第114話 三人目(Ⅱ)

「え、まじで俺の名前知らない?」


「知らない」


「四島翼って、聞いた事ない?」


「ない」


 そう答えると源道先生──四島翼(仮)カッコカリが落胆とも絶望とも言えない表情をしはじめた。


「いやあの俺、いや私は『クワトロ・まりあーじゅ!』のシナリオライターなんですが」


「へー、そうなんだ知らなかった」


 瞬間、がっくり項垂れて床に膝をつく四島なにがし

 どうやら何か彼の心の支え的な、大事なナニカをポキっと折ってしまったらしい。

 うーん、南無。


「『クワまり』ヒットしてそれなりに名前売れたと思っとったけど、全然認知されてなかったんだ俺。しかも『クワまり』プレイヤーからすら」


 お通夜か葬式か?

 ──と言いたい程の陰気なオーラを出して膝を抱えて泣き始めた四島某。

 面倒くさい奴だなぁ。

 しかし、ここで陰気なまま放置してもカビ生えるだけで百害あって一利なしか。

 ちょっとだけフォローしよう。


「あ、ボクはプレイヤーじゃないんで」


「──はぁ!?」


 がばっと顔を上げ、途端に元気になった四島某。

 いや、元気になったというより


「つまりアレか!? 本編未プレイなのに遠野花鈴のなりきりロールプレイしてたのかお前!?」


「まぁ、否応なく?」


 成りたくてなったわけじゃ無いし、やりたくてやってるわけでもない。

 遠野花鈴になっちゃったんだから。

 そうするしかないから、そうしているだけなんだけどね。

 けど、彼の言葉には責めるような、罪を糾弾するような響きが含まれていた。

 ──甚だ不本意ではあるが。


「いやでもある意味納得だ。だからお前はのか! ファンじゃないから!!」


「ちょ、痛い!」


 ボクの肩をがっしり掴んで激しく揺すりながらそう叫ぶ四島某。

 激しく譲られながらも見た彼のその目には、ある種の狂気に近い色が見えた気がした。


「よくも俺の完璧なシナリオを崩しやがって!」


 その台詞でようやく合点がいった。

 この男の正体は、ボクと同じくこの世界に転生した人物で『クワまり』のシナリオライター。

 つまりは創造主と言える人物だ。

 そして彼はボクがシナリオを崩壊させていることについて、我慢が効かなくなったのだろうことが。

 となると、彼がボクを攫ってくるという強硬手段をとった理由はひとつだろう。


「歪な二次創作は今日で終いだ」


 同時にそれは、ボクが最も恐れている事態でもあった。


「お前のせいで歪んだシナリオ、俺が戻してやるよ!」


 そう宣う創造主に、ボクはニヒルに笑いながら──そんな虚勢を張りながら答える。


「二次創作も認める器量がないとコンテンツは廃れますぜ?」

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