9章 戦いを乗り越えて

 俺は、詠唱し始めると、まだ技が発動していないにも関わらず、体が燃えるような感覚がしてきた。


 「うぐ!!!」


 とても苦しい。苦しいが、ドラゴンに殺られるよりかは何倍もマシだ。だから、俺は技の発動を続ける。

 俺は、ゆっくりドラゴンとの距離を詰めながら残り二本しかない矢から一本を取り出し、その矢を勢い良く二つに折った。そして、尖ってしまった片方の矢を元々、白紙であった本に思いっきりこすった。


 ページが破けるんじゃないかと思うほどの勢いでこすったが、ページの方は何の傷も付いてない。

 一方、矢はこすると、尖端から火が出始め、纏わり付き始めた。それを確認してから、俺は、再び詠唱を続ける。


 「災厄をもたらす異物よ、我が炎にて斬り払ってくれよう!」



 「炎・鬼神滅殺剣!!」


 力いっぱいに技を発動し、ドラゴンの腹部に踏み込む。

 ドラゴンも察してか、後退する素振りを見せたが、このチャンスは逃しきれない。

 俺は、炎に纏った矢を剣のように横に鋭く切り裂いた。


 ドラゴンの腹部を横一閃に切り裂くと、切った線が赤く浮かび上がる。そして、そこから大爆発していった。


 爆風の影響を受け、ドラゴンの近くにいた俺は吹き飛ばされ、壁に強く体を打たれた。

 土煙が舞う中、ドラゴンがあの後、どうなったのかが確認できず、僅かある力で振り絞り、目を凝らすが、見えなかった。


 やがて、視界が晴れ始め、周りの状況が確認できるようになった。


 見ると、ドラゴンの姿はそこには無かった。

 おそらく、先程の技で倒したのだろう。そう思い、安堵すると、力が抜け始め、意識も遠ざかる実感がしてきた。


 「これで倒せてよかった....」


 そう言いながら、俺は、完全に意識を失くした。


 「ショウ!ショウ!起きてよ、大丈夫なの!?」


 アリーシャが心配そうに声をかけてくるのが何とかわかったが、返事をする程の力は無かった。アリーシャでも、感情を露わにする事ができるじゃないかと思いながら、完全に意識を閉ざしてしまった。





 頭がズキズキする。全身が悲鳴を上げる。俺のあらゆる箇所から痛みが走る。痛い。痛すぎる。


 「痛いって!!」

 「うわっっ!」


 あまりの痛さに目が覚めると、目の前にレイリがいた。周りを見ると、ルルとアリーシャも見てくれていたのだろうか、静かに眠っている。


 「急に驚かせて、何よ!!」

 「あ、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。って、ここは?」

 「ったく。ここは、私達の家よ。ショウの看病のために、ベッドを一つ使ってあげてたのよ」

 「それは本当にありがたいです....。看病って、そんなに迷惑かけたのか?」

 「そりゃあ、大変だったよ!丸四日くらい寝たまんまだったんだから!」


 四日も寝たきりだったということには俺も驚きだった。今でも、全身は痛いし、頭痛も軽い程度ではあるが、している。


 「うん?」

 俺とレイリの話し声に起こされたのか、アリーシャが目を覚ました。

 すると、


 ガバッッ。


 「ん?え!?」


 目を覚まして、俺が起きたのを確認してすぐに、アリーシャは俺に抱きついてきた。


 「良かった....。本当に良かったよー!」


 今までのキャラを崩壊する程、思った以上に全面に感情を出してきた。驚きだった。驚きしかなくて、声にすることすらできなかった。


 しばらくして、お互いに落ち着き、俺もあの後どうなったのか気になり、レイリとアリーシャから聞くことにした。


 俺がドラゴンを倒して、気を失った後、アリーシャは一目散に駆けつけ、敵が来ないか見張りつつ、ギルドからの救出が来た時のために、わかりやすいように明かりを点けてくれたらしい。

 そして、アリーシャも疲労困憊という中でレイリ達がやっとのことで俺とアリーシャが落ちた穴から降りて助けに来たみたいだ。その助けに来た人の中にはギルドは当然ながら、ゼル兄までも駆けつけて来ていたみたいだ。後で、お礼を言わないとな。

 というか、ゼル兄は鉱山に入ってよかったのだろうか。まだゼル兄の事をあまり知らないのもあるが、もしかすると、とんでもない事を隠しているのかもしれないな。


 結局、ギルドからの助けのおかげで無事、鉱山から抜け出す事ができたらしい。そして、ギルド目的のアスル鉱石は無事、採れていた事が俺のポーチの中から確認できた。しかし、それ以上に驚いた事がもっとあったと言う。


 聞くと、アリーシャが俺が倒したドラゴンの鱗を持って帰っていたらしい。ギルドによると、そもそもそのドラゴンはメタルスカルドラゴンと言われ、この辺りでは希少性のある敵だったらしい。そして、その鱗を持ち帰ったというのは、冒険者が残す戦績でもそこそこの出来前で、冒険者を目指す人達には到底、成し遂げることは不可能に近いもの。それほど凄いことをしたらしい。

