第120話 悪役令嬢(Ⅰ)

▽▲▽


「──やっぱり、あの噂は本当だったのかな?」


 月乃さんが妙に引っかかる言葉を口にした。


「あの噂?」


 え、あのちょっとやめてもらえますそういう嫌なフラグみたいなセリフ?

 オタクはフラグに敏感ですのよ。

 内心冷や汗をだらだら流しながら、彼女に詰め寄る。


「ホントに最近なんだけど、『紫波雪風が遠野花鈴を消そうとしてる』って噂が──」


「はへぇ?」


 予想外のに過激な内容で、思わず悪役令嬢らしからぬ声が出る。

 いやいや、待ってくださいませ。

 わたくしはそんなYAKUZAみたいな真似しませんことよ。

 気に入らない奴を排除とか、それこそ遠野花鈴じゃあるまいし。


「いやいや、私はそんなこと致しませ──」


 ──いや、そういえば悪役令嬢だったな私。

 キャラ的にはむしろ全然やりそうですわ。

 原作の方でも実力行使で月乃さんヒロインを排除しようとしたルートもあった気がする。

 どうしよう、イマイチ否定し辛い。

 私はしないけど紫波雪風はする子だったから。

 ちらっと月乃さんの顔を見る。

 その表情は、疑い半分って感じだった。


「月乃、さん」


 ──

 変な噂がたって、遠野花鈴の身にも大変なことが続け様に起こって、噂を裏付けるように私が怪しく見えるような態度を取ってしまっていて。

 それでも、

 まだちゃんと半分は信じてくれているみたいだ。

 少し、覚悟を決める。

 原作の紫波雪風は一旦置いておいて、今の私がその信頼に応えるべきだと思った。

 原作基準のルートがとかはもう捨ておこう。

 考えるのをやめてしまおう。

 どんな形であれ、目の前にいる友人を──友人の為に紫波雪風あくやくれいじょうじゃない紫波雪風わたくしとして戦わないと。

 私は膝の上に置かれていた彼女の手を取り、強く握りしめる。

 そして、真っ直ぐにその目を見つめる。

 思えば、人の目をこんなに直で見つめるのはいつぶりだろう。

 もしかしたら、前世込みでかなり久しぶりかもしれない。

 そうして私は、彼女にお願いしたのだ。



「月乃さん、私を信じて!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る