第14話 やっぱり.....。
「そうだ。お前は、俺の息子だ。」
目の前の男が、少し間を開けて、微笑みながら肯定をした。
ヒュンッと、心臓が鷲掴まれた。
さっきまでのソワソワした、なんとも言えない緊張や焦燥感が、ぴたりと止まった。
そうか...、俺の父親って.....。
コイツだったのかっ!!!
なぜか湧き上がる気持ちは、怒りだった。
「こ、こんのぉぉ....!
クソ親父ぃぃぃぃっ!!」
悠夜は、心の赴くまま、怒髪天な感情を足にのせて、回し蹴りをお見舞いした。
毎日、鮫島さんたちの喧嘩を見ているだけあって、フォームも崩れることなく完璧に明夜の鳩尾に一撃が入った。
「ぐっ!」
思わず、明夜が前のめりにうずくまる。
「おいっ!クソ親父!
お前!生まれたばかりの俺と、産んだばかりの産後の美和子さんを、よくも放って神界に帰りやがったな!!」
さっきまでの優等生然とした態度も言葉遣いも、まるっとどこかへ飛んでいってしまったようだ。
悠夜の罵倒が止まらない。
「テメェ、神の遣いのくせにロクデナシじゃないか!!
高校卒業したばかりで、職もない美和子さんをよく置いてけたなっ!!今は、亡き爺ちゃんと婆ちゃんがいなければ、俺も美和子さんも生きていねぇぞっ!」
「す、すまない。だが.....、」
「だがじゃねぇっ!!言い訳しようとするなんて、女々しい!
種を仕込むなら、ちゃんと責任とれやっ!!」
「だがっ!俺たちは、肉体年齢が全盛期の時に止まるから、老いないんだ!
こんな姿で、ずっとそばには居れないだろう!?
今だって、父親っていうよりも悠夜の兄のような姿だろう?」
「ウッせぇ!!美和子さんを見てみろよ!
人間なのに、今でも若くて俺の母親に見られねえぞ!!下手すりゃ、俺の妹に見えるらしいぞ!!
何重にも重ねたお世辞だろうがなっ!
だから、親父が、兄に見えても問題ないっ!」
「だ、だがっ!!過去の歴史の中でも、神徒が子育てをした例はない。
それに、籍も入れられない。戸籍がないからな!
たとえ戸籍を偽造しても、神徒の仕事があるから、一般就職して働くことができない。稼いで養うことができないんだ!
しかも、シングルマザーの方が、色々と国や市町村から援助が出るだろう??
美和子が住んでるここ神有町は、確か手厚かったよな??
住宅手当と医療費免除、あと養育費手当も子供の人数によって出るだろう?」
「はぁっ!?まず言えるのは、神徒っていうのはクソ集団だな!
産ませたあと、誰も責任取らねえのか!
しかも、クソ親父、なに頭良さそうに制度持ち出してんだ?
小賢しくて、逆にムカつくわ!
いいか?金があれば子が育つなんてあり得ねぇんだぞ!」
「わかって...る、」
「わかってねぇっ!
いいか?始めの3ヶ月は、母親は3時間ずつしか寝れねぇんだ。そのうちの、30分は授乳とおむつ替えもして、実質寝てるのは2時間ほど。赤子の重みで腕がパンパンにもなる肉体労働だ。
稼げなくても、代わりに家事ができるだろうよ。主夫になればよかっただろ!!
どうせ、お前ら神徒は夜活動するんだ!
日中は、体が空いてるだろうが!」
「だっ、だがな?神徒が不足しているから、すぐに次の護衛対象に行かなくてはならなくて....」
「あぁん?
もしかして、護衛がめんどくさくて、わざと妊娠させたりしてねぇよな?
子供さえ産めば、護衛対象じゃなくなるもんな。
ガーディアンじゃなくて、強姦魔か?」
「違うっ!!俺は、美和子以外に手を出したことはない!ちゃんと愛していたから、悠夜ができたんだ!!」
「過去形か!?」
「違う!言葉のニュアンス事故だ!
当時のことを思い出しての発言だ!
