第15話 ぐっとして、ぐわぁぁぁ?

核の場所がわかったところで、もう一度やってみようと、悠夜は気合いを入れた。


ぐっとして、ぐわぁぁ!


声には出さないが、喉を開いて言ってみた。

しかし、口から、空気が大量に出るだけであった。


すん...。と無の表情になるのは致し方なし。


「喉だもん...。意識すれば、そうなるよ..。地味にへこむ...。」


まぁ想定内である。

気を取り直して次は、逆に空気を吸いながら、ぐわぁぁと出してみることにした。

やはりこれも想定通り、腹に空気が入るだけだった。


しかーし!これも想定内である。

俺は、前向きな男だ。負けない!


「悠夜、何やってんだ?」


きょとーんとした顔で、不思議そうに

親父が聞いてきたが、なんかム・カ・つ・く!!


スーッと息を吸い込み、思いっきり叫んでキレてやりたい。

だが寸前に、思いとどまり、腹の中だけで罵倒することにした。


声に出さなかったのは、深夜だからだ。

近所迷惑ダメ絶対。俺は、真面目が取り柄の良い子なのだ。


睨みつけ、心から親父を罵倒してやる。

ただし、口パクだけどなっ!


『そっちの説明不足のせいだぁぁぁ!!』


すると...、

喉あたりから、末端に向かって何かが、ぎゅーんっと動き出した。


「あれ?」


動いた?!何かが動いたぞっ!!


バッと、親父の顔を見る。


「今っ!!」


興奮して訴える悠夜だったが、明夜の反応がなぜか薄い。


「ん?何がだ?」


「だ〜か〜ら〜、今少し何かが動いたっ!!

....わかんねぇの?」


眉間に皺を寄せて、窺い見る。


「こっちからじゃ、お前の神気が動いたかなんかわからない。

そうか、動いたか。

まあ、よくやった。

じゃあ、今度は身体中動かせるようにしてみろ。その何かが神気ならさっきの感覚のように動き流れるだろう。」


さぁ、やってみろと促される。


「いや、いや、親父さん。

子育て下手すぎるだろう!?もっと褒めろよ!

息子が、なんらかの感覚掴んだら、ひとまず嬉しそうな顔しろよっ!?なんだそのフーンみたいな顔!!

『やったな。すごいな。』とかテンション高く一言言えよっ!

ほんと、ロクデもねぇなっ神徒!!」


赤子が歩いたら、めちゃくちゃ褒めて手を叩いて拍手喝采だろう?

お前、子育て参加してないんだから、初めての息子の成長を手放しに喜べ!


「はは!だから言っただろう?

神徒は、子育てなんかしない。」


当然だろう?とニッコリ肯定する親父に、さらにムカムカし、イラつく。

思いっきり息を吸って、腹から声を出す。

近所迷惑?さっきと言ってること違うって?

知らんっ!


「何、得意げに言ってんだぁぁぁ!!バカ親父ぃぃぃ!!」


ぎゅぎゅぎゅぅーーーーーーーん!


「あ!?循環した......。」


思わぬところで、神気が全身を巡ったことに唖然とした。

ぽっかーんとほうけて、言葉がポロッと出た。


どうやら喉に負担がかかった罵声により、もやもやグルグルとした感情と神気が相乗効果で合わさって、うまーく動いたようだ。

さっき明夜から流してもらった時の感覚と一緒だったので、間違いなく悠夜の神気が動いた。

一度感覚を掴んだので、悠夜は神気をそのまま循環させる。

親父に成功したことを伝えると、また指示が飛ぶ。

そして、やはり褒められない。

ほんとくそだなっ。クソ親父!


「次は、体から神気をだす。」


はいはい、神気を出すね...。

多分、わかっているけど、一応聞くか.....。


「どうやって?」


「じょわっと出せ。」


.........。ま・じ・か....。


知ってたっ!

俺、わかってたっ!

絶対、絶対、ふんわり意味不明なことしか言わないと思ってたっ!!

じょわってなんですかーーー!?


「.......。

あぁ、うん、じょわっね.....。

『じょわぁぁぁ.......』。」


言葉を言いながら、適当に両手を前に出す。

その姿は、全くやる気が感じられず、おざなりであった。

やる気を見せて、失敗した時の恥ずかしさが怖い。厨二病に罹ったかのように見られるのが怖い。

とにかく何も情報がないのだ。やりようがないだろう?


「何をしてるんだ?」


「そうだな。俺は何をしてるんだろうな...。

だが、俺のせいじゃないぞ?

親父のせいだ。」


「そうか?」


「そうだよ...。どこに力を入れればいいとか、神気をどこら辺から外に出すのかとか、説明がなければやりようがないだろう?」


「まぁ、確かに?」


悠夜は一周回って、ムカムカ憤る心情から諦めの境地になった。

明夜の淡々としたマイペースなところを受け入れるしかないと悟る。

俺は、わりと流されるままに笑って流す美和子さんの血が強いのだ。

俺の親父は、こういうやつなんだと諦めるしかない。


だが、冷静にしてもいられない。

蝕妖に喰われたくなければ、力が必要だ。


さっきと同じく、悠夜から明夜に問いかけることでコツを探していくことにした。


「ちなみに親父が神気を出す時は、どこから出してるんだ?」


「もちろん、核からだが?」


「核は当たり前!

