7章 ラストスパート

 俺らが目の当たりにしている状況は今までの中でも最悪であった。


 俺達を挟むようにして、前方に巨人、後方に巨大オオカミが立ち塞いでいる。当然、逃げ道もなく、二体とも俺達をターゲットにしているように見える。


 「ここからどうするよ?」

 「どうするも何も、絶体絶命すぎて何も考えが出てこないよー!」


 この状況には、さすがにレイリだけでなく、皆が困惑しているように見えた。でも、その中でアリーシャはどこかそわそわしている気もした。


 「アリーシャは何か思い付いたか?」

 そう呼びかけると、少し間ができてから、


 「一体ずつ倒す事は正直、できないと思う。やるのなら、二体を巻き込みながらどうにかするしかないと思う」


 アリーシャが言っている事は最もだと思う。だが、それをどうやってするのかが全く思い付かない。


 そんな作戦を練ろうとしているにも関わらず、敵は躊躇なく攻撃しようとしてくる。

 オオカミは、ひたすら突撃してきているが、動きが素早すぎて俺達が攻撃する隙も与えさせてくれない。


 その間に巨人は、

 と思ったその時、


 巨人が腰に携えていたハンマーを持って、両手で大きく掲げると、地面に思いっきり叩きつけ、足場を不安定なものにさせようとしてきた。

 鉱山なので、ある程度、足場がしっかりしているとは言っても、この状態を見過ごす事は絶対にできない。


 とは言え、打開する方法が見つからない。その間にも巨人はハンマーを振り回し、地面に叩きつけたり、薙ぎ払ったりと近づけさせまいとしていた。


 「やっぱり....」

 俺が悩んでいるところに、レイリが声をかけてきた。


 「やっぱり、私とルルが攻撃するしかないんじゃない?」

 「それは、そうだな。俺とアリーシャが守りや援護に徹する形だな?」

 「そうそう」

 「でも、やりたい放題にやられてちゃ何もできないから....」


 こんな話をしている間にも、巨人はハンマーを叩きつけてくる。あんなの当たったらどうなるのか全くわからない。


 「レンクスディフェンス!」

 「いい加減、少しは黙れ!!」


 一時的ではあるが、巨人の攻撃をとりあえず防ぐことにした。


 「今のうちにそのオオカミをどうにかすることはできないか?」

 「やってみる」


 何回も戦ってきたからか、お互いのおおまかな役割を理解したのだろう。アリーシャがすぐに反応してくれた。


 「アタッシュチェーン」


 オオカミに対して鎖で動きを封じようとするが、素早いせいで全く捕まらない。


 「うう....」

 「こうなったら、トゥワイスモード!」


 苦しまぎれに鎖の数を倍にしてみる。しかし、かするだけで、捕らえるところまではいけない。

 だが、今の技に少し思い付くところがあった。


 「アリーシャ!悪いが、少し俺と交代してくれないか?」

 「ん?....、わかった」

 「すまない、しばらく巨人の攻撃を防いでくれ」

 「大丈夫」


 アリーシャは俺のやりたい事がわかってくれたのか、何をするか聞く事もなく、静かに交代してくれた。


 「トゥールムディフェンス」

 交代してすぐに、アリーシャは巨人に守りの技をかけた。俺が出した技、レンクスディフェンスよりも高くて頑丈そうな壁を作り上げた。こんなのを見せられると、悔しいが、今は、最優先でやるべき事があるので、俺もすぐに行動に移した。


