1.14.爆拳修得?
一拍おいて、音がやってくる。
凄まじい轟音で地面が揺れ、正面にあった塀が吹き飛んでいった。
それは僕も同じで、初めて爆拳を使った時と同様後方に転がっていく。
「うわああああああ!!!!」
ゴロゴロッと地面を跳ねながら転がっていき、遠くにあった石垣にぶつかってようやく勢いを止めた。
もちろんなんともないのだが、少し服が破けてしまった。
だがそれくらいだ。
すぐに立ち上がって、先ほどいた場所を見る。
爆拳を使用した場所は、地面が抉れて拳を振るった方向にあった塀や石垣が壊れていた。
石垣は二の丸へと落ちて少し大変なことになっているらしい。
下から鬼たちの声が聞こえてくる。
「……どうしよ。はっ!? う、ウチカゲお爺ちゃん!!」
「ここだ」
「わぁっ!?」
いつの間にか自分の後ろに立っていたウチカゲお爺ちゃんが、困ったように頭を掻いていた。
まさか一撃でここまでの威力を出せるとは思っていなかったのだ。
どうやら無意識に発動させた時の爆拳は威力が相当抑えられていたらしい。
意識して使用するとここまでの威力が出ると知っていれば、ここを特訓の場にはしなかった。
あとで修理しなければならないな、と心の中で呟いてから腕を組む。
「……ふむ、普通の爆拳よりも威力が高いな……。まぁいい。宥漸、使い方は分かったか?」
「な、なんとなく……」
「一度で成功させられたのは、それが技能だからだ。普通であれば爆発はもっと小さい」
「ていうか、ウチカゲお爺ちゃん大丈夫なの? 僕の真隣にいたのに……」
「……私でなければ、危なかっただろうな」
どうやら爆発の瞬間、ウチカゲお爺ちゃんは危険を察知して逃げたみたい。
光る瞬間まで隣にいたはずなんだけど……。
どうやって逃げたんだろう。
そう言えばあの時……。
僕が無意識に爆拳を使った時もウチカゲお爺ちゃん近くにいたはず。
「ウチカゲお爺ちゃんはどうやって避けたの?」
「宥漸が他の人と違うように、私も他の鬼とは少し違う。宥漸はとにかく防御力が高く、硬い。私は……自分でいうのも何だが……速い」
「速い?」
その瞬間、フッとウチカゲお爺ちゃんの姿が消えた。
驚いたのも束の間、後ろから肩を叩かれて振り返ると、そこにウチカゲお爺ちゃんがいてまた驚いてしまった。
左足は義足だが、自分の速度にある程度耐えられる構造の義足を何とか作り出し、ようやくここまでの速度を出しても壊れなくなった。
だがこれもまだまだ試作品で、本気で移動すると簡単に壊れてしまう。
とはいえ短い距離であれば大丈夫だ。
このように簡単に人の後ろに回ることができる。
これもまだ本気ではないが。
「わぁ!! すごい!!」
「そうか? まぁいい。今は私のことよりも、宥漸の方が重要だ。今度は威力を調整してみようか」
「ええー、もっとウチカゲお爺ちゃんの技見たい」
「鬼人舞踊無手の構えを習得してもらわなければならん。それはまだまだ先の話。ほれ、構えてみよ」
「はーい」
言われた通りに構えを取り、爆拳の練習を行う。
今度は威力調整……。
さっきの爆発を、小さい爆発にすればいいはずだから……。
「……ねぇ、ウチカゲお爺ちゃん。調整ってどうやるの?」
「基本的にはイメージだ。地面を抉る様な爆発ではなく、壁に少し穴を開けられる程度の爆発をイメージしてみろ」
「やってみる」
左手の拳を腰につけ、右手を開いて軽く肘を曲げて伸ばす。
足を……これくらいだっけ。
少しだけ開いて、左拳を突く!
ボンッ!
すると、小さな爆発が発生した。
先ほどの様な驚異的な破壊力を持った爆発ではなく、今度は手の少し先で小さく爆発する優しい爆拳が繰り出された。
意外と簡単だった……。
技能ってこんなに簡単に調整ができるんだ。
これだったらもう無意識に発動したりしないぞ!
「大丈夫だな」
「本当?」
「ああ。そこまでできれば、問題はないだろう」
『『ウチカゲ様ぁ!!!!』』
「……」
数十人の鬼たちが、大慌てでこちらへと走ってきた。
そういえば……僕建物壊しちゃったんだった……。
大きな爆発、二の丸に吹き飛んでいった壊れた石垣、消えた塀……。
鬼たちがここまで慌てながら走ってくるのは、これだけで十分だ。
その爆心地に、ウチカゲお爺ちゃんがいるんだから。
えーっと……どうしよう……。
僕がワタワタしていると、鬼たち数人は周囲の警戒をしはじめ、数人が話を聞くために近寄ってきた。
全員が日本刀という武器を腰に携えており、すぐにでも抜刀できるように構えを取る。
「ウチカゲ様! 敵はどこに!!」
「……えっ?」
「おらんよ」
「い、いない!? で、でしたら今し方の爆発は何だったのですか!? 火薬をどれだけ使えばあのような爆発が起きましょうか!!」
「落ち着け。敵はおらぬ。だが爆破をした者はおる」
ウチカゲお爺ちゃんが、僕の頭にぽんっと手を乗せる。
それを見た鬼たちは、僕とウチカゲお爺ちゃんを交互に見やった。
まさかそんなことが?
いやしかしこの子であれば……。
疑いの目と驚きの表情を鬼たちは浮かべている。
彼らの考えは正しいというように、ウチカゲお爺ちゃんは頷いた。
「将来有望だな。宥漸」
「よ、喜んでいいの?」
「もちろんだ」
「……えっと、もしかして……宥漸殿が……今の爆発を?」
「そうだが?」
『『『『ええええええ!!!?』』』』
今日一番の驚愕の声が、一の丸から三の丸まで届いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます