第25話 再戦の行方(Ⅱ)

「いや、無理だろ」


 例の先輩たち、何故か満身創痍。

 女子ふたりに肩を貸してもらいながらなんとか歩いてきたくらいの体たらく。

 とてもじゃないが、マトモに試合出来る状態には見えない。


「貴方の目は節穴ですか遠音花鈴!」


「な、なんだと?」


「その言葉、彼らの目を見てもう一度言えますか?」


 何故か自信満々にそう言い放つ紫波雪風。

 馬鹿なことを。

 そう思いながらも、彼らの目を覗き込んでみる。

 ーー死んでいない。

 彼らの目は、虎のように爛々らんらんと燃えていた。

 身体は死に体なのに、戦う意志はギラギラに輝いていた。


「こ、これは!?」


「ふっふっふ、地獄をくぐり抜け生まれ変わったモブ彦とモブ雄の力! 実戦で刮目して見よ!!」


 ▽▲▽


 今、私たちは武道館の端で試合を観戦している。

 剣道の試合は基本5vs5なのだが、今回は此方の部員が三人しかいないので3vs3の戦いになっている。


「一本!」


 審判役の先生がそう言って赤い旗を掲げる。

 それはつまりーー。


「あっさり負けましたね、モブ彦」


 半目で呆れたようにいうアヤメちゃん。


「一朝一夕でそんなアホみたいに強くなる訳ないじゃない。少年漫画じゃあるまいし」


 先鋒のモブ彦がサクッと負けた。

 まぁ、そりゃそうかという感じである。

 現時点であの訓練から直帰したばかりなのだから、気力も体力もギリギリ。

 試合の体裁を保てただけヨシ!って感じですわ。


「でもご覧なさい、アヤメちゃん。モブ彦の様子を」


 対戦相手に礼をし、自分の持ち場に戻っていくモブ彦。

 その立ち振る舞いと姿は意外な程している。

 やる気がなくなった感も、落ち込んだ風にも見えない。


「フブキによる虐たーーげふんげふん、訓練の真価は精神訓練。心を鍛えることなのよ」


 何度も地面を転がされ、宙を舞い。

 それでも諦めず立ち向かうことで、鋼のような心を鍛える!

 ーーまぁ、実際は諦めたら死ぬんだろうなってレベルで追い込んだから結果的に諦めなかったってのもあるし。

 負け続けて負けることに耐性がついたから、たかが一負では何も思わなくなったが正しそうだけれど。


「じゃあ、モブ雄も無理っぽい感じですかね」


 そうアヤメちゃんに聞かれて、私はちらりと遠野花鈴の方を見て、こう答えた。



「ーーさぁ?」


 ▽▲▽


 先鋒として戦った先輩ーーえーと名前なんだっけ?

 確かモブっぽい名前だった気がするんだけど。

 まぁ、いいや。

 取り敢えずモブ先輩その一がアッサリ敗北した。

 やる気、というかる気はみなぎっていたっぽいからもしかしたらと期待していたんだけど、駄目だったか。

 気の持ちようだけでは、変わらない現実もあるってことか。

 続いてもうひとりの先輩、確かーーモブ雄先輩って言ったっけ?

 多分絶対名前違うけど、まぁモブ先輩そのニの試合になった。

 中堅戦だ。

 ちなみに大将は普代くんである。

 この中堅戦もちょっと勝てなさそうな気配。


「仕方ないなぁ」


 そう小さく呟いて、ボクはこっそりスマホを起動させた。

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