第4話 俺の母親と親父

「ところで、その髪。美和子さん、なんか言わないの?」


和葉がいう『美和子さん』っていうのは、俺の母親だ。

小さい時から、名前で呼んで欲しいと、育てられたので、息子の俺も『美和子さん』と呼んでいる。


和葉も小さい時から、俺の母親と付き合ってるから、気心知れた仲で、俺と一緒に美和子さん呼びだ。


まぁ、実の息子に名前で呼ばせるあたりで、わかるだろう。

俺の母親は、ちょっと?いや、かなり変わってるんだ。


ちょっと聞いてくれないか?


俺の母親の名前は、佐々木美和子。

現在、年は36歳。

俺のことを、19歳で産んでいるから、兎に角、若い。

そんで、童顔だから、俺と一緒にいてもよく兄弟に見られる。

下手すりゃ、俺が兄で、母親が妹だ。


だから、名前で呼んで欲しい理由が、見た目の問題だと思うかもしれないが、そんな理由ではない。

美和子さん曰く、『だってぇ、その方がお友達みたいで楽しいじゃなぁ〜い☆』とのこと。


自分の母親をさん付けって、どうなんだ?

友達っぽくもないし、呼び方一つで楽しくなっちゃう母親みたいなお手軽な性格じゃ無いんだが...。

と、思わなくも無いんだが、名前呼びにも、もう慣れた。

流石に17年一緒に暮らしてるとなぁ。


だから、若い見た目の母親に、俺が『美和子さん』と街中で呼ぶと、周囲から後妻さんのように見られることもあるんだが、本人は気にしないらしい。


ちなみに、俺には父親はいない。

どうやら、籍を入れずに死んでしまったようで、いわゆるシングルマザーってやつだ。

女手一つで、俺を育ててくれていて、苦労かけていると思うんだが、本人はちっとも苦じゃ無いと、いつも前向きにニコニコ笑ってる。

小さいことは気にしない寛容な女性ひとである。


こないだは、こんなことがあった。


ある日、うっかりしていて、冷蔵庫の奥の方から、はるか昔に、途中まで使ったのであろう、ネギが出てきたことがあった。


先の方がえらい伸びてるネギが。


それを見た母親は、こう言ったんだ。

『あらあらあらあら☆

ネギさんが、火事場の馬鹿力で長くなってるわぁ〜。

頑張って大きくなったのねぇ。水も土もないのに、えらいわぁ。

そうだ!窓際の鉢植えに植えちゃいましょう♪

即席、観葉植物ねぇ。

得しちゃったわぁ♡

しかも、ネギって殺菌効果があるし!

天然のプラズマクラスターよ、ゆうちゃん♡』とドヤ顔だった。


『いやいや、なんか違うぞ!』と、俺も一瞬思ったんだが、ちょこんと植木鉢に生えてるネギを見たら、コレもある意味緑で癒しかな?と、絆されて放置した。

だから今も、我が家の窓にはネギが鎮座している。


そして俺が鮫島さんに、赤髪にされた時も、大して驚かなかった。

ちょっとは、怒られるかなぁと、思いながらお披露目したら、まさかの『ふ〜ん♪』だった。

しかも、ちょっと嬉しそうだった。


いやいや、ちょっと待てっ!と、思わず、こっちがツッコむ有様だった。


普通、進学校に通ってる実の息子が、いきなり真っ赤な髪で帰ってきたら、怒るか泣くか、するとこだろう?!


それなのに、美和子さんは、むしろ賞賛してきた。

しかも、その後の伝えられた事実の方に、俺が仰天してしまった。


「だってぇ〜。ゆうちゃんのお父さんも、高校生の時ぃ、髪の毛、緑だったのよ♡

さらっさらのロングストレートで、腰まであったから、よく三つ編みをしてあげたわぁ♡」ってニコニコ惚気られた。


親父っ、髪の毛、緑だったんかぁーい!!

しかも、腰まで髪の毛あったんかい!

どんな男だよ!


