11章 新たな出迎え
この世界に来てから、俺にとって予想外な事ばかり起きている。いきなり、よく分からない世界に飛ばされ、その場で会った初対面の人にこの世界の事実を簡単に知らされ、終いには鉱山へ潜り、俺がとんでもない力を持っている事を知った。
あまりにも中身の濃すぎる、そんな日々であった。だが、それはこれからも続くのかもしれない。そんな事を考えていると....。
「起きろー!!」
「痛!!」
色々と状況を整理しておきたかったので、目を閉じて一人で横になっていた所をルルに思い切り叩き起こされた。
「たまには俺もゆっくりさせてくれよ!なんでこんな....」
「ショウは皆と違ってのんびりだなー。皆は忙しいってのに」
「もしかして....、何か大変な事でも!?」
しまった。自分の事しか考えていなかったために、どのような事態が起きているのか把握していなかった。もし、また予想外な出来事が起きていたらと思い、慌てて体を起こし、ルルに聞いてみた。が....、
「ん?大変と言っても、私達にとっては日常的な事だよ」
「それはどういう....」
「姉ちゃん達は村の手伝いに行ってるんだよ」
「ならお前は?」
「ん?暇だったから話す相手を探してた」
「なら、叩き起こす必要なんて無かったじゃねーか!!」
そう言って、取っ組み合いを始めた。ルルからすると、ただのじゃれ合いにしか思わなかったかもしれないが、長い事続けたせいで、俺達はヘトヘトになってしまった。
やがて、俺達は落ち着くと日陰に座り込んだ。
俺が横になっていた所は海沿いにある砂浜で、少し前、まさにゼル兄と釣りをした所である。ここは景色も素晴らしく、静かで一人でいるには最高の場所であった。まあ、それもルルに壊されてしまったわけだが....。
お互い疲れてしまったか、黙り込んで再び静けさが訪れてきた。
「本当にありがとね」
「急にどうした!?」
静かな空気にムズムズしてしまったか、ルルから突然、話を切り込んできた。
「んー、なんて言えばいいのかな。姉ちゃん達の笑顔とか楽しそうな所を見ることができてうれしかったの」
「そうなのか?」
「うん。特にレイリ姉ちゃんはね」
とても意外な事を聞いた。確かに鉱山に潜っている間、本当に苦しい戦いが多かったが、その合間に見せる楽しそうな様子を思い出し、今でも驚いてしまうほどだ。
何か深い事情があるのだろう。でも、それを聞き出すのはあまり良くないと思う。そうして、色々考えてどう話を返せばいいか戸惑っているのを悟られたかルルが話を始めた。
「この村はね、私達みたいな子供が少ないの。見たとは思うけど、他の所とは違って人が少なくて、お年寄りが多いの。とは言っても、私はこの村以外の所には行ったことが無いけどね」
そう言って、ごまかすように笑った。
でも確かに今まで見ていた限り、ルルの言っていた通りなのだろうと理解した。この世界の別の村や都市はどういったものになっているかは知らないが、日本で言うところの田舎という雰囲気と似ているものがあると感じていた。
「でも、それでレイリとアリーシャにどう影響するんだ?」
「ショウにももしかするとわからないかもしれないけど、お年寄りは一つ一つの動きが遅くて、できる事が限られてくるの」
「それはわかるぞ。俺のいた日本でも同じだからな」
「ならばわかるはずよ。その人達を支えるには誰かが付いてないといけないの」
「確かに....て、もしかして」
「そう。その多くのお年寄りのお手伝いとして姉ちゃん達はほぼ毎日やってるの」
そういう事だったのか。どれほどの人達のお手伝いをあの二人は休む暇もなく、やっているのか。それは俺にもわかろうとしても難しいところだろう。でも....、
「じゃあ、なんでルルはここにいるんだよ。手伝いに行くべきなんじゃ」
「余計な事に気づくよね、ほんっと」
そう言って、ルルは勢いよく立ち上がり、伸びをして、今までより声を大きくして、
「私は力仕事はある程度できるけど、日常生活の手伝いみたいな細かい作業は本当に不器用で私に来る手伝いは姉ちゃん達に比べてかなり少ないの」
「....、お前、意外とドジだったんだな」
「一言、余計なの!」
隙を突かれたようにビンタされた。でも、先程のような揉め事にはならず、ルルは落ち着きを取り戻し、再び俺に話しかけた。
「そんな二人をリフレッシュさせてくれて感謝しているのよ」
「あんな苦しい戦いのどこがリフレッシュになるんだよ?というか、本当にリフレッシュになってたのか?」
「それは聞いてみないとわかんない」
「ほらな?」
「でも....」
俺の主張を否定しようとして、少し間を作る。そして、また俺に話しかける
「でも、あんな楽しそうなところを見たのは本当に久しぶりだったんだから!だから....」
そう言うと、俺に目を合わせてきて、
「本当にありがとう!」
なんと、ルルが俺にお辞儀をしてきた。鉱山に潜るきっかけを作ったのは俺ではなく、ゼル兄だから特に何もしていない。だから、こんな風に言われても変な気分だった。
「いいけどさ、そんな行動をするなんて、ルルらしくもないような」
「本っ当に一言余計よね!」
そう言って俺に対して殴りかかろうとしてきた。
「もうやめてくれ!さすがに何度もやられると痛すぎるから!」
俺は必死に叫ぶと、ルルは動きを止めて、少し考えてから、
「まあ、今回はショウのおかげでもあったわけだから、殴るのは無しにしようかな」
言葉とは正反対に俺に対して、とびっきりの笑顔を俺に見せた。本当に眩しいほどの笑顔すぎて、つい、こんな一言が出てきそうになってルルに聞こえない声量で吐き出した。
「コイツ....、鬼すぎんだろ」
