第111話 暗転直下(Ⅱ)

「遠野花鈴じゃないかな」


 つい口をついて出たのは、やっぱりこの名前だった。

 現在で悪役令嬢をどうこうできる人物といったら主人公である月乃さんかラスボスである遠野花鈴のどちらかしかない。

 そして二択のうち、月乃さんから命を狙われる謂れは全くないので実質一択。

 ──実質一択のはず、だけど。


「いやぁ、それはないンじゃないか」


 それを即効で否定したのは剣将くんだ。

 キリッとした顔でとでも言いたげな雰囲気を出している。


「ちなみに理由は?」


「──つ、伝え聞いた話で」


「「「伝え聞いた話で?」」」


 伝え聞いた話とは何ぞや?

 剣将くんは、何をどこから伝え聞いて来てるんぞや?


「大丈夫だ、確信はあるからよ」


「伝え聞いた話で?」


「つ、伝え聞いた話でもだよ!」


 文句あるかと言わんばかりに追求した杖助くんを睨みつける剣将くん。

 中々膠着した空気の中、パンパンと乾いた音が突然響く。


「はい、はい!」


 クラスメイト各位の一人、委員長をやってる子が軽く手を叩いて故意に注目を集める。


「議題がズレてますよ。取り敢えず私たちが集まったのは月乃さんの問題をどうするかってトコです」


「まぁ、元々そこがわたくしの直下の悩みですからね」


 ちょっと今忘れてたけど。

 ヤンデレ化した月乃さんをどーにか元に戻せないか、が本題だ。


「それに関しては、ちょっと考えがあります」


 素直に挙手をしたのは杖助くん。

 その長い手足があるから、上げた手が異様に目立つ。

 この場にいた全員の視線がそちらに向くと、彼は少し居心地悪そうに身じろぎをして話し始めた。


「我々が協力して、不自然にならない範囲で距離を置かせるのはどうですか?」


「距離を置かせる?」


「二人にそれぞれ別な要件や事情をして、個人で活動せざるを得ない時間を増やさせるんですよ」


「──成る程」


 杖助くんの説明に、アヤメちゃんが成る程と感心した様に頷く。

 周囲をキョロキョロと見てみると、みんなアヤメちゃんみたいに「グッドアイデアじゃん!」みたいな表情してる。

 ──あれ、わかってないの私だけ?

 いやいや、まさか?

 けど、なんか質問する空気じゃないし──。


「な、成る程いい作戦ですわね!」


「じゃあちょっとこの方向で、詳細を詰めてきますか」


「お、お願いしますわ!」


 ──私だけなんか置いてけぼりっぽい感じ。


 まぁいいか!


 どーにかなぁれ!!

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