1.15.Side-??-赤子から
一つの家の中で、新たな生命が誕生した。
どの様な場面においても、自分たちの子供が産まれるということは両親にとって何よりも嬉しい事だ。
母親は疲れていたが、子供の顔を見ればその疲れは何処かへと吹き飛び、父親は大号泣して母親と小さな赤子の手を握っていた。
それを見守る産婆の目はとてもやさし気だ。
今生まれたばかりの赤子はとても小さい。
髪の色は銀色だろうか?
まだ毛が少ないので分からないが、白色に近い髪色になるのは間違いなかった。
産婆は大号泣している父親に指示を出し、何かを準備してもらいに行ってもらった。
これで少しは母親を休ませることができる。
あんなにわんわんと泣かれたら疲れていないはずのこちらの方が気が滅入ってくる。
母親はその様子を見て苦笑いした後、赤子を自分の隣りに持って来て寝させた。
まだ大泣きをしているが、それもなんだか可愛いものだ。
だが当の本人はそれどころではなかった。
「
おーいおいおいおい待てや!!
なんっで赤ちゃんからリスタートなんだよおかしいだろ!!
確かに言ったよ?
やり直すことにしましたよ?
この世界立て直すって約束は致しましたけどもさ!!
赤ちゃんからスタートするのはちょっとおかしいだろうがよぉ!!
おいこらウォーゼン!!
お前聞こえてんだろ知ってんだぞ私は覚えているからなお前のこと!!
この世界の主神とか今どうでもいいわ!
なんで赤ちゃんからなんだよ答えろこの野郎!!
精神転移でいいじゃん!!
ちょっと成長している子供選んでそれに私の精神を入れればそれで良かったじゃねぇかよぉ!!
これ、こんの小さな手で何をしろっての!!
歩けもしねぇふざっけんな!!
ウォーゼンお前今度会ったら一発ぶん殴るからな!!
私の!!
覚悟を!!
返せこら!!!!
大声で泣きながら、どうしようもない状況を聞こえない声で愚痴るしかできることはなかった。
赤子の体だというのにしっかりとした自我を既に持っている彼は、分かり切っていることだが普通の人間ではない。
過去に様々なことがあり、こうして人間に堕とされてしまった人物だ。
それに納得はしていたものの、何もできない赤子に精神を送られるとは思っていなかった彼はとにかく怒っていた。
あれだけ濃厚な話をして覚悟もしっかりと決めたというのに、数年は何もできない状況が続く赤子とあっては話が違うと言いたくなる。
とはいえ、ある程度成長した人間の子供に精神を入れる、などといった約束事は一切していなかったので約束を破ったいうわけではない。
それが彼を更に苛立たせた。
ああーくそう!
これどうすればいいのよ……。
私何もできないよ?
「この子の名前は何にするのか決めているのかい?」
「はい。アトアにしようかと思ってます」
ア、しか合ってねぇぞ!!
私の名前はアマリアズだ!!
って、何をこんな人間に対して私は癇癪を起しているんだ……。
人間になって感情の起伏が変わったか?
いやいや、それは昔から何にも変わっていないな……。
で?
この世界は今どうなってるのさ。
それが分からないと何に手を付けていいか分からないぞ。
私たちのせいで半分壊れた世界、であることに違いはないだろうけど……。
どうやったら情報を集められるかね。
とりあえずステータスを見てみるか。
===============
名前:アマリアズ
種族:ヒューマン(元神)
LⅤ :──
HP :10/10
MP :2500/2500
攻撃力:1
防御力:1
魔法力:2600
俊敏 :1
―技能―
攻撃:『空圧剣』
魔法:『空気圧縮』『空弾』
防御:『空間把握』
回復:『殺吸収』
罠術:
特異:『空圧』
自動:
―耐性―
===============
いっ!!!?
緩急激しいなステータスの!!
ていうか技能めっちゃ減ってるじゃん!!
そりゃないよー……。
技能手に入れるところからスタートしないとだなこれ……。
まぁいいか。
どうせ二年か三年くらいはまともに動けないんだ。
今できる技能で、周囲の状況でも探ってみるとにしますかね。
幸い、魔力は沢山ある。
えーと、『空間把握』。
空間把握は自分を中心にしてある一定の距離までにあるものを、見ることなく全て理解できる技能だ。
動いているものはもちろん、置いてある物もすべて分かる。
ただ範囲が少し狭いのがネックなのだが、アマリアズが使った場合、その距離はとんでもなく広くなる。
というより、探る方向を一方方向に伸ばしているだけだ。
技能を少し弄るこれを、確か魔術という。
ここは人間の国か。
えーと、ああ……ガロット王国なのか。
よくもまぁここまで再建できたものだ。
あっ駄目だ考えると罪悪感が。
えーと近くには~……うん、やっぱり前鬼の里があるな。
ここも……なんか広くなってる?
……………ちょっと待てよ?
なんでガロット王国再建できているんだ?
それもこんなに大きくなってしまって。
前鬼の里も昔に比べれば大きくなり、鬼たちも多く住んでいる。
あの事件からすぐに精神転移をしたのであれば、ガロット王国が再建しているはずがない。
前鬼の里も、そこまで大きく変わりはしないはず……。
ちょっと待て!!
これあれから何年後の世界なんだ!!
そこで、空間把握に一人の人物が引っ掛かった。
小さな子供だ。
だがそれは、誰かに非常によく似ており、この世界では珍しい黒色の髪の毛をしていた。
アマリアズは彼を知っていた。
なぜ知っているのかは分からないが、恐らくウォーゼンが精神転移をさせるときに何か記憶を弄ったのだろう。
覚えているとも。
あの子は、あの人の子供だということを。
そして、なぜその子がここに飛ばされてきたのかも、理解することができた。
てなると……。
おおーーーーい!!!!
ここ……こ、この世界……!!
あれから四百年後の世界じゃねぇかくそがああああああ!
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