10章 知らされる事実と踏み出す二歩目

 俺は、ゼル兄と話したいだけ話し終えると、ギルドに向かうため、レイリを連れて行こうと一度、レイリ達の家に戻った。

 すると、


 「私達も連れて行かせて!」

 「えー!二人が行くんだったら私も行く!」


 アリーシャとルルまでもが一緒に行くと駄々をこね始めてきた。


 「うるっさいなー」


 ギャーギャーと目の前で喚き散らされると、今すぐにでも怒りたくなるが、俺は、少し別の事を考えながらどうしようかと悩ませていた。


 果たして三人に俺が日本人という事を知らせていいのだろうか。


 ギルドの受付の人達が俺に話がしたいというのは、間違いなく今、俺が持っている本の事であるはずだ。そして、俺もまた、その話題で聞きたい事がある。そうなると、話の中で俺が日本人であるという事が出てきてもおかしくない。それを未だ何も知らない三人に知らせたら、一体、どんな反応をされてしまうか。せっかく、仲良く話せるようになった三人に対して、これは気まずくなるのではと考えていた。


 しかし、考えるうちに変わってきた。

 よく考えれば、この先、冒険者として三人で動くかわからないが、もし、動くとなると、知られるのは時間の問題である。それならば、いっその事、この時に知らせてしまうのは間違いではないのかもしれない。


 そう考えた俺は、


 「しゃあないなー。そんなに来たいのなら来ていいよ!」

 「やった!!」


 受け入れると、アリーシャが大はじゃぎで喜んだ。

 どうやら、アリーシャは俺に好感度を持ったのかもしれない。自分で決めつけるのも恥ずかしいが、どうも、あの鉱山を抜け出してから、俺への態度が嘘みたいに変わっている。本当に最初の時とは別人みたいに、感情を表に出してきている。そんな、アリーシャを見て、可愛いと思ってしまった。


 「なら行くとするか!」

 気を取り戻し、時間ももったいないので、ギルドへ向かう事にした。


 道中、明らかに鉱山へ挑戦しようとする時から周りに見られている気配が増えている気がした。もう、俺達が冒険者になったのが知れ渡ったのだろうか。でも、考えてみれば、挑戦する数も少なくなっていると言っていたので、その中でクリアして冒険者になったとなれば、こうなるのは当然かもしれない。


 ギルドに到着して、受付の人達と目が合うとすぐに、


 「あ!ようやく来た!」


 待ってましたと言わんばかりに俺達の姿を見て、大声で叫んだ。


 「す、すみません。こちらへどうぞ」

 少人数ではあったが、ギルドには他の人達もいたので、迷惑をかけたと自覚して、受付の人が落ち着いた口調で、カウンターのような場所に案内した。


 「あー、あのー」

 「私の事はニルヒムと呼んで下さい」

 「わかった」

 「ところで、ショウさん。この三人を連れてきてもよかったのですか?あなたも、大体、何の話をするかは予想は付くでしょう?」

 「わかるさ。でも、隠してる余裕も無さそうに思えてしまったし、来たかったみたいだから、連れて来ることにしたんだ」

 「なるほどですね。ショウさんが言うならそういう事にしましょう」


 一様、話していいのかの確認をして、確認が取れたとわかり、ニルヒムは引き締まった顔へと変わっていった。


 「ショウさん、確認ですけど、あなたは本の最後のページに書いてあった技を使用しましたね?」

 「ああ、使ったよ。あんな状況になれば、使う以外にどうにもできなかった」

 「私も終わった後ですが、見ました。ああなれば、使うのも無理はありません。しかし、問題は、あなたがその技を使う事ができたというところにあるんです」

 「え?どういうこと?」


 ニルヒムの指摘にレイリ達三人は、全く意味がわからず、聞くだけで必死というような様子である。


 「俺からも、聞きたい事がある。あの本は俺に意図的に渡したのではないか?」


 その質問にニルヒムは、少し驚いたように目を見開いたが、気を取り直して答えてくれた。


 「あの本を渡してしまったのは私達の完全なミスでした。本来は、レイリさん達と同じ本を渡すつもりでした。あなたが持っている本以外は白紙など無いのですよ」


 そう言いながら、ニルヒムは俺に積まれていた本をパラパラと見せるようにめくっていった。それに対して、俺は、頷くしかできなかった。


 「この際だから、私も言いたい事は言いますね。ショウさん、あなたがあの技を使ったという事は言える事が一つあります。あなたは、日本人ですね?」

 「....、ああ、そうだ。俺は、日本人だよ」

 「に、日本人....」


 レイリ達は全く言われている事がわからず、かなり戸惑っている様子だ。


 「レイリさん達には後で、ショウさんからわかりやすいようにお伝えしておいてくださいね」

 「わかった」


 レイリ達の様子を見て、少し気を使ってくれたみたいだ。


 「本当はあなたの本は今すぐにでも返してほしかったのですけど、技を使った以上、それができなくなりました。なので、私の知っている限りの事をショウさんにお伝えしますね」

