第16話 覚醒
「さて...。じゃあ実際に植物を生み出してみようか。」
親父が、ピッと人差し指を立てて真顔になる。
真剣味が増す顔もできるんだなって、ちょっと感心した。
「悠夜。俺が、美和子に残した本、全部覚えているか?」
「覚えてるよ。あれ、美和子さんが俺の幼少期に童話代わりに寝かしつけに読んでくれてたから。諳んじれるわ。」
「それは重畳。」
では、まず基本から。と明夜が実際に植物を出しながら説明し出す。
植物を出す時は、神気を外に出しながら、声に出して技名を言うそうだ。
明夜が主に使うのは、捕縛のための『蔓蛇』。
これは
次に、爆発させて蝕妖を削るのに重宝するのが『カタバミ』だ。
悠夜が、以前緑の帳に飲み込まれそうになった時に現れたオクラのような植物だ。
繁殖するために種を四方八方に飛ばす必要がある性質を利用して、爆発させている。
大きさは、イメージでいくらでも変えられるそうだ。
あとは、初見ではあるが『ディッキア』。
これは盾として展開する。
ディッキアは、見た目はアロエのような感じで、世界一硬い葉っぱの植物だ。
理にかなってる。
攻撃を防ぐにはちょうど良いだろう。
そして、『サンスベリア』。
サボテンの一種で、縦に長い鋭利な葉っぱが特徴の植物だ。
剣のように扱う。
蝕妖の体を少しずつ削ることに重宝する。
「それで、サンスベリアの使い方だが、剣のように使う以外に大事な役割がある。わかるか?」
「サンスベリアの特徴で、蝕妖に使えるとすれば、...浄化?」
「正解。
サンスベリアは陰の気を吸収して陽の気を放出すると言われているだろう?
それは、神徒にとって当たり前の事実なんだ。
削りながら浄化することで、再生を止める。精神を取り込みすぎた蝕妖は、とにかくデカいから削って弱らせる必要があるんだ。」
削っていくうちに取り込んだ人間の精神が、解放されていくんだと、明夜が話を続ける。
そうして取り込んだ人間の精神が、全て解放されると、蝕妖は半透明になるらしい。
(精神を取り込むと、色が濃くなるそうだ。)
もともと封印から解けたばかりの蝕妖は、半透明なんだそう。
悠夜が出会ったやつは、すでに一人取り込んでいたから緑の汚泥色がついていたのだ。
「そして、削りまくって半透明になったら、ようやく準備が調うんだ。
蝕妖を封印していた祠の場所を探して、日が出た後封印を施す。」
日に弱い蝕妖は、夜が明けると、祠に帰らざるをえないそうで、そこを狙って封印する。
ちなみに、今の時点でも封印は可能だそうだが、取り込まれた人間の精神が一緒に封印されてしまい2度と戻らないそうだ。
神徒は、人間を見捨てられないため、強制封印はしないそうだ。
「ところで。何で、蛇結茨だけ“蔓蛇“っていうワザ名なんだ?」
「そんなの言いやすいからだ。ジャケツイバラって、言いにくいだろう?」
えっ?そんな理由?
軽くずっこけた。
そんな俺を一瞥したのに、親父はツッコミもせず笑いもせず、気にしないで話を続ける。
ほんと、マイペースっていうか独特...。
「ようは、イメージし易いものなら何でも良いんだ。
“これ”と言ったらコレが出るって自分のなかで方程式を作れれば良い。」
なるほど、ならば俺が『蔓蛇』を使っても蛇結茨を出す必要はないんだな。
まぁ、蛇の字もあるし、わかり易いからそのまま使うが。
「じゃあ、悠夜。蔓蛇を出してみろ。」
親父が一歩下がって、腕を組み見守る。
俺は、一度深呼吸をして心を決めてから、『蔓蛇』と、神気を外に出しながら唱えた。
すると...、
「グっ..ゲボっ!」と、咽せた。
それもそのはず、口から“蔓”が出たのだ。
口いっぱいに草が生えたら、呼吸なんて出来ない。
驚いて、ひゅっと息を吸おうにも吸えないんだからな!
しかも、見た目がダサくてグロい!
俺は、エイリアンかーいっ!!
親父は、腹を抱えて笑っている。
「ははは!!悠夜お前っ...、情けなっ...、ブファっ!」
ちッ!笑ってんじゃねぇ!
なんで俺の核は、喉にあるんだよ!
こうなる未来わかってたんじゃねぇのか!
「...親父...。笑ってないでどうにかしろよ。」
ジトリと、恨みがましい目で親父を見た。
「悪い、悪い。あー、笑った..。
まさか口から蔓が生えるとは...ひひっ。
...でもな、これは悠夜のイメージ不足だ。
元々お前の核は、喉にある。
だが喉からじゃなくて口から出たってことはだな?
これは、お前が口から出るとイメージした結果だ。
神気は、核から全身に巡らせてるんだから、出口はどこでも良いんだ。
それこそ俺のように手からだって出せる。」
ほらやってみろと、顎で促された。
なるほど、イメージね。
今度は、口に手を当てて、神気を引っ張り出すイメージしてみた。
なんとかうまくいきそうだ。
人差し指と中指で、薄く伸ばした神気を掴んで手に纏わせる。
このまま指から、蔓を出すイメージ。
『蔓蛇!』
指からにょろーんっと蛇結茨が出た。
天井までバッと出た蔓が、そのまま重力に従って、床にふにゃりと落ちた感じだ。
指からは依然として蔓が伸びている。
おぉ、指から蔓が生えてるぞ。
成功だ!!
しかもなんだこれ、うねうね腕を上下すると、リボンみたいにフニャンフニャンして楽しいぞ。
それを今度は、親父の指示のもと、指を動かさずに自由自在に動かす訓練をする。
右へ左へ動かしたり、伸ばしたり、縮めたりと、イメージをしながら神気を流せば難なく動かせるようになった。
「よし。もう良いだろう。あとは、お前次第だ。うまく蝕妖から逃げろよ。そしてできれば、削っとけ。」
「わかった。
ありがとう、親父。」
こくんと、満足そうに頷くと、親父は帰って行こうとする。
だが、それを俺は引き止める。
「ちょっと待って。美和子さんにあっていかなくていいのか?」
振り向いた親父は、なんとも言えないような顔で口を開いた。
「やっぱり考えたんだが、会ったら、離れにくくなるだろう?
そばに行けば触れたいし、抱きしめたい。
お前は、どう思ってるのかわからないが、俺は美和子を愛してるんだ。今も変わらない。
当然、俺と美和子の子供のお前のことも愛してる。
こうやって、時間を捻出して防衛策を授けるくらいにはな。
それに、今は夜で蝕妖の活動が活発なんだ。
俺の護衛対象巫女を一人にしておくのは、本来なら許されない。」
「そっか...わかった。」
見捨てられたわけじゃなかった。
それだけでもわかって、よかった。
親父の顔も、そばに居れなくて苦しそうだ。
なんだよ、ちゃんと親の顔できんじゃねぇか。
子育てに向かないクソ神徒って言ったのは、撤回だな。
「じゃあな。お前の人生が、良いものになるよう、祈ってるぞ。悠夜、美和子を頼む。」
というと明夜は合わせ鏡の道に帰って行った。
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