第7話 鮫島さん名所巡り
廊下に出た俺たちは、まずは屋上に向かうことになった。
リッくんさんのお薦めする『鮫島さんツアー』だ。
3階建ての校舎の階段を、みんなで登っていく。
電気はついてないが、外には大きな月が出ているので、暗闇に慣れた目には充分な視界が得られていた。
3階に登ろうとした時、前を歩く辰さんが真顔で振り向き、声をかけてきた。
「ふっ、ふっ、ふっ、悠夜ぁ。
とっておきの情報を教えちゃる...。ええか...?
この階段は、行きと帰りとではな.....、
段数が..... 、
違うんじゃけぇっ!!
ブチ怖いじゃろぉ?
せっかくじゃから、数えてみぃ。」
最後はギャハハと笑いながら、唐突に怪談話をしだした。
「えっ!?七不思議的なものですか、辰さん!」
興味津々に、階段をじっくり見つめる。
こ、これが!
全国津々浦々、語られる階段の怪談話っ!!
クズ高、ぱねぇっ!!そんな階段があるなんて!
というように純粋に感動したのだが、どうやら嘘だったようで、直ぐに鮫島さんから叱責がとんだ。
「おいっ!辰!悠夜を揶揄うなっ!
そんな事実は、ない!」
「きゃはは☆
悠夜は、なんでも信じるからなぁ。
そんなんじゃ、怪しい壺買わされちゃうぞぉ〜☆」
「チャラさん。流石に、壺は買いませんって....。」
「まぁ状況によっては、買うだろうな。
悠夜は、お人好しだからなぁ。
例えば、和葉ちゃんが人質に取られるようなことがあれば、壺買うだろう??」
「天綺さんも...。
それは、壺じゃなくても買いますよ!
詐欺じゃなくて、ただの交換条件じゃないですか。」
「なぁにぃっ!!!!
和葉さんが、人質になるだとぉっ!!!!
俺がそいつを、ぶっ殺す!!
安心しろっ、悠夜っ!!!
俺が和葉さんのヒーローになるっ!!」
「.....かっこい〜.....」
「鮫島に睨まれるなんてのぉ。
そいつ、極楽浄土に行けるとええがのぉー。ギャハハ。」
「じゃあ☆じゃあ☆
俺は、鮫島さんがボッコボッコにしてる間に、和葉ちゃん抱えて逃げるわ☆」
「....チャラが、一番いいところ取ってしまってるじゃん.....ずるくない??」
ぶひゃひゃひゃっ! と、みんなで爆笑しながら階段を登り、屋上に着いた。
ドアを天綺さんが、鍵で開ける。
鍵は、以前マスターキーをちょろまかして、合鍵を作っていたそうだ。
抜け目ないな、天綺さん。
「....悠夜。ここがまず、一つ目の鮫島さんスポットだよ....。」
リッくんさんが言う方を見てみると、屋上のフェンスの一部分が思いっきりひしゃげていた。フェンスが引っ張られたのかコンクリート地面から支柱が1本浮きでて傾き、鉄筋が少し地面から見えている。
ポンと横で手を叩いたチャラさんも、納得顔で同意する。
「あー!ここか☆
なるほどね、たしかにここは外せないかもな☆」
俺は「なんなんですか?これ?」と、鮫島さんに、確認する。
しかし、鮫島さんは、全く覚えてないようで首を傾げる。
「なんだココ?俺、ココでなんかしたか??」
辰さんも、思いつかないようで、眉間に皺を寄せ考え込んでいた。
「なんだ?当事者、二人が覚えてないのか?
それは、どうなんだ....。
俺達は、そのあと大変だったんだぞ。」
はぁ〜...と、ため息をついて呆れる天綺さん。
リッくんさんとチャラさんはというと、にまにましている。
「悠夜、ココはねぇ☆
鮫島さんと辰っさんが、大喧嘩したところなんだよー!
