6話とかそこらへん
「なるほど、ここが冒険者ギルドね……」
老若男女問わず、多くの冒険者たちが和気あいあいとしている。クエスト受注の場を酒場とほぼ一体化させることで、冒険者同士のコミュニケーションを円滑にする狙いだろう。さらに併設の酒場で食事を取ってくれれば、さらに収益が見込める。これはいい経営をするな、と素直に感心してしまった。
「ルイス様も、ここは悪くない所だって思うでしょ? まあ、俺に取っては失職を告げられた因縁の地なんだけど…
…」
セアンが皮肉を込めてそう零す。
「もちろんよ。活気にあふれた場所で良いと思うわ。ただ、本題はそれじゃないでしょ?」
そう、本題はそれじゃない。冒険者ランクの昇格だ。セアンはDランク冒険者であるため、現在クエストを受注できない。ただ、昇格すれば話は別だ。ランクさえ上がれば、普通にクエストを受注できるようになるはずだ。特にセアンの潜在能力はピカイチだ。こんなところで燻らせる訳にはいかない。
「うん。これが昇格用のクエストだ。普段は報酬で多少お金がもらえるはずなんだけど……財政難だからね、Dクラス風情に払う金はないってことみたいだ」
セアンに指し示された紙には、こう書かれていた。
『レイモー草原にて、オークの群れの討伐 報酬:Cランク冒険者への昇格』
※ ※
「ファイア!」
セアンの詠唱と同時に、オークに向かって火球が放たれる。オークに激突した火球が小さく爆発し、オークを吹き飛ばす。緑褐色の肌が焦げ、小柄な魔物は動かなくなる。
「流石にこんな雑魚には勝てるわね。安心したわ」
とはいえ、オークは人海戦術を使う種族だ。数体を相手にできたとしても、群れを前に倒れる冒険者は少なくないと聞く。ただ、今回はオーク達の8割を自分が低級の水魔法で薙ぎ払っているため、セアンが負けることはまずないだろう。
「こんなもんかしら。昇格のためのクエストとはいえ、所詮Dランクね」
「いや……うしろ……」
「え?」
セアンの怯えたような声を聞き、後ろを振り返る。
そこには、オークの群れの長であり、上位種のハイオークが佇んでいた。
「——————ッ!!」
激しい雄叫びとともにハイオークの強靭な腕が振り下ろされる。振り返った勢いのまま上体を捻り、水を放って勢いを殺す。とはいえ、上位種の攻撃だ。オークとの交戦で消費していたのもあり、防御が足りず交差した腕で受け止める。
「ッ痛〜〜……なかなか効くわね……」
直撃の衝撃から後方に大きく吹き飛ばされるが、物理攻撃を主体とするハイオーク相手にはむしろありがたい。体勢を整えるためにも、距離を取ることができる。ただし、真に気がかりなのはこいつではない。
本来、ハイオークは小規模の群れには所属しない。今回の討伐対象はせいぜい2,30匹程度の群れだと思っていたが、ハイオークが長を務めるということは100匹を超える群れだということだろう。となると、まだオークが相当数残っているということだ。そう、オークの処理にまで手が回っていない今、真に気がかりなのは、セアンの安否だ。
「やっぱりね……」
セアンの方に目をやると、複数のオークに囲まれ、かなりジリ貧な様子だ。ハイオークに距離を詰められる前に、セアンの方へ近寄る。
「! ルイス! 助けに来てくれたの!?」
「当たり前じゃない。私たち、タッグなのよ?」
目の前の小柄なオークを蹴り飛ばし、セアンに触れる。
「それにしても、明らかにDランク冒険者にやらせるクエストじゃないわよね……」
ギルドの想定外なのか、嫌がらせなのか。財政状況を考えると、後者の可能性の方が高そうだ。
「そんなこと言ってる場合じゃないよ、ルイス様……どうすんの、これ」
前方に目をやれば、目算で70体ほどのオーク、そして群れのトップであるハイオークが立ちはだかっていた。
「ま、ちょうどいいわ。私たちの初陣にちょうどいいデカブツじゃない」
セアンからMPを吸い取り、左手に集めていく。
「これ、大丈夫なやつなの……?」
そう思うのも無理はないほどに、順調にMPが集まっていく。水に包まれ青白く光るMPの塊は、その力が放たれる時を今か今かと待っている。
「さ、あんたと私の合わせ技よ、目に焼き付けなさい。『フレーゲン』」
力の塊を空中に放り投げると、一際明るく輝き、弾けた。
—————————次の瞬間、空から無数の水砲が放たれる。降り注ぐ攻撃はオークを貫き肉塊に変え、ハイオークの体に数え切れないほどの穴を開けた。
「やっておいてなんだけど、えげつないわね……」
破壊の限りが尽くされたそこは、ついさっきまで息巻いていた魔物の姿はなく、破壊の限りが尽くされていた。
「初めてだよ、こんなに命を殺めたのは……」
こうして、圧勝という形で初陣は幕を閉じた。
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