 「ファイヤーボーゲン!」

 「オールディレクションモード!」


 技を発動させると、残された矢のほとんどを使い、一気に矢を束ねて射た。すると、あらゆる方向に向かって、火を纏った矢が敵を襲い始めていく。

 これには、さすがにオオカミも今までのように逃げる事はできず、動きが鈍くなった。


 「いいぞー!アリーシャ、これで敵の動きを封じ込めれるんじゃないか?」

 「代わって、この遅さなら仕留めれる」


 そう言われると、俺は元の役割に戻り、アリーシャはオオカミの動きを抑えることにとりかかった。


 「レンクスディフェンス!」

 そして、俺は、巨人の攻撃を防ぐ。


 「アタッシュチェーン」

 アリーシャも技を発動すると、オオカミはどこに動けばいいか迷ったか、その隙に鎖が完全にオオカミを捕らえた。こうなると、後は二人に任せる方が早い。


 「レイリ!ルル!頼む!」

 「オッケー!私に任せて!」


 俺が二人に呼びかけると、ルルが大声で応えてくれた。

 ルルのいる方を見ると、いつの間にか俺達と反対側にいた。ルルから見れば、今、オオカミと巨人は進行方向に視野に入っているだろう。


 「散々、迷惑かけてくれたねー!」

 ルルが今までにないくらい張り切った声で言うと、技を発動した。


 「パワーフォース!」


 「ギガ....ごほっごほっ!」


 重ねがけで一気に形勢逆転しようとしているのだろう。しかし、まだ体の負担が完全に拭いきれてないのだろう。かなりキツい思いをしているようだ。


 「おい!ルル、無理しなくていいぞ!」


 「これくらいどうってことない....もん!」


 「ギガント....スマッシュ!!」


 力いっぱいに殴り込むと、オオカミに刺さっていた鎖が抜けそうになった。

 これはもしかすると....。そう思い、俺は巨人に対して行っていた技を解除した。すると、予想通り鎖は耐えきれず、地面から抜けるだけでなく壊れてしまった。


 「うぉっと、危な!」


 ルルに思いっきり打たれたオオカミは物凄い速さで俺に向かってきたので慌てて避けた。そして、巨人に当たっていった。

 この速さにはさすがに耐えきれなかったか、巨人はバランスを崩し、倒れてしまった。


 ここだ。ここで一気に倒すことができれば。


 そう考えていると、同じ事を考えたのだろうか。レイリが倒れこんだ巨人に走っていった。


 レイリならやってくれるかもしれない。そんな希望を持っていた。


 「スピアエチャル!」

 走りながら発動すると、手持ちのナイフが小さな槍と変化した。

 巨人の前に辿り着くと、飛びかかる。どうやら、本当に一気に倒すつもりらしい。


 「ジャイアントスピアー!」


 巨大な槍と変化し、オオカミに襲いかかる。そして、その下敷きになっていた巨人にまで貫通させようとしている。

 巨人は見た目通りの頑丈さで、すぐに貫通することはできなかった。しかし、ピキピキと音を立てて、中へと入りこもうとしている。


 「オラー!!いけー!!」

 そう叫び、もう一押ししていく。


 すると、勢い良く巨人の体を貫き、地面にまで刺さった。

 レイリの技によって貫通した二体は、今までの敵と同様、黒く霧散していった。


 ようやく、戦闘が終わると、特に頑張ったレイリとルルは腰が抜けたようにその場に座り込んでしまった。


 「つっかれたー!!」


 ルルが言いたい気持ちもわかる。俺でも、これ以上の戦いはやってもまともにできるか心配のところだ。


 「さてと、鉱石を採るか」

 残された体力を使って、先へ進む。アリーシャはレイリとルルと喜び合っていたので、これくらいの作業はと思い、一人で採りに行くことにした。


 先程、戦った巨人がボスだったのだろう。先に進む中で敵と遭遇することはなかった。


 奥へと進むと、いっそうに輝く青い鉱石がたくさんあった。その光景に感心してしまい、採ることを忘れそうになっていたが、すぐに思い出し、採り始めた。

 どれくらいかわからなかったが、多く採ってもいいし、でも、この輝きを残しておきたかったので、半分近くを採ることにした。

 さすがに三人の落ち着きを取り戻しただろうと思い、三人のところに戻ると、少し騒がしかった。


 「おい、何してるんだよ?」

 「何....って、見れば!わかるでっしょ!」


 レイリが何かしながら話しかけていると、尻もちをついた。気になって、レイリの足元を見ると、倒した際の槍が地面に刺さりっぱなしだった。


 「抜けないのか?」

 「びくともしないのよ!」

 「そこまでか....」

 「ショウもやってみなさいよ!」


 これくらいはできるのではないだろうか。レイリは疲れ切っているから力も万全に出せてないから苦戦しているのではないだろうか。そう考えながら槍を持ち、抜こうとする。


 「どう?」

 「うーん、抜けそうな気もしなくもない」

 「ほんとっ?」

 「アリーシャ」

 「何?」

 「俺の体勢が崩れないように支えながら抜くのに手伝ってほしいんだけどいけそうか?」

 「それくらいなら大丈夫」


 アリーシャが俺の体をしっかり支える。そして、抜く力も入れてくれた。これならいける。


 少しずつ槍が抜け始めてきた。


 「ん?」


 しかし、このタイミングでは俺に嫌な予感を抱き始めた。俺の目の前では、槍が少しずつ抜けようとしているだけで、多少は周りの地面もその影響で崩れてきている。

 いや、それこそが危ないのかもしれない。よく思い出して見れば、あの二体のモンスターに対し、レイリが強烈な技をお見舞いした時、この鉱山全体にかなりの揺れが生じた。今になって思えば、よくなかったのかもしれない。


 それでも慎重に抜こうとするが、いよいよひびが大きく、俺とアリーシャの辺りにまで及ぼしてくる。


 あと、ほんの少しだが、これ以上は危ない。そう思い、


 「アリーシャ!力を入れるのをやめてくれ!危なすぎ....」


 全てを言い切ろうとするが、


 「おっりゃあああ!」

 アリーシャは力を振り絞り、結果、槍は抜けた。


 でも、


 ドゴォォォン。


 ほぼ同時に俺とアリーシャの足元が抜け落ちた。レイリとルルを残して。


 「だから言おうとしたのにー!!」

 「う、うわー」

 こんな時くらい感情を入れてくれ、アリーシャ。


 「ショウ!大丈夫!?私達はギルドに助けを求めてくるね!決して死なないでよ!」


 その言葉だけは落ちながらも聞こえた。

 でも、どうしたものか。こんな時にも不運はやってきた。

 しかも、ここから出られないかもしれない。まさに、絶望的だ。

 なのに、


 「はあ....」


 何に対してだろう。俺はため息をつくしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る