えなさい」
「根本的……? もっと簡単な解決策があるって事?」
「うむ」
もっと簡単な……?
てことは、前提から僕は負けているのかな。
見えていない方向からの攻撃を防ぐ方法、っていう考えが間違ってる。
てなると……。
「……相手より先に僕が相手を見つける?」
「その通り。相手の位置が分かれば、攻撃方法、攻撃タイミングなどを間違えることはほとんどなくなる。あてずっぽうの攻撃よりもそちらの方がずっと脅威だ。『闇媒体』は常に宥漸を見ており、確実に攻撃が当たる方へと回り込んで宥漸の視界を何度か切った。見えているか、見えていないかで優勢の度合いが大きく変わる」
……なんか嫌な予感がする。
ウチカゲお爺ちゃんがこうして長い説明をするときは、これを完璧にこなせるようになるまで変な修行を行わなければならない時だ。
爆拳の移動方法確率の時も同じようなことをした。
あの時はクラウチングスタートを何千回も練習したのだが……終わりが見えなさそうで嫌になった記憶がある。
今回も同じ……!
これはヤバイと思って一歩下がろうとしたが、そういえば頭に手が置かれたままだった。
ガッと掴まれ、逃げられなくなる。
「……!」
「私が昔やっていた修行方法を教えてやろう」
「い、いやだっ! 絶対変なのじゃん! 終わり見えないやつじゃん!!」
「私は百二十二年同じ修行をし続けた」
「いやああああああ!!」
ウチカゲお爺ちゃんが和服から長く細い帯を取り出した。
それを高速で僕の頭に巻いていく。
目が完全に隠れてしまい、かた結びで固定されてしまう。
「と、取れない!!?」
「宥漸の硬さは私の全力を耐えうる。ゆえに渾身の力で結ばせてもらった」
「なんでこの帯千切れないの!?」
「そういう材質だ。伸縮性と耐久性に優れており、力加減のできない子供の着付けによく使用される。さぁ、修行開始だ」
「いやあああああ!!」
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