第2話 赤髪の主人公

カチャンと、家の鍵を閉めて、足を軽くトントンと地面に打ち付け、靴を履きながら歩き出す。

そして、青年がマンションのエントランスに向けて歩いていると、後ろからパタパタとこちらに向かって走ってくる音が聞こえてきた。


「おはようっ!ゆうちゃん!」


バシッと背中を叩かれながら、いつものように挨拶をされた。


「痛っえぞ。おはようさん、和葉。」


俺は、叩かれた衝撃で肩からずり落ちた鞄を直しながらも挨拶を返した。

叩いた本人は、にへへっと白い歯を覗かせながら得意げに横に並んだ。

頭の高い位置で一本に結ばれたポニーテールが揺れ、相変わらず快活な様子だ。

こいつは、俺の家の隣に住んでる幼馴染だ。


俺が家を出る音が合図になって、いつもの登校時間だと気づくらしい。それゆえに慌てて家を出てきて合流する。

俺をアラーム代わりに使う図々しいやつだ。


そして、

「ねぇ、ゆうちゃん。その頭、まだ元に戻さないの?」


和葉が、苦虫を潰したような顔で、今日も俺の頭の色を指摘してくる。

会えば一番最初に言われる。

もはや、朝の挨拶とセットだ。


俺の頭はちょっとおかしいのだ。

頭の形とか中身の話ではない、見た目がおかしい。色が派手派手しく髪型が普通の男子高校生じゃない。


俺の髪は、赤である。紅蓮の炎のような情熱的な赤い色である。

髪型の基本はウルフカットで、右側の前髪だけ少し長めにしてあり、耳の部分は刈り上げだ。他の部分は、長い部分と短かい部分が混在し、個性的なビジュアルバンドマン風なのである。


しかし、本来の俺はそんなナルシストな髪型をするファンキーな男ではない。

自意識過剰男でもなければ、リア充でもない、至って平凡な男子高校生なのだ。


それ故に、俺には浮いた髪になり、幼馴染の和葉に心配される。


ちなみに、和葉以外にも俺のことを知らない人々からも奇異の目で見られる。

なぜなら、首から下の服装と髪が合ってない。

今の俺の服装は、生真面目な優等生そのものなんだ。


きちっと詰襟までボタンを留めて着ている真っ白な学ラン。

ズボンも腰パンなんてあり得ない。

ウエストまでしっかり上げて、ベルトで拘束。裾もぴったり足の長さに揃えてはいてある。

だらしないと言われるような部分は一つもない。


そんな模範的な着方をしているからか、すれ違う人から、よく二度見をされる。


『えっ?どっち?』

『バンドマン?それとも....不良?

でも、服装がしっかりしすぎ....。』

『何かの罰ゲームで、かつら被ってんじゃない?』

というように、団体様からヒソヒソ陰口を言われる。

大体、罰ゲーム説が多いな。


制服を崩して着れば、違和感が無くなり、遠目に見られるだけで済むのだろうが、この着方は譲れない事情がある。


あまりに注目されるので、一度だけ制服を崩して着てみたことがある。

その時は、学ランのボタンを全部開けて、中にTシャツを着て、腰パンにしてみた。

赤い髪と合わさって、まあまあ見られる格好になった。

だが、とにかく歩きづらかった。機能的にアウトだ。

しかも、なんか背中や腕が、ザワザワ、スースーして、全身がかゆくなり、落ち着かなかった。精神的にもアウトだった。

どうやら、俺は服はきっちり着ないとダメな人間だった。


じゃあ、最初に戻って髪を普通にすればいいって思うだろうが、それもできないのだ。

理由があって、この色なんだ。

俺の趣味でしているわけではない。



「まだ、この色だな。

鮫島さん、まだ飽きてないみたいだし。」


前髪を摘んで、視界に入れる。

今日も、赤髪が、日光にあたって輝いてる。

枝毛もなし、キューティクルもばっちりだ。

もう慣れ親しんでしまったので、嫌でもないし、自分から変えるつもりはない。


「もぉぉっ!なんなの!

いい加減、ゆうちゃんを解放しなさいよ!

あいつ、本当ぉっに、大っきらい!!」


そして、和葉が、地団駄を踏んでプンスコと怒るのも毎朝のお約束だ。


「そんなこと言っても、鮫島さんなぁ。

まだ、彼女できないんだよ....。

彼女ができないと、和葉が困るだろう。」


「そんなこと言ってたら、一生パシリ卒業できないじゃんっ!

アイツに彼女ができることなんて、あり得ない!だって、凶悪ゴリラじゃん!

好かれる要素、ほとんどないよ!」


「んー、そうかなぁ...。

まぁ、慣れればアジがあるようなひとだし。常に凶悪ってわけでもないから、俺は、好きだし、ある意味尊敬もしてる。

だから、もしかすると、彼女できるかもしれないじゃないか。」


「ゆうちゃんはね、人が良すぎるんだよっ!

そもそも、私なんかのために......。」


この会話でお察しすると思うが、この髪型には鮫島さんが大いに関わっている。そして、和葉も関わってる。

俺は、巻き込まれた感じだ。


だから、和葉は申し訳ないと言う気持ちが捨てられない。

そんなしゅんと意気消沈する和葉の頭をポンポンとしながら、俺は鮫島さんとの出会いを思い出す。




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