5話あたり
一般的に魔法とは、体の内にあるMPを任意の形で外に放出することを言う。私、ルイス・メディアムに備わっているのは放出するという部分の才能で、MPの総量は一般人以下だ。これは魔法使いとしては致命的で、端的に言うなら、燃費が悪い。しかし、このアイディオとかいう男は全くの逆、燃費が良すぎる。一瞬触っただけでわかる、海の如きMP量だった。仮に亜人の血だったとしても、異常と言わざるを得ない。
「さっきから何なんだよ一体! 吸収に招待? いかんせん説明が足りなさすぎるよ!」
やはりだ。さっき使った分ほぼ全て無理矢理吸い取ったのだ。普通なら絶対に不調が現れるはず。だがこの男、おそらく吸い取られたこと自体に気付いていない。
規格外だ。確かにMPの多い人間というのは注目を集めづらい。ただ、ここまでの力を隠し持つ者は初めてだ。
「助けてもらって色々すまないわね。吸収は大した量じゃないし、招待も強制じゃないわ。ただ、少しあんたの身の上話もしてくれないかしら?」
ここまでの力、敵に回したら厄介だ。余計な地雷を踏まないためにも、申し訳ないが雑な嘘をついておこう。そんなことより、素性を知るのが優先だ。
「う〜ん……腑に落ちないけど、わかったよ。俺の身の上話なんて聞いても面白くないと思うけど———」
こうして、彼の生い立ち、冒険者になってからクビまでの経緯。
「———こんなもんじゃないかな。はは、ただの無職の自分語りだったけど、満足した?」
聞けば聞くほど、なぜここまでの力を持ち得るのか、理解できない。しかも、おそらく有り余る力の活用もできておらず、自覚もしていない。
果たして、世界中探したところでここまで自分と相性のいい存在が他にいるだろうか。これは———運命の出会いだ。
「アイディオと言ったわね。もう一度聞くけど、招待に乗る気はあるかしら?うまくやれば、あなたの冒険者ランクを上げられるかもしれないわよ」
「どうせ無職なんだし、とことん付き合うよ」
スカウト成功だ。
「そうと決まれば作戦会議……の前に、お互いの呼び方を決めておきましょうか。いつもでも代名詞で呼び合いたくはないわ」
細かいことだが、関係性の構築には重要な要素だ。
「セアンでいいよ。僕からはなんて呼べばいい?」
「侯爵令嬢よ? ルイス様と呼びなさい。あと、冗談だから間に受けないこと」
「了解、ルイス様」
苦笑いと共に下らない提案を了承され、何だか申し訳ない気持ちになる。おかしな方向に関係性が構築されてしまったのではないか?
「はぁ……まぁいいわ、本題の作戦会議よ。まとめると、私とセアンが夫婦になる。って作戦ね」
「夫婦!? 俺たち、初対面だよ!?」
驚くの無理はないが、相手は初対面でもアドリブで助けてくれるお人好しだ。それに、この男の価値は危険性に見合うほどのものだ。
「落ち着きなさい。別に今すぐじゃないし、ここまで散々付き合ってもらったのよ? あなたの都合がいいように計らうに決まってるじゃない」
「わかった……じゃあ、細かい計画を教えてくれ」
「そうね、簡単な流れを示しておこうかしら。まず、セアンとタッグを組んで、冒険者ランクを上げましょう」
これはセアンへの恩返しだ。あそこまで迷惑をかけておいて何も返さないと言うほど恩知らずではない。それに、セアンのMP量と、自分の魔法の才能を最大限活かすことができ、日々の生活に飽きることもまずないだろう。まさに転職だろう。
「次に、私たちが夫婦としてルイス家に帰るわ。私がある程度独立できることを示せれば、家から出ることも認められると思うのよね」
計画に穴はあれど、適宜埋めていけば何とかなるはずだ。
「なるほど……でも、何で俺なんかとタッグを組んでランクを上げようなんて思ったの? ルイス様の権力で無理矢理Aランク冒険者に成り上がり……なんて、全くありがたくないんだけど」
「やっぱりあんた、気づいてないのね。せっかくだし、これを使ってみなさい」
そう言って、ポケットの中から小さな青い結晶を取り出す。
「これは?」
「使い捨て用の鑑定石よ。これにMPを流したら、そこらへんの空中に自分のステータスが浮かび上がる筈よ」
「これ、もしかしなくても相当高価な物じゃ……」
「そうね、家から”借りてきた”から正確な値段は分からないけど、魔道具だし、いい値段はするでしょうね」
ただ、セアンのMP総量を知れると考えると、値段以上の価値は確実にある。
「一応使ってみたけど、これは……」
鑑定石が淡く光り、すぐに色味を失う。その直後、空間に文字が現れる。
HP:500/500
MP:299765/300000
物理攻撃力:200
物理防御力:150
魔法攻撃力:350
魔法防御力:500
「——————なんてこったい……20年近く生きてきて初めて知ったよ。自分にこんな力があったなんて」
「数字で見ると、やっぱりエグいわね……」
明らかに他の数値との差が開きすぎている。魔法職なだけあって、魔法関連のステータスは平均より少し高いが、目立つ程ではない。
「でも、これでわかったでしょ。あんたのMPを、私が攻撃魔法として使う。最強タッグの出来上がりよ」
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