 そして、最後に。


 「あ、そういえばショウに大事な事を言わなければいけなかったんだよ」

 「何か、あったのか?」

 「うんうん、ギルドからね、意識が戻って落ち着いたらギルドに顔を出してくれませんか、だって」

 「ほう?」

 「どうやら話したい事があったみたいだよ」


 ギルドから何を言われるのかは全くわからない。でも、俺もどうしても聞きたい事があるから、ついでに俺も聞くとするか。


 「あ、ショウ....」


 色々と話しているとやっとルルが起きた。どうやら、余程、疲れていたみたいだ。


 「どういうことよ!!」

 「な、何が??」


 目を覚まして、ショウも無事とわかった途端に、ルルは俺の両肩をつかみ、俺を揺らしながら訴えるように聞いて来た。


 「何がって....、とぼけないでよ!ショウに凄い技を持ってるなんて聞いてないんだけど!?」

 「ひ、酷いな....。俺だって凄いところの一つや二つ持ってもいいじゃないか」

 「でも!そんな技持ってるなら、あの巨人とオオカミでもやっておけば楽に行けたんじゃないの?」

 「それは....そうなんだけど....」


 あの時点では気づいてなかった。確かに持ってることを確認していれば、戦い方も少しは変わっていたかもしれない。


 「でも、あの技は本当に凄かった....!」

 実際にその場で見ていたであろうアリーシャは、興奮気味に言ってきた。


 「確かに、アリーシャがここまで言う程のものだもん。どうして、もっと前から使わなかったの?」


 レイリにも不思議そうに聞かれたので、隠しても意味が無いと思い、俺に起こった事全てを話した。


 「ふーん、なるほどね....」

 「ところで、レイリ達三人には白紙のページとかあったか?」


 一様、レイリ達が納得してくれたみたいだったので、気になる事を聞いてみた。

 三人は確認するようにそれぞれ、自身の本を開いて、次々とページをめくっていく。


 やがて、三人共、顔を合わせて確認してから、俺に結果を言ってきた。


 「私達の本にはその白紙のページは一つも無かったよ」

 「やっぱりか....」

 「やっぱりというのはどういう事?」

 「うーん、これはあくまで俺の推測でしかないんだが、もしかすると、この本は意図して俺に渡ったのだと思っているんだ」

 「なんでショウによ!」


 食いつくようにルルが疑問をぶつけてくる。


 「いやいや、決まった事じゃないから、そう焦らないでくれよ。けど、これだけははっきり言えるんだ」


 そう言い終えると、あの時、白紙から突如、浮かび上がってきたのを思い出しながら再び、三人に話す。


 「あの時、出てきた文章はレイリ達には読めない」

 「え....?それは、一体どういう....」

 「まあ、それもギルドに聞いてみるしかないか」


 そう言いながら一様、体を動かす程度にまで回復した俺は、ベッドを出た。


 「その前に、ゼル兄に一言感謝を言わないとな」

 「ちょ、ちょっと待ってよ!私もギルドに一緒に行かせて!」

 「ん....、んー、まあいいよ」

 「よし!」

 「それより、ゼル兄はどこに行ったんだ?」

 「ゼル兄なら、すぐ近くの海沿いで釣りをしてると思うよ」

 「ありがとう」


 居場所がわかると、すぐに行動に移そうと真っ先に海沿いに向かうことにした。



 レイリ達の家から海沿いまでは近く、もう既に海は見えている。そこから近づくように歩くとあっという間に海沿いに辿り着いた。

 こう眺めると、本当にきれいだ。現実でも俺は、海はあまり見たことが無かったので、この景色には本当に心を打たれた。


 「なーにしてんだよ」


 ただぼーっと眺めている俺にゼル兄が声をかけてきて、少し驚いた。

 ゼル兄がいる方を見ると、木陰に寝転がり、人差し指で不気味な動きをしていた。


 「何してんだ?」

 「んあ?見た事無いか?釣りをしてんだよ」


 そう話しながら、ゼル兄のいる所へ行き、見てみると人差し指から透明な糸のような物を出し、それは海中へと入り込んでいた。


 「そんなんで、釣れるのか?」

 「釣れるんだよ、それが」


 興味はあるが、そういうのを話すために、ここに来たんじゃないと言い聞かせ、話題を振り方を考える。すると、


 「その感じだと、大丈夫そうだな」

 「ああ、本当に助かったよ。ありがとう」

 「俺は、何もしてはいないよ。むしろ、俺の方からありがとうと言いたいところだ」

 「どうして?」

 「レイリ達を守ってくれた事にだよ。本当に感謝している」


 もちろん、無意識ではあるが、何よりもパーティーで組んでいる仲間だ。そんな人達を見捨てるような事は俺には絶対にできない。


 「そういや、ゼル兄はなんで鉱山に入れたんだ?」

 「あー、うん。仮にでも俺は冒険者なもんでね」

 「何?そういう事だったのか....」

 「そうそう。それはそうと、俺からも聞きたいことがあるんだが」

 「何だ?」

 「何だって、ショウ。凄い技を使ったらしいじゃないか。あんなの、冒険者である俺でも知らなかったけど、どうやって出したんだ?」

 「どうやってと言われても、俺は、本から書かれている通りに出しただけなんだよ」


 わざとらしく、俺に絡みついてきたが、言った事は本当なんだろうか。


 「それで?これからギルドに向かうんだろ?ギルドの嬢ちゃんから呼び出しされてたもんな」

 「ああ、じゃあまた後でな」

 「おう!」


 ゼル兄はギルドへ向かう俺の姿を見て、独り言のように呟いた。



 「もしかして、ショウも日本人ってやつなのか?」

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