 「お、おう」


 予想外の展開に俺もどうしていいかわからなくなって返す事に精一杯になっている。


 「ショウさんが出したその技は絶命技と言われ、使用した時、一時的に命を消費すると言われた危険な技と言われています」

 「おいおい、マジかよ....」


 命を一時的に減らすとか書いてくれたっていいじゃねーか。


 「ただ、その一方でその技は巷では、神からもたらされた技と言われており、あらゆる状況を覆す力を有すると言われています」


 確かに、あらゆる状況を覆すという様な事は書いてはいたが、神からもたらされたとはまた規模の大きすぎて、訳がわからない。


 「そして、ここからが聞いた話なので、確かなのかがわからないですが、どうやらこの絶命技は他にもあるみたいで、それぞれが独特の技を有しているらしいです」

 「な、なるほど....」


 どんどん話の規模が大きくなってきて、ついていけない。

 そういえば、俺もあと一つ聞きたい事があったので、それを聞く事にする。


 「そういえば、本の最後に書かれていたんだが、使命を背負うと書かれていたんだ。これが何を示しているかわかりそうか?」

 「使命を背負うというのは私も聞いています。しかし、それが一体、何なのか。そのあたりは何も知らないです。もし、本について詳しく知りたいのならなんですが....」

 「ん?」

 「この国の繁盛都市と言われているヴィルクリニッヒに行ってみませんか?そこに行けば、もっと情報が手に入ると思われますが....」

 「なるほどなー、でもここからだと遠いんじゃないか?」

 「そう....ですね。簡単に着く距離ではないですね」

 「そこは考えさせてくれ。レイリ達とも話してみた中で決めていきたい」

 「わかりました。でも、なるだけ早めに言って下さると助かります」

 「大丈夫だと思う。早いうちに答えが出るはずだから気にしないでくれ」

 「わかりました。私の話したい事はこれくらいです。他に何かありますか?」

 「いや、俺も大丈夫だ。本当に助かった」


 ギルドから出て、レイリ達三人を見ると、今も困惑しているようで、俺にどう声をかけていいか躊躇っている。


 「ショウ....」

 「ん?」


 俺もどう声をかけていいかわからず、黙って来た道を戻ろうとしていたが、レイリが腕を掴んで話しかけてきた。


 「私達に何か言わないといけない事があるんじゃなかったの?」

 「ん?まあ、そうなんだが....」

 「....受け入れるよ。ショウの言葉ならきちんと受け入れるよ。ね?皆」

 「うん!ショウの事、もっと知りたい!」

 「隠し事があるのなら、私達にわかりやすく教えてくれないとね!」


 俺は何を気にしていたのだろうか。もしかすると、今の三人の発言と反応は上っ面なのかもしれない。そうだとしても、聞き入れたい姿勢を見せてくれたので、これに俺は応えないといけない。


 「ははっ。気にしていた俺が悪かったのかもな。わかったよ。俺が頑張って伝わりやすいように伝えるよ」


 とは言ったものの、何から話したがいいのかわからなかった。


 「じゃ、じゃあ。何の話を先にしたがいいのでしょうか?」

 「ふふっ、そんな畏まらなくてもいいのに」

 「そしたら、日本人というところかな」


 今まで、俺がこの空気を仕切っていた自覚があったが、完全にペースをレイリ達に握られてしまって、調子が狂ってしまいそうである。


 「日本人だというのは間違いではない。日本人というのはな、わかりやすく言うと、お前達とは別の世界に住んでいる人と言えばわかるかなー」

 「別の世界....て、私達が住む所とは別にあるの!?」

 「そうだな。この世界とは十分違うぞ」

 「それは興味がある!!」


 アリーシャは俺の世界に興味があるみたいで、もっと話を聞きたいらしいが、今は、そんな話をしている場合ではない。


 「ところで、本の事なんだが....」


 そう言うと、俺の真剣さが伝わったのか、静かに俺の話を聞いている。


 「俺は、この本についてもっと知りたい。そして、一体、俺の世界とどんな繋がりがあるかを知りたい。そのために、ヴィルクリニッヒに行ってみたいと思っているのだが、正直、皆には迷惑かけているしついて来いとは言わない。けど、一様聞こうと思って....」

 「なーに、そんな回りくどい事を言ってるの?私達に来るか、来ないかって素直に聞けばいいじゃない」

 「あー、すまん。そういうことだ。でも、容易に決められても、今回は鉱山と違って、言ったら冒険になる。だから、きちんと考えて決めてほしいんだ」

 「んー、そうね....」


 俺の発言にレイリが呟きながら、三人とも顔を合わせて確認をしているようだ。

 やがて、確認が取れたみたいで、三人が俺に目を合わせてきた。そして、


 「冒険と言われてしまってはついて行くしかないでしょ!」


 ルルが興味ありげについて行くことを決心し、続いて、アリーシャに目を向けると、


 「私は、ショウの事をもっと知りたい。ショウが生きてた世界も、ショウ自身も。だから、私はどこまでもついて行くよ」

 「お、おう。本当にありがとう」


 そして、残すはレイリだけとなった。こうなると、レイリがついて来ない方が無さそうだが、答えを聞くために待つことにした。


 「ルルとアリーシャにここまで言われてしまってはついて行くしかないね。それに....」

 「それに?」

 「私達がいないと、ショウは危ない橋を渡りそうだしね!」


 物凄い決め顔で言われてしまったが、間違ってはいない。俺がどんなに強い技を持っていても、あまりにも負担が大きすぎるし、結局は守りに頼るしかない。そう言った意味で三人の存在は本当に大きい。だから、三人はついて来てほしいのが本音だった。


 「うるっさいなー。いいじゃないか、俺が何をしたって。でも、ついて来るのなら頼りにさせてもらうよ!」

 「やったー!冒険だ!」

 「よくそんな偉そうな事を」

 「もっとショウと一緒にいられる!」


 三人がそれぞれの反応を示し、喜びを全面に出す。


 「よし!そうと決まればすぐに行くぞ!」

 「いつよ?」

 「明日とか....かな?」

 「それはさすがに早いから休ませてー!!」


 レイリが全力で俺を止めに来たので、口論になったが、その空気はなんだが穏やかで、楽しかった。

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