このフェンスはぁ、鮫島さんがぁ、辰っさんをぉ、思いっきり蹴り飛ばした時についたものなんだよー☆
ほらほら、辰っさん!この窪みにハマってみてよ!」
「ん〜。そんなんあったかのぉ〜。どれどれ。
おぉ、ピッタリじゃけぇ!バリ面白いけぇのぉ!」
お尻も頭も、不思議な腕の形までも、ピッタリだった。
「本当に、辰さんの形ですね。
何があったんですか?」
もしかして、鮫島さんと辰さんは、最初はいがみあってたのかな?
それで、拳と拳で会話して親友になった的な、少年漫画のような青春をっ!?
「ん〜、思い出せん。
鮫島ぁ。覚えとるけぇ??」
「いや。まったく、覚えてない!」
どうやら、何の琴線にも触れなかったようで、二人とも記憶が戻ってくることはなかった。
そこで、天綺さんが、説明し出す。
「ここはね、悠夜。
昼ご飯をみんなで食べてた時に、起きた喧嘩でついた跡なんだよ。」
「....アレは、辰っさんが悪い....。」
「そうだな。アレは、辰が悪いかもな。
俺からしてみれば、くだらないんだが。
鮫島は、好きなものを最後に食べる派なんだが、それを辰が食べたんだ。」
「ぷはは☆あれ、傑作だったよねぇ!
何を食べられたと思う!?
それはね...、
天津丼に乗ってたグリーンピースだよぉ!」
はぁ!?グリンピース??
たしかに、グリンピースは苦手な人が多い。
それこそ、好物だという人にお目にかかったことはない。
きっと、親切心で辰さんが食べてあげたんだろうな。
「辰ぅぅ!俺の、グリンピース食べたのか!?」
ゴ、ゴゴゴっ、と、鮫島さんから闘気が上がる。
「ちいと待てっ!鮫島ぁ、落ちつけぇ!
今じゃない、昔のことじゃけぇ!!
覚えとらんけど、悪かった!
すまんかったの、のぉぉぉっ!?」
ぎゃあっと、叫び声を上げながら、辰さんは鮫島さんの拳を受け止める。
鮫島さんが、強烈なパンチを、マジな形相で繰り出してきたのだ。
勢いがすごくて、空気を切る音もした。
ゴっ...!!
骨と骨が、ぶつかるにしては、でかい音が鳴った。
ふざけて殴り合う範疇を超えている。
グリンピースの恨み、マジぱねぇ!!
その後、面白がったチャラさんとリッくんさんも、わちゃわちゃと、なぐり合いに参加し出して、お祭り状態になった。
青春って感じがして、楽しいっ!
天綺さんと俺は、少し離れたとこから笑った。
ひたすら殴り合って満足したみんなが戻ってくると、再びリッくんさん主導の鮫島さんツアーが始まった。
鮫島さんが、一年の時に当時のクズ高トップを蹴り飛ばした場所や、20人ほどのクズ高生を報復措置としてずらりと廊下に並べた場所を当時の思い出話とともに案内してもらう。床に額をつけた前傾姿勢で、30分放置したそうだ。姿勢が崩れると、容赦なく蹴りが入ったらしい。エグい!
他にも、名だたるクズ高生と、やり合って壊れた場所なんかを順に教えてくれた。
ドア枠がへしゃげていたり、窓ガラスが割れた場所、ロッカーがぐしゃぐしゃになっていて蓋が閉まらないところなど多岐にわたった。
そして、希望通りにコンクリートの壁が崩れている場所もあったはあったのだが、鮫島さんがやったわけではなかった。
金属バットを振り回す相手の攻撃を避けた時のものだった。
やはり凶悪ゴリラでも、素手では、コンクリートは崩せないようだ。
ちなみに鮫島さんの机も見してもらったが、至って普通の机だった。
それでも、リッくんさんは、恍惚な表情で、鮫島さんの椅子に座り机に頬擦りしていたが....。
さすが、鮫島信者である。
ついでに辰さんの机も見せてもらった。これまた普通だったが、なぜか座らせられた。
ニコニコ顔の辰さんに促されたら、座らざるを得なかった。
でもな...、リアクションしずらいのなんの。
とりあえず『スゴーイ、ウレシイナ』と棒読みで言っておいたら、軽く叩かれた。
解せん...。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます