8章 託される力
俺達が不幸に遭ったその頃、
ギルドでは、
「何、何!?何の揺れよ!?」
ギルドの受付の人達が大きな音と少しの揺れに驚いていた。
「何の揺れかわかんないけど、最悪じゃん!積んでいた本が崩れたじゃん!」
「手伝うよ」
この音と揺れの原因はいち早く解明しないといけないが、どうしようかと思いながら本を元の所に戻し、積み直そうとする。
すると、
「あ、あれー?」
「ん、どうしたの?」
「いや、そのー、本が無いのよ」
「え?しっかりあるじゃん」
冊数も数えて、元々あった数と一致する事も確認した。
「いや、そうじゃなくて、あの本が無いのよ」
「あの本?どの本のこと?」
「いっそう古い本だよ!これを言ってわからない事はないでしょ?」
「古い....ってまさかあの本のこと!?」
「そうそう!」
「失くすことは無いもんね....。一体どこに....、まさか....ね」
「何か思うところあるの?」
「今、鉱山に入ってる四人がいるじゃん?まさかその人の誰かに渡ってることはないよね?」
「まさかー、ね」
俺とアリーシャは槍を抜いた衝撃で地面が抜け落ちる被害に遭った。
俺は、落ちた衝撃でどれくらいかわからないが、気を失っていたみたいだ。周りを見ると、アリーシャも倒れていて、気を失っている。
「おい、アリーシャ、大丈夫か?」
「ん....、ん?ショウ?」
「ああ、そうだよ。俺らは十層からさらに下に落ちていったんだよ。覚えているか?」
「そうだった。大丈夫、特に怪我もしていないみたい」
「ならよかった。とりあえず動き出したいところだが....。ここはどこだ?」
せめて、ここが何層かわかればと思い、見ようとするが、俺達が歩いていた所と状況が変わりすぎていた。そもそも、足場がかなり悪く、どこで躓くかわからない。そして、松明が無いため、暗くて見えない。
「フラッシュアラウンド」
周りの状況が見えてないと、どうにもできないため、明かりを点けることにした。
それにしても、どうしたものか。上に上がることができるのかもわからないし、下に行くのは、外に出れる気が全くしない。
「アリーシャ、ここからの事なんだが、先に進むのは外に出れるかわからないから、このまま残って助けが来るのを待つか、一つでも元の階層に戻るかになるが、どっちが良いと思う?」
「んー、残るのは不安だから戻る方だと思う」
「やっぱり、そうだよな。なら、上へ戻れる道筋を探さないといけないな」
「うん」
「ここは手分けして探すか。アリーシャは左の方を頼む。俺は右で探す」
「わかった」
「あと、言っとくけど、かなり足場が悪いから、こけないように気を付けて歩けよ」
「ん」
言うだけの事は言ったので、すぐに行動に移した。
俺は明かりを照らしながら、アリーシャは何やら、カツカツと音がするので武器などで地面を叩きながら探しているのだろう。
本当に足場が悪くて、わかってても足が取られる。なんとなく、十層以降は立入禁止と言われているのが理解できた。
お互いに長い間探すが、見つからないのだろうか。アリーシャから呼びかけられもせず、ただ、カツカツという音だけしてきている。
しばらくしてから、
「ショウ、ちょっと来て」
「ん?」
何か見つかったのだろうか。アリーシャに呼ばれたので、とりあえず、アリーシャのいる所へ行ってみることにした。
「これを見て」
アリーシャのいる所に辿り着くと、アリーシャはそう言いながら矢で何かをプニプニと触っている。
「何だ?それ」
触っている方へ明かりを照らしてみた。
「ドラゴン....か?」
見てみると、竜の頭だろうか。でも、アリーシャがずっとつついても、何も反応しないため、おそらく死骸なのだろう。
「こいつ、大丈夫なのか?」
「さっきから何も反応しないし、たぶん死んでるのかも」
「だといいんだけど、こんなのが起きたらたまったもんじゃないぞ」
目標の階層には到達したものの、連戦続きだった。しかも、最後に戦った巨人とオオカミには全力で頭も力も振り絞った。だから、とても戦えそうに思えない。
そして、何よりもルルとレイリがいない。今まで火力としてかなりの活躍をしてくれた二人がいないとなれば、どう倒せばいいか全く想像がつかない。そのため、今の状況で戦う選択は取りたくない。
そう考えていると、
「ね、ねえ、ショウ」
アリーシャに呼ばれ、意識を取り戻すと、ドラゴンの頭に指さしていたので、見てみると、
俺をじっとみていた。
「え?目が....」
俺に気づかれたとわかったのか、その瞬間、
シャアアアア!!!
目の前で咆哮を食らい、そして、頭を思いっきり持ち上げ、その衝撃で俺とアリーシャは別々に吹き飛ばされた。
「痛っ!!」
「ー!」
あまりの痛さに気を失いそうになったが、こんな所で失ったら、どうなるかわからないと思い、意識を保つ事に必死になった。
「アリーシャ!大丈夫か?」
「な、何とか....痛い」
とりあえず一安心か。でも、前を見ると、さっきのドラゴンだろう。体を起こして、俺達の前に立ちはだかった。
とにかく大きい。今まで戦った中で大きかった巨人とかとは比べものにならないほど大きい。こんなの倒せるのだろうか。
俺達の置かれている状況を知るはずもなく、ドラゴンは俺達目がけて真っ先に攻撃を仕掛けてくる。
ギィィィイン!
前足だろうか鉤爪だろうか。物凄い早さで払ってきた。全く反応する事もできず、技も出せず、盾で弾くしかなかった。
「ぐ!!!」
あまりに衝撃が強すぎて、まるで防ぐ意味のなかったようなものだ。
「これはどうにかしないと!」
勝てるか全くわからない。というか、勝てる気がしない。でも、もし、助けが来たり、考えが思い付くことがあれば、これに対抗するしかない。そう思い、距離を取るため、走り出した。
「タウントシールド!」
俺にターゲットを集中させて、ひたすら距離を取ろうと努力した。だが、あまりにも威力が強すぎて、張ったばかりの壁が破られそうで心配である。
その間にも、走り続けどうにか敵の攻撃をを防ぐ。
「ぐ....、これはキツすぎるってうわっ!!」
防ぐことに集中しすぎて、足場が悪い事に気付かず、足を取られてしまった。
「痛ー!!」
現実だったら、間違いなく捻挫する程の痛みであると思う。見たところ、目立った傷などは無さそうだが、疲れが溜まっているせいか、思うように体が動かなくなってきている。
「大丈夫?」
アリーシャが俺に何かいけない事があったと察してだろうか。攻撃をして、ドラゴンの攻撃を俺から反らそうとしてくれた。
どうにかして、この状況を覆さないといけない。いくら、ルルとレイリが助けを求めてくれているが、すぐに来る事ははっきり言って、考えにくい。少なくとも、このドラゴンは俺とアリーシャが何とかしないといけないみたいだ。
痛みを堪えながら、どうしたものかと考える。そして、こけた衝撃で手放していた本を拾おうとする。
「あーあ、やっちゃったよ」
本は開いた状態で落ちていた。そして、本を手にすると、開いていたページに折り目がついてしまっていた。
「せっかくもらった本なのに台無しじゃないか」
俺は一人で呟きながら少しでもその折り目を直そうと努力する。
「あれ?」
そうしていると、ふと気づいた。このページには何も書いてない。
「こんなページなんて....」
確認のため、バラバラと一通り見ていくが、どれもびっしりと字で埋め尽くされている。
「こんなのは見た事ないぞ」
そう言いながら、光を何も書いてないページに照らしてみた。
すると、
「ん?」
何も書いてないはずの所からうっすらと少しずつ文字が浮かび始めていた。そして、浮かぶその文字が何を意味しているかが気になり、そのまま光を照らした。そして、さらに驚いた。
「こんな事ってあり得るのか?これ....、日本語じゃないか!!」
今まで本に書いてあった文字はこの世界に来てすぐに習得した言語で書かれていた。偶然なことに、俺は、早い時点である程度、読むことができていたので苦労することはあまりなかった。しかし、今、目の前に見えるのは俺のいた世界の言語、つまり日本語であった。
この本には、俺のいた世界とこの世界で何らかの理由でつながっているのだろうか。不思議に思ったが、今は、俺達に置かれている状況をどうにか変えたい。その気持ちだけで、このページに何か手がかりがあるかもと必死に読み始めた。
長々と書かれていたが、気になるところにはこう書かれていた。
この頁を読み、それを理解した時、新たな力を献上する。無意味な所で、使う事無しに適切と判断した時にのみ使う事を推奨する。仲間を失いかけた時、自身の命を失いかけた時、必要な所に使用せよ。ただし、この技を使用した場合、ある使命を背負い、使用者が死ぬことは一切許されない。
「何だよ、これ。意味わかんねーよ」
でも、適切な時、仲間を失いかけた時、これはまさに今の状況ではないのだろうか。
技を出して、どうなるか気になる。緊張して冷や汗まで流し始める。
「元から、死ぬ気はさらさら無いから、使ってやるよ!」
俺の中で決意が固まり、そのページを開いたまま、立ち上がった。
「アリーシャ、迷惑かけてすまなかった。俺に任せてもらってもいいか?」
「何かあるの?」
「ある....が、どうなるかわからない。それでもいいか?」
「....、ま、まあいいよ」
聞く限り、理解してなさそうだが、今までした事とは違うところはわかったみたいだ。アリーシャは、攻撃を止めて俺に任せた。
「離れていろ!」
「う、うん」
頼む!せめてこの状況くらいは変える力を持たせてくれ!そう思い、本に書かれている通りに読み始めた。
「燃え上れ!俺の魂!」
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