10話くらい

「……確かに確認しました。では、アイディオ・セアン様はCランク冒険者として再登録させて頂きます」

 受付嬢の声色には驚きが垣間見える。やはり、Dクラスにやる仕事はないということなのか。

「やった! これで冒険者が続けられるようになったよ!」

 消極的な感想を抱く自身と対照的に、セアンは非常に楽観的だ。ただ、せっかく進んだ一歩なのだ、素直に喜ばなくてどうするというのだろう。

「そうね、今日はパーっとやりましょうか!」


※   ※


「じゃ、これからの展望でも肴に酒でも飲みましょうか」

「え? ルイス様って、どう見ても酒が飲める年齢じゃないけど……」

 セアンが疑問を口にする。

「なにを言ってるのよ。嗜みで飲んだことくらいいくらでもあるわ。それに私、酒には強い方よ」

「いやいや、ルイス様もまだ子供でしょ? まぁ、俺は強いわけじゃないけどさ」

 子供扱いされるのは癪だが、理にかなってはいる。仕方ない。

「そうね、じゃあこの『魔法的うまさ! ギルド特製水竜のステーキ』を酒の代わりにつまみましょうか」

 胡散臭い名前だが、水竜の肉料理といったら定番料理だ。

「よしきた! あれはギルド内でもかなりの絶品だよ! さすが侯爵令嬢、審美眼はさすがだね」

「もちろんよ、じゃ、ステーキが届くまでに次に何をするか話しておきましょう」

 食事は万人に共通する娯楽だ。晩餐選びに夢中になるのは、当然とも言える。

「この前言ってた作戦だと、次はルイス家に行く予定じゃなかった?」

「よく覚えてたわね。ただ、このままBランクを目指しても構わないわ」

 作戦に変更の幅が生まれたことを伝えていると、頼んでいたステーキが届けられる。

「フレーゲンみたいなMP総量が威力に関係するような魔法だと、セアンの力は強すぎるわ。それこそAランクだって目じゃないくらいよ」

 試しにと、ステーキを一口頬張る。魚介類の味と、ステーキとしての濃厚さが噛み合い、独特な味わいを生み出している。確かに絶品と言われるだけはある。

「とはいえ、ルイス様がいないとなんにもできないからな……」

 ステーキを頬張りながら卑下するセアンだが、それはお互い様だ。

「だから、タッグを組むんじゃないの。そうね、私の自由より前に、Bランクまで行っちゃいましょう」

「Bランクより前に、ステーキを食べない?ルイス様」


『フエーゴ火山にて、低級火竜の討伐 報酬:Bランク冒険者への昇格 条件:4人以上のパーティを組むこと』

 水竜のステーキを平らげ、クエストの掲示板を見る。ネックなのは、仲間をもう2人見繕う必要があることか。

「4人以上のパーティって……どうするつもりなの? ルイス様」

「そのための酒場じゃないの。さ、ぱぱっと拾っちゃいましょう」


※   ※


「俺はアドニ、戦士としてCランクをそこそこやってたんだ。そんで、そこのヒョロイのがアメリアな」

 茶髪の少年が、横にいる華奢な少女を指し示す。

「アメリアです、よろしくお願いします。聖職者をやっていました」

 深々と礼をした銀髪の少女は、修道服に身を包んでいる。服装と所作から、礼儀正しい印象を受ける。

「じゃあ、こっちの番ね。私はルイスよ、魔法使いデビューしたてなの。よろしく頼むわ」

「俺はセアンです、同じく魔法使いさせてもらってました」

 全員が軽い自己紹介を終えると、アドニが話を始める。

「あんたら、魔法使い二人でやってたのか!? それにデビューしたてって……大丈夫か?」

「心配には及ばないわ。むしろ、私たち二人を捕まえられたのは幸運とまで言えるわね」

「ほんとかよ……」

 怪訝そうに言うアドニだが、あいにく事実だ。Cランク程度ならトップレベルの実力だという自負はある。

「そんなに疑うなら、手合わせしたっていいのよ? ねぇセアン」

 顔合わせついでに決闘をしまいという空気に気乗りしなさそうなセアンに声をかけてみる。

「はぁ……ルイス様の仰せの通りに」

 明らかに乗り気ではないことが返ってくる。

「手合わせだなんて、危ないですよ! 怪我したらどうするんですか!」

 突如、おどおどとしていたアメリアが声を上げる。ただ、アドニには届いていないようだ。

「いや、やろうぜ。裏の物置なら邪魔も来ないだろうしな」

 まさか乗ってくれるとは思わなかったが、好都合だ。肩慣らしと行こうじゃないか。


※   ※


「一本勝負、片方がダウンしたら勝ちでいいか?」

「なんでも構わないわ、かかってきなさい」

「よしきた! アメリア! 援護、頼んだぞ!」

 掛け声とともに、アドニの体が淡く光り、こちらへ駆けてくる。Bクラスを目指すだけはあり、やはり早い。だが、甘い。

「セアン、あんたは引っ込んでなさい。格の違いをわからせてやろうじゃないの」

 こちらも一歩前に強く踏み込み、前方に水をばら撒く。

「うわっぷ!」

 アドニが水をまともに食らって足を止める。魔法使い相手に真っ直ぐ突撃するなど、愚の骨頂だ。踏み込みの勢いのまま懐に入り込み、至近距離で勢いよく水を放出する。

「どわあああああ!!」

 放出した水に流されて、アドニがアメリアのところまで流れ着く。

「相性が悪かったわね。でも、これでわかったでしょ? 私たちの実力」

「嫌ってほど思い知ったよ……」

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