今も愛してる!!当たり前だろう!」
「じゃあ、なんで会いに来ない!今も美和子さんは、親父のこと恨まずに愛してるんだぞ!」
「会いたかったさっ!!お前のこともずっと気にしてた!」
はぁはぁと、お互いに息が上がった。
全力で言葉をぶつけたから、若干空気が足りない。肩で息をしてなんとか呼吸を整える。
「じゃあ、なんで来なかった?」
声は絞り出すように静かに、けれども刺すような睨め付ける目を向ける。
すると明夜は、居た堪れない気持ちが迫ってきたのか、苦しそうな表情になった。
「...つながりがなかったんだ。
美和子には、もう樹がないから目印がない。生まれた悠夜は、神徒の力を纏ってるから、鏡を繋げようとすれば繋がるタイミングがあったかもしれないが、それでも一瞬にしかならない。つながりが弱すぎた。
何も知らないお前が、鏡越しで俺を見たとしても訳がわからないだろう?
美和子に聞けばわかったかもしれないが、多分美和子なら『すご〜い♡ゆうちゃんは霊感があるのかしら〜♡』で終わるだろう。」
確かに....。美和子さんは、そこで親父と結びつくような頭をしてない。脳内お花畑だもんな。
本当に父親なんだな...。美和子さんの性格を熟知している...。
「それに、俺はちゃんとお前のこと気にかけていたぞ。
切れそうな糸のような繋がりだったが、常に動向は把握していた。だからお前が喰われそうになった時助けられた。」
「そっか....、なんかありがとう...。」
忘れられていたわけではないことがわかって、なんだかムズムズする。
「だけど、じゃあ何で、今はこんなに俺の前に現れることができてるんだ??」
「それは、お前が蝕妖に喰われかけたからだ。
身体の中にあるお前の神気を吸い出そうとした蝕妖が、体の深淵にあるお前の核から強制的に引っ張り出そうとした拍子に、核の出口が広がったんだ。
それによって、お前の身体を循環している神気が微々たるもんから神徒と変わらない量に増えた結果、俺と完全に繋がった。
それで、鏡ごしにお前を助けることができたんだ。
さらに今は、丑三つどきで異界の門が開きやすい時間だから肉体もやって来れた。」
「そうか、じゃあ美和子さん起こしてくるから会ってけよ。」
「いや、その前に悠夜が神徒の力を使えるか試さなくてはならない。そのために今日は肉体ごときたんだ。
そのあと、時間が許せば美和子に会っていくことも考える。本来なら一番危険な時間だから、護衛対象のそばにいなければいけないんだ。」
「わかった。じゃあ、ちゃっちゃとしよう。美和子さんに、再会を喜んでもらいたい。」
じゃあ、始めようと互いに向き合う。
明夜が、両手を前に出し、握るように促す。
恐る恐る手を握りしめたが、今のところ変化はない。
握った瞬間静電気が起きるようなことがなかったことに、とりあえずほっとする。
「では。これから右手から俺の神気を流す。
それから、悠夜の前身を巡って左手から神気を戻す。何かを感じたら、教えろ。
何も感じなければ、適応なしと判断する。それ以上訓練しても無駄だ。
その場合は、諦めて蝕妖から逃げ続けろ。」
ううぇぇぇ....、一生逃げる人生って嫌だぁぁ。
こい、こいっ、俺の才能!!
感じろ、感じろ、感じろっ!!!
すると握った右手から神気が流されてきたようだ。
さっきと違う感覚がする。
しかし、これは....、気持ち悪っ!!!
ほわんほわんとしたぬるま湯のような暖かい感覚ではなかった。
バチバチくるような刺激的な感覚でもなかった。
ゾワゾワするくすぐったい感覚でもなかった。
身が縮まるような恐ろしい感覚が、ダイレクトに襲ってきた!
うわぁぁぁぁっ、血管の中を線虫がぐいぐい進んでくる感覚がするぅぅ!!
これ、心臓に到達したら、俺、死なないっ!?
わぁっ!来る、来る、来るぅぅっ!!
「はいっ!はいっ!来た!感覚来たっ!!
うわぁぁぁぁ、気持ち悪いぃぃぃ!!」
悠夜は、繋がれた手を反射的に離そうとしたが、強く握り込まれていて、背中が反り返っただけだった。
引き攣った顔をしている悠夜に対して、明夜は、嬉しそうである。
「まずは、第一段階突破だな。このまま流し続けるから、慣れろ。」
右手から送られた神気が、左手を通って戻っていく。
一度流れたら、抵抗が少なくなった。
線虫が這いずるグワングワンする抑揚がなくなり、一定の動きで神気が流れていく。
まるで、ベルトコンベアーが体にひかれたようだ。
「なんか....スースーしてきた。」
「初めの気持ち悪さは、神気の道が詰まってたり細かったりしていたせいだろう。
均等の幅になるように、俺が拡張してやったから、楽になったはずだ。
これで、お前が神徒の力を使えれば、より早く植物を出すことができるだろう。」
俺は、すごいだろう?と、得意げな顔をよこす。
大人というより、仙人並みの年数を生きているに違いない男でも、自慢をしたくなるものらしい。
「......。スゴイデスネ。」
こんなのが俺の親父なのか、やけに人間臭いなと、若干呆れながら称賛をした。
しばらく力を流され続けたところで、ようやっと手を離された。
「次は、流れが掴めたところで、自分の中の神気を動かしてみろ。」
「どうやって?」
「ぐっとして、グワァーっとするんだ。」
「は?」
やり方じゃなくて、擬音語のみ?
