第113話 三人目(Ⅰ)
▽▲▽
「──ん、ぁあ?」
深い深い意識の底から再び浮上できた時ボクの口から出たのは、炭酸の抜けたラムネの様なそんな声だった。
目は覚めたが未だに頭はしゃっきりとしない。
錆びついた思考回路で漠然と立ち上がろ──うとして、身体が動かないことに気がついた。
ここまで来て、ようやくぼやけた頭も目もしっかりしてきてボクは
パイプ椅子に座らされ、細身のロープで両腕と胴体を背もたれに括り付けられている。
「わぁ、事件性しかない状況だ」
更なる状況把握の為に、周りを見渡す。
薄暗くて窓がない、四畳半ほどのスペース。
身体をよじって拘束されている椅子の足で床を叩いてみる限り床材はしっかりしている。
壁や天井の材質も目視で確認して、そこから推察するに。
「どこかの一軒家の物置スペース、が妥当かな」
ただし周囲には一切物がない。
この部屋にあるのはボクを拘束する椅子があるのみだ。
床には埃もなければ、重い物を置きっぱなしにした時できる傷や経年劣化の跡などは見当たらない。
つまり部屋としては物置用途に設計されたモノだが、家主には初めから
つまり犯人は──。
「家を用意できる社会的身分があるから学生じゃなくて大人で、尚且つ几帳面な性格。おそらく独身男性で年齢は30代で、更に身長体重馬ひゃ──」
「いやお前怖いな」
声に出して周囲の状況から割り出した犯人像を確認していたら、突然そんな声と共にドアが開く。
そこに立っていたのは、予想ドンピシャの人物。
「プロのストーカーかよ」
見慣れた白衣ではなく野暮ったいジャージ姿ではあったが見間違う筈がない。
「やっぱり、源道先生」
そこにいたのは、見立て通りの人物像に当てはまる源道先生だった。
「遠野花鈴は性格最悪だが、そんなストーカーじみた察しの良さ──この場合は推理力か? 兎も角、そんなキャラじゃねぇよなやっぱ」
しゃがみ込んで、ボクの顔を不躾な視線で繁々と眺める源道先生。
その視線は無遠慮であったが、不思議といやらしくはない。
下心というか、性欲を感じない。
「あれ、襲わないんですね。美少女JK攫った独身男性がやる事なんて一つだと思ってましたが」
「アホか、『クワトロ・まりあーじゅ!』は全年齢だ。誰が好き好んで
その瞬間、ずっと今まで気になっていた、忘れていたワードを思い出す。
そうだ、妹がずっとやっていたのは。
この世界そっくりの、あの乙女ゲーの名前は。
「『クワトロ・まりあーじゅ!』ッ!!!?」
その名を叫んだ瞬間、ニヤリと源道先生が笑う。
「その反応、やっぱお前もこっち側か」
「アンタ何者?」
「ふっ、聞いて驚けオレは──」
源道先生は──否、源道先生に扮していたその男は、ボクの問いかけに対して高らかに宣言する。
「──
「え、誰?」
「──え、えぇ?」
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