というと、右手からか。

じゃあ俺は、喉からになるのか??」


『じょわっ』って、喉から言っても何も出なかったから、なんか別のスパイス的なものが必要なのか??


「親父は、神気を外に出す時どんな感じで『じょわっ』ってしてるんだ?」


「ん?質問の意味がわからない。

じょわっは、じょわっだ。」


それ以外でも、それ以下でもない。じょわはじょわだと、マジメ腐った顔でいう。


こ〜のぉぉっ、繊細そうな見た目詐欺野郎っ!思考が宇宙人!変態くそ親父め!

もっと詳しい言い方ないのか!?

『じょわ』でわかる奴なんかいねぇよっ!!

はぁぁぁ、仕方ない、もうちょっと掘り下げて質問してどうにかするしかないか。


赤髪をガシガシしながら、大きくため息を吐く。とりあえず、不満を一旦置いとくことにした。


「はぁーー...。

ちなみに、俺の体を循環させてる神気は、血管のように細く長いもんなんだけど、そこから穴を開けてじょわっと出るイメージで合ってるか?

それとも、じょわぁぁと滲みながら漏れ出ていくイメージなのか?

どっちの感覚が近い?」


「んー、滲みでる感じではないな。

一箇所から出る感じが近いかもしれないな。」


なるほど、じゃあ喉に穴をあけて出すイメージか?


「ちなみに、外に神気が出るとどんなことが起きるんだ??今出てるって感じるのか?」


「見えないものだから、出ても視覚ではわからないな。なんとなく右手に集中して力が引っ張られる感じがする...、かな。」


「曖昧だなぁ....。」


やっぱり、役に立たない助言しか出なかった。

わかってたよっ!もう、親父死ねっ!


ふ〜。とりあえず喉に穴を開けて出すイメージをしてみよう。

グルグル身体を廻る神気を動かして、外に出す。

グヌヌ、グッ...、ぐっ、ぐわぁぁぁぁっ!!


無駄に気合を入れて体に力を入れても、流れは変わらなかった。

まったく力が出ていく感じがしない。

体内を巡る神気のスピードがより速くなっただけだった。


せっかく、ぐっとしてぐわぁぁぁまでしたのに....。やはり、じょわっなのか....。

嫌だなぁ、尿漏れみたいなイメージしかない。

恥ずかしいなぁ...。


「おい、親父。他にヒントくれ。

じょわって、どんくらいの勢いだ。」


「普通だ。」


ガクっ.....、

親父の普通なんて、知らねぇよっ!


「じゃ、じゃあ、水鉄砲がピューって水を出す感じよりも、はやいか?遅いか?どっちだ?」


「水鉄砲....。

それなら、壊れかけの水鉄砲からべちゃっと水が飛び出し落ちる感じだな。。」


「まーた、変な表現だな。壊れかけ?

とりあえず、ほどほどのスピードと量で出るんだな。」


親父の例え、ほんと捉えづらいなぁと呆れながら、言われたイメージを咀嚼する。

喉に穴が空いて、そこから水(神気)がびょびょっと出るイメージだな。


「気合いは必要か?」


「もちろん必要だ。『ぐっとして、ぐわぁぁぁ』で神気を核から出して、『じょわっ』だ。」


このセリフだけ聞くと、まじわかんないな。

いや、最初から聞いててもやっぱりわかんないな。

ぐっとしてぐわぁぁぁも偶然の産物でできただけだしな。


よし、見てろよ。やってやるぜ!


ぐっとして、ぐわぁぁぁ!

高速で全身の神気を巡らせる。


そして、喉に穴をあけるイメージで....、

じょわっ!!


「.........。」


やはり、何も手応えが無かった。

スンと、表情が抜け落ちる。


「やばい、何にも変化がない....」


「才能がないんだろう。それも定めだ。」


しょげた悠夜に、にべも無くバッサリと言われる。


「諦めはやいだろう。

もっと、自分の子に愛情かけろよ....。」


「ははは。俺なりにかけてるぞ?」


だから、今ここに居るんじゃないかと、バシンと背中を叩かれて、グエっと変なところに唾が入った。


「ゲホッゲホッ、ゴホっゴホっ......」


思わず咳き込む悠夜だったが、あれ?と感じた。


ん?神気出た!?


どうやら、神気を巡らせていた状態で、咳が出たことで偶然外に出て行ったようだ。

またしても偶然....。

不本意だが、感覚派の仲間入りをしてしまったようだ。


「喉からじゃ無くて、口から出たぞ。

いいのか、これで??」


「出たならいいんじゃないか?」


何が問題なのかわからない顔をされる。


わかってた!そうだよねっ!

短時間しか話してないけど、わかってたよ!

親父は、結果さえ良ければ、過程は無視できる人だよなっ!

ん?人じゃないな。神徒か。

どっちでもいいやっ!!

とにかく理論的なことは必要ないんだよなっ!

でもさっ!俺は、必要なの!

いざって時に出なかったら困るでしょうがっ!


ほんと、俺、親父と一緒に暮らしてなくてよかったかも...。

人格が変わってた気がするよ...。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る