俺はぼそっと呟いてその場を退いた。その姿を見て、ルルもまた呟く。
「こんな態度できるの、アンタだけなんだよ」
何事もなく、平和すぎた一週間が過ぎ、ついにこの村から出発する日を迎えた。
いつも通り、朝早くに俺は起きて、朝日を浴びようと外に出ようとする。家の静けさからして、またいつも通り、一番に起きたのだろうと頭の片隅で思った。
日本にいた時から、早起きは欠かさずやっていたため、おそらくそれがこの世界に来ても、体に馴染んでいるのだろう。
外に出ると、珍しくレイリがそこにいた。それにしても、何故なんだ?なんで、そんな変な行動をしている?気になったので話しかけることにした。
「なんでジャブなんかしてるんだ?」
「うわぁぁぁ!!」
いきなり声をかけた事にレイリは驚いたみたいで、飛び上がった。
「シ、ショウ....。どうしてここに....」
「毎朝、早く起きてこうして日を浴びてるんだよ」
「ふ、ふーん....」
「それにしてもジャブなんかして、役に立つことなんてあるのか?」
「ん?これってジャブって言うの?よくわかんないけど、落ち着いていられなくて体を動かしていたのよ」
「....、緊張しているのか?」
そう聞くと、レイリは動きを止めて、少し俯いてから俺に話を返してきた。
「どうなんだろ、よくわかんない。でも、体を動かさないと気が済まないほど落ち着いていられないの」
「怖いのか?」
「ううん、そんな負の感情ではなさそう。どちらかと言うと....楽しくて興奮しているのかな」
「なら、それは良い事じゃないか。今はその感情をいっぱい堪能すればいいと思うぞ」
「うん!ショウ、ありがとね!」
「お、俺は何もしてねーよ」
そう言ってレイリもまた俺に満面の笑みを見せた。不意を突かれそうになって、思わず照れを見せてしまいそうになったのでまともに日を浴びることなく、すぐに家の中へと戻っていった。
ある程度、落ち着きを取り戻し、食事や出発の準備を済ませて、いよいよ、新しい冒険に向けて四人でギルドへ向かう事にした。
ギルドに着くと、いつもの受付嬢のような格好とは少し違ったニルヒムが俺達を待っていた。
「お!待ってました!早速なんですが、旅のことで少し話が....」
「その前にちょっと待ってくれるか?」
「ん?どうしました?」
「少し確認したい事があって....」
そう俺は呟くと、初めてここに訪れた時に世話になった奥の機械の方へ向かっていった。
前に、ゼル兄やニルヒムが言っていたが、鍛錬をする事で能力の上がり下がりが起こるらしい。俺達は鉱山に潜ったが、それだけでなく、予定より下の層のドラゴンまで倒した。ここまでやれば、多少の変化が起こっているだろうと思っていた。だから、冒険の前にどのような変化が起こっているかなどの確認と、これからの能力の向上に繋げていけたらと思い、再び能力の測定をしてみることにした。
俺がしようとしている事をレイリ達三人は気づいてか、それぞれが測定し直した。結果としては、三人共、能力の下がったものはなく、全てに少しずつ増加が見られた。特に、レイリとルルの攻撃が大きく上昇していた。まあ、あの戦いにおいて、特に活躍した三人だから、この結果は納得できる。さて、俺はと言うと....。
頑強 五七、体力 五五、俊敏 四八、攻撃 二七、知能 六八
俺も能力の下がったところは無く、全体的に少しずつ上がっていた。攻撃が他の能力に比べて大きく上がったのは、もしかすると、あのドラゴンのおかげだろうか....。
そして、再び、問題のあの能力に注目してみる。
結果としては、
運 〇(計測不能)
「ふぅー」
一度、状況整理をしたくて、ため息をしたが、やっぱり訳が分からず、ニルヒムに助けを求めようと目を向けた。すると、
「うーん、変わらないというか、前回測った際は最低値を振り切れていたので、そこからはもしかすると上がっているかもです。ただ、それが見えてないだけで....」
「でも、結果的には....」
「はい。まだ、振り切れていますね....」
「まーじで、どうやって運を上げることができるんだよ....」
今にも諦めそうな呟きを俺がしていると、レイリ達が苦笑しながら、軽く慰められた。
「さて....」
一息付いたところで、ニルヒムが話を切り出した。
「今更ですけど、旅の準備はできたということでいいのですね?」
「ああ、もちろんだ」
「ならば、こちらに付いてきてください」
ニルヒムにそう言われると、一緒に表へ出ていった。
表に出ると、馬が一頭と、馬車と思われる荷車が一つ、そこにあった。
俺らにこれほど大きな荷物が必要なのだろうかと考えているとニルヒムが俺達にこの意図を話してくれた。
「ヴィルクリニッヒまでは距離もかなりあり、少しでも早く着くためにもこのような形を用意しました」
「だからと言っても、何も荷車まではいらないだろ」
「それはですねー」
何やらニルヒムが浮かない表情をしているので何を考えているんだと思っていると、
「そのですね....、私もヴィルクリニッヒに行く用事がありまして、そのための必要な物が入っている荷車なんです」
「なるほどね、一緒に連れて行かせろということね」
「いえ」
「ん?」
「いや、そうではあるんですが....」
そう言うと一つ間を置き、
「一時的ではあるのですが、私をパーティーに入れてください!」
ニルヒムは俺達を前に思いっきり頭を下げた。のだが....、
「は!?は!?なんでその流れになるんだー!?」
まったくどうしていいものか....。新しい冒険を前にまたも悩まされる俺であった。
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