気合いで、なんとかしろと??
もしかして、脳筋なのか!?
この神秘的な顔で?
「いや、ぐっとしてぐわ?
無理。絶対、できない。何言ってんだ?」
わかるように説明しろよ!
その繊細そうな顔と佇まいは、ハリボテか!?
「理論的に説明を求む!
親父が、最初に教わったときの教え方もグッとしてグワーだったのか??違うだろう?
きっと、どの辺に力をこめてとか、そういうのあっただろう?」
「あー、なんかあったが、俺は感覚派らしくてな。
説明聞いても、腑に落ちなかったからな。概要を聞いてふわっと掴んだら、あとは実践したんだ。お前も息子だからどうにかなるだろう。」
「だーかーらー!!その概要だよっ!
親父がふわっと理解できた内容をくれ!」
「無理だな。」
「何故!?」
考えるそぶりもなく即座に否定された。
びっくり仰天する悠夜。
「何百年前だと思ってんだ。そんな俺が既に必要もないものを覚えているわけなかろう。」
「開き直んなっ!バカ親父!!」
仕方ない....。
ぐわっ!って、やるしかないのか....。
悠夜は、気合を入れて目の前に手を翳した。
いくぜっ!!
ぐわっ!ぐわっ!ぐわっ!ぐわぁぁぁぁっ!!
「..........。」
ぷす...ぷす...ぷす...
不完全燃焼。むしろ、チョロ火すらも出なかった。
恥ずっ!!
何にも起きないじゃないかっ!!
恥ずかしくて、体から湯気が出るようだ!
「ふむ。才能がなかったようだな。残念だ。」
「諦めんの、はえぇなっ!!
俺の才能がないんじゃねよっ!親父の教える才能がないんだ!」
なぁにっ、責任転嫁してんだ!クソ親父!と、悠夜は憤った。
おいおい?何かないのか?
ほーかーにー、コツは無いのかー??
「ふむ。それもそうだ。俺が悪いのかもしれないな。だが、こればかりはなぁ....。」
仕方なく悠夜は、質問をしてコツを引き出すことにした。
「親父は、さっき右手から力を出したが、右手近くに核があるのか??」
「俺の核はな。」
「俺の核は?」
まるで、俺の核は右手にないみたいな言い方をされたから、問いかけた。
すると、やはり核の場所は違ったようだ。
「核の場所は、人それぞれ違うぞ。
お前は、さっき流した感じだと....、ここだ。」
トンって指で喉をつかれた。
「は?喉?」
「神気を流しているときに、そこで若干滞留が発生してたからな。」
なんてこともないように言い出すが、それってかなり重要じゃねぇ?
自分で発言してて、気づかねぇのか?
ジトっとした目を向けて、ボソリと呟いた。
「その情報は、最初に教えろよ....。バカ親父....。」
がっくりと落ち込む。
普通に考えて、深淵って言ったら心臓とかお腹か?と思うじゃないか。
ちょっと、意地悪なところで末端手足や頭になるかもしれないが....、
そ れ な の にっ、『喉』っ!?
想っ定っっ外っ!!ガッテムッ!!
中途半端だろう....。
中途半端と言ってもいいのかわからないくらい、しっくりこない場所である。
体の奥底って言ってたのに、一番厚みも皮下脂肪もない場所。
むしろ、表在性って言ってもいい....。
何故、急所におれの核があるんだ!
こんなところ一番最初に狙われるランキング上位だろ!
心臓、脳、頸動脈で同率1位じゃないかっ!!
弱点を晒しながら、歩いてる
蝕妖にとって、なんてイージーモード....。凹む。
「はぁぁ〜...。わかった、喉だな。
この辺を意識してぐわっとしてみる。」
「違う。ぐっとして、ぐわっだ。」
真顔で、即訂正する明夜。
どうでもいいわっ!!
ぐっとして、ぐわっ!?何が違うんだぁ!
このバカ親父ぃ!
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