今まで、親父のことを聞いても、話を逸らされていたから、ほんとに衝撃だった。


いつも親父ってどんな人だった?って聞くと、決まって『ゆうちゃんのお父さんはねぇ、妖精さんだったのよ♪』と、脳内お花畑な発言で、はぐらかされていたから、それ以上詳しいことを聞いてなかったのだ。

きっと、あまり聞いてほしく無いんだろうと子どもながらに思っていた。


だから、普通に親父の容姿を話し出した美和子さんに衝撃を受けた。


これを機に、親父のことを聞いてみたら、普通に答えてくれた。

拍子抜けである。


どうやら、美和子さんは、話を逸らすために『親父が妖精だ』と言っていたわけでなく、本気で妖精だと思っていたらしい。


惚気話が次から次へと出るわ、出るわ....今でも、親父が大好きみたいだ。


だが、全く現実的じゃない話の方が多かった。


イケメンだった、細かった、優しかった、まではいい。

ここまでは普通だ。


だが、羽が生えてたと言い出した時は、『妖精説、残ってたぁっ!』と、母親の設定のブレのなさに感心した。


あとは、頭が、ものすごくよかったらしくて、俺の頭は親父譲りだったらしい。

労せず、知識が入っていくのは確かに助かってる。天国の親父ありがとう。


他には、ビルの屋上から母親を抱えて飛び降りたが、平気だったとか、四方を囲まれて絶体絶命の時に颯爽と現れて、蹴散らしてくれたとか、怪我をした時に治してくれたとか....。

『どこのアクションスターだよ!ファンタジーかよっ!』と心の中でツッコミをいれた俺は悪くないと思う。

母親のユーモアが凄すぎて、親父のイメージが崩壊してしまった。


そうそう。他にも、俺の親父のイメージが、破茶滅茶になった話があったな...。


鮫島さんたちと行動を共にすると、夜も遅くなるんだが、これに対しても、母親は寛大だった。


曰く『あなたのお父さんも、夜型だったのよ〜♡

朝ね、お日様が登ると逆に室内に篭るような人でねぇ。

学校の体育の時は、必ず保健室でサボるような人だったのぉ。

日にあたると、力が抜けて大変になるらしくって。実際、顔色も悪かったわ。

だから、ゆうちゃんが夜遅くても怒らないわよ〜。

さすが、お父さんの子ねぇ♡きっと、遺伝したのねぇ♡』と嬉しそうに言っていた。


『いやいや、親父って、もしかして吸血鬼だった!?』って思った俺は、当然だと思う。


そんな変わった両親の血が混じった俺だが、かなり記憶力がよくて、前向きでお人好しのフツメンである。

(たまに天然と言われるが、俺はそう思ってない。普通だ。)





美和子さんと親父の話を、和葉に話し終わると、しみじみ感心された。


「さすが、美和子さん。動じなさが半端ないわ...。」


「ていうか、なーんも考えてないんだろうな。」


「それもあるね。

それにしても、ゆうちゃんのお父さんも変わった人だったんだね。初めて聞いた。

写真ないんだっけ?」


「あー、ないんだよ。不思議なことになぁ。俺も気になって、ガキの時聞いたことがあるんだが、写真は無理だったのよねぇ〜って言われたな。

どうやら、写真嫌いだったみたいだ。」


そうこう話をしているうちに、俺の通う聖徳光高校に到着した。

ここで和葉とわかれる。

和葉の高校は、ここからさらにちょっと歩く。


「じゃあな。」と、軽く手を挙げ俺は校門をくぐった。

そして、俺の姿を認めた生徒は、ギョッとして2歩は離れていく。

赤い髪をした俺が、怖いらしい。

今日も、俺の半径3mは、空間になった。

モーゼの十戒現象だ。


しかし、そんな反応を示されても、『歩きやすいなぁ〜。赤髪様様だ〜。』と、思うだけである。

こういう気にしないところは、美和子さんゆずりなのかもしれない。



ちなみに親父の話は、半分以上嘘だと思っていたんだが...

のちに、真相が明らかになった。

とりあえず今は、親父も母親と同じく、全然普通じゃなかった、とだけ言っておこう.....




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