第11話 鏡を装備した!チャッチャラ〜♪
あれから数日たった。
その間、鮫島さんたちは、クズ高の生徒に、一応、夜の校舎に近づくなと触れ回ったみたいだ。
一応なのは、素行が良くない人たちの集まりのため注意喚起しても、意味があまりないからだ。
実際問題、ここ数日は、翌朝になると廃人のように横たわっている生徒が何人も確認されているらしい。
こうなってくると、もはや、バケモノが現在どんな姿で、人に擬態しているのか不明だ。
会う人会う人、全てが疑わしい気がしてくる。
軽く人間不信になりそうだ...。
鏡の言う通りならば、喰べれば喰べるほどバケモノの移動距離が増えるらしいが、今のところ街中で廃人が見つかったというニュースはまだない。
クズ高の中だけで蠢いているみたいだ。
だから俺の精神は、まだ守られている。
俺は、あの日の翌朝、早速母から鏡を借りた。
まだ、ダイソーも開いてないし、学校もあったので有り合わせのもので済ませたってわけだ。
ファンデーションのコンパクトを一つ借りたのだが、想定外のことがあり、再び俺の高校を騒がせることになった。
何があったかと言うと、.....抜き打ち検査があったのだ。
普段優等生ばかりが通う高校なので、滅多にやらない持ち物検査。1年に、1回か2回実施されるのが関の山。
それなのに、よりによってこの日に実施された。
今までは、カバンのチャックを開けて、ガバッと広げるだけで済んでいた持ち物検査だったが、赤く髪を染めたことで目をつけられていた俺の検査は、ありがたいことに厳重だった....。全部の持ち物を、一つ一つ机に出させられた。
何が起きたか、お分かりだろうか?
そう、俺のカバンから化粧品が出てきたので、教室がざわついたのだ。
真面目に着こなした制服に、真っ赤な髪の毛をした俺。それに加えてファンデーションが出てくるといった支離滅裂な組み合わせ。
もうぐっちゃぐちゃの闇鍋状態だ。
仲がいいダチには、大爆笑され好意的に見られたが、遠巻きに見ているクラスメイトには、ドン引きされた。
冷ややかな視線や、変なものを見たという奇異な視線、クエッションマークを浮かべ唖然とした視線などが俺に向けられた。
そして、なんでかわからないが嬉しそうな視線もあった。(この嬉しそうな視線の意味に、この後気づいたが、最悪だった。)
教師は、見つけた手前、叱責しないといけないはずなのに、言葉が詰まる状態。
口をぱかぱか閉じたり開けたりして、何か言おうとしていたが、なかなか言葉が出なかった。さもありなん。
ようやく、発した言葉は『...放課後、進路指導室....。』だった。
そうして、この日から、俺の噂の一つに女装趣味が加わった。
今までは、不良説や、ヴィジュアル系バンド説等があったのだが、ここにきて女装趣味。
男の娘疑惑により、校内の一定数いる同性愛者の面々に欲の孕んだ視線を向けられることになった。
バケモノに襲われる前に、人間の男に襲われそうになるといったハードモードに発展した。
よって俺は、
気合を入れて、俺の『精神(対バケモノ)と貞操(対人間の男)』を守らなければならなくなったのだ。
声に出して今一度叫びたい。
すぅーー、はぁーー。
なーぜぇーだぁぁぁ!!!
バケモノは、自分が招いた種だから仕方ないとして、貞操は、完全に想定外だ!
俺は、男に掘られる興味はなぁぁいっ!
ほんと、仮の鏡を持ち込んだ唯一の日に、持ち物検査にあたるなんて、なんて間が悪い...。
進路指導室に行って、担任と学年主任と向き合う。
コンパクトを真ん中に置いて、対峙したのだが、互いに無言である。
それもそのはず、これを持っていた理由を尋ねられても、話せないからだ。
バケモノの話をしても、頭のおかしいやつだと思われるだけだし、鏡が必要だったと言ってもそれがファンデーション用である必要は全くない。
なぜ、これを持っていたのか。 ということを突き詰めるならば、極論として、美和子さんが悪いと思う。
鏡を貸してほしいと言った時に、これを渡してきた美和子さんが悪い。
俺も、なぜこれ?と思ったし。
理由を聞いたら、一応ちゃんとした理由があった。
『ファンデーションのノリがいまいちだったから、もうコレ使わないの〜♡だから無くしても大丈夫よ〜♡安心でしょ?』とのことだった。
俺も、鮫島さんたちと過ごすと、喧嘩に巻き込まれることが多いから、無くしてもいいと言う発言にのせられて、つい持参してしまった次第で。
しかし結局、無くしたのは、
鏡じゃなくて、俺の『男としての尊厳』だったっ!!
はぁ.............。
まぁ、いい。
無くしてしまったのは、どうしようもない。
次だ!
前向きな俺は、寝て起きたら、スッキリするように出来ている。
成せばなる!なるようになる!
流石、前向きなお人好しの俺っ!
とりあえず、先生方からは『普通の鏡ならいいが、化粧品は学校に必要ないものだから、今後持ってこないように。』と一般的なお小言を言われて解放された。
その為、いつもよりちょっと遅くセンター街に集合したので、鮫島さんたちに、ものすっごい心配をされた。
喰われたんじゃないかと。
色々ありすぎて心労が溜まっていた俺は、みんなからのLINEを返さなかったことに、この時ようやく気づいた。
申し訳なく思いながら、美和子さんから化粧コンパクトを貰ったくだりから貞操の危機を迎えたところまで一連の流れを説明した。
すると、鮫島さんたちがいつも通り爆笑した。
「ギャハハ!悠夜ぁ!
鮫島の仲間入りじゃのぉ。
男に狙われるとは、さすが鮫島のパシリじゃぁっ!ギャハハ!」
「鮫島とは違うよね。
鮫島は、引き立て役として、ニューハーフに人気なだけだけど、悠夜は....、」
「「「ガチだ(ね...。)(じゃ。)(☆)」」」
「キャハ、悠夜、ご愁傷様☆
そんな君には、これぇ☆
悠夜に鏡、用意しておいたよ〜☆
っく...、くくっ(笑)」
チャラさんは、笑いを噛み殺しながら、何かを差し出してきた。
みると、それはネックレスだった。
「こ、これ...ぷっ。
悠夜にちょうどいいと思って、家から持ってきたんだぁ☆」
涙目で、差し出す手は、未だに笑いを堪えて、震えていた。
「...チャラ...そろそろ悠夜に失礼....」
「だって、リッくん。
次から次へと想定しない引き出しが飛び出てくるんだぜ☆?
俺、腹筋が痛い...くっ。」
「じゃなじゃな!
面白うて、なかなか笑いが止まらんっ!!」
笑いが止まらない二人に、残りのメンバーは生ぬるい目線をくれる。
これも、いつものことだ。
俺は、普通に生きてるんだが、どうもおかしいらしい。なぜだ、解せん。
チャラさんからもらったネックレスは革紐が3重になっていて、500円玉ほどの大きさの金の細工が彫られたペンダントトップがついていた。
「悠夜、ココとココを押しながら、スライドさせてみて☆
そうそう、合ってる、合ってる。で、裏返すと鏡が出てくんだ☆
これなら、制服の中に隠してつけていられるだろう??
もう、女装...しなくていいぞ☆ぷふっ!」
そうして、俺の首には、これが常に付けられることになった。
もちろんそのあとダイソーにも行き、下敷き大の鏡も買い、鞄に常に常備することも忘れない。
小さいものより大きい方が助かる可能性が高そうだろ??
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