第7話 悪役令嬢と熱血キャラ(Ⅱ)

 ▽▲▽


「--剣将くん!?」


「如何にも、俺が剣将だけど?というか、朝っぱらにこんなトコでなにしてんの?」


 物凄く怪訝そうな、怪しむような。

 眉間にしわを寄せて首を傾げる剣将くん。

 急いで弁明しなきゃならない場面であるというのはわかっている。

 しかし、今の私はそれどころじゃなかった。


 --生剣将くんやべぇぇええええ!!!!


 すっごいイケメン!

 顔良ッ!!

 何んかいい匂いしそう!

 あと声ヤバ!

 原作まんまじゃん!

 ○○様 (CV担当声優)の声じゃん!

 イケメンイケボとかーー


「ーーまじ神じゃん」


「ん、カミ?」


 あ、まずい声もれてた。

 でも、ちょっとドキドキしすぎて、うまく言葉がでない。

 かつてプレイした、憧れのゲームキャラおしのひとりに会ってしまうと、人間こんなに緊張してしまうのか。

 咄嗟に声が出ない私は、隣のアヤメちゃんの肩をぺしぺしと叩く。

 すると、私と一緒に驚いて固まっていた彼女は、はっとした顔で剣将くんに話しかけた。


「アヤたちは、えーと、たまたま早く学園に来ちゃってぇーーみ、道二迷イマシタ!」


 誤魔化すの下手すぎた、駄目だこの子。

 自信なさげな言葉と、世界水泳並に泳ぎまくった視線。

 それに私たちが一年生だからと言って、今はもう6月。

 新入生が道に迷うのには無理がある時期だと思う。

 案の定、剣将くんは怪訝そうな表情を深めてーー。


「なるほど、そういうことか! 大変だったな!」


 ーー深め、ないでパッと笑顔をみせてくれた。


「俺も方向音痴気味でな、まだ学園内で迷うことたまにあンだよなぁ!」


 そういって腕を組み、うんうんと深く頷く彼の姿を見て私は思い出す。

 剣将くん、確かに方向音痴キャラでもあったなって。

 変な場所に何故かいたりするから、攻略する際は微妙に後を追い辛く、ちょっと面倒くさかった思い出。

 故意にイベント発生させ辛いんだよね、剣将くん。


「どこ行きたかったンだ、俺にできるかどうかわかンねーけど案内するぜ?」


「い、いや、お構いなくってことよ」


 ようやく初遭遇の衝撃から回復できた私は、いつもの外面--というか外向き用のお嬢様風な言葉で返事を返す。

 アヤメちゃんが「お構いなくってことよって何語だよ」って小声で言っていましたが、無視しますわ。

 剣将くんは、原作では一年生で入学しながら剣道部でレギュラーを勝ち取るエースだった。

 そんな彼の時間を取らせるのは申し訳ない。

 もともと今日は様子見だけの予定でしたし。


「この時間に武道館の近くに居るってことは、アナタは剣道部でしょう?早く部活に戻らなくてよろしくて?」


 

 私がそう言うと、剣将くんは何故がバツが悪そうな表情を浮かべで斜め上を仰ぎ見る。

 そしてガシガシと右手で頭を掻くと、こんなことを言った。


「いいんだよ、別に。今の剣道部、俺しかいねぇし」


「「え!?」」


「俺以外、全員ボイコットしてんだわ」


「「ーーえぇ?」」


 予想外のセリフに、私とアヤメちゃんが同時にひどく困惑した。

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