第3話 いつの間にか始まっていました(Ⅱ)

「今日も上手くいかなかったぁ」


 わたくしはまたそうして頭を抱える。

 時刻は夜22時を過ぎたあたり。

 情け無い私は、今日もお父様が進学にあたって私に与えて下さった紫波家別邸にて反省会をしていた。

 お風呂あがりの寝る前のこの時間に、ホットミルクを飲みながら今日の出来事をに話すのが、私の日課だった。


「雪風お嬢様、また彼女たちと仲良く出来なかったんですね」


「う、うん」


 私の話を聞くのは、クラシカルなメイド服に身を包む女性。

 肩口で切り揃えたしなやかな黒髪に中性的で鼻筋の通った綺麗顔立ちをした彼女の名前はフブキ。

 幼い頃から側に居てくれる、少し年上の私専属のメイドだ。


「やっぱり、せっかくゲームの世界に来たのだから、月乃ちゃんとは仲良くなりたいし助けたいんだけどーー」


「人前だと上手く話せない、と」


「き、緊張しちゃって」


 本来の紫波雪風とは違い、私自身はあまり人付き合いと言うかコミュニケーション自体が得意なタイプではない。

 変に緊張しちゃうし、思うように喋れなくなってしまう。


「でも例の変なお嬢様言葉みたいなのだと話せますよね」


 そう、そうなのだ!

 普段はフブキや家族以外にはあまり上手に話せないのに、原作アクヤクレイジョウのような話し方なら大丈夫なのだ!


「やっぱり、それは私が紫波雪風だからなのかな?」


「あぁ、昔からお嬢様が言っている戯言ですか」


「もう、戯言じゃないんだってぇ!」


 昔から、フブキには色々と相談をしてきている。

 友達ができないことも、小学生の時の初恋のことも。

 ーーそして私の前世とこの世界についても。


 『この世界はゲームである』


 それがあの日、幼き私が知った世界の秘密でした。


 △▼△


小学生の頃に強烈な風邪を引き、熱にうなされた時に私はの記憶を思い出したのです。

 私の前世は、乙女ゲームなどが大好きな夢見がちの中学生女子オタでした。

 三つ上の兄をはじめ、家族は私のアレな趣味にもある程度理解を示してくれていて、リビングで堂々と乙女ゲーをやっても怒られないし嫌な顔されない、そんな素晴らしい家庭でした。

 そう、そしてその乙女ゲーが問題でした。

 『クワトロ・まりあーじゅ!』、通称クワマというタイトルのそのゲームには、主人公に意地悪をする悪役令嬢が登場します。

 その名前は、紫波雪風。

 ――私です。


「このままでは、私は破滅する!?」


 それからは、どうにか運命を変えようと試行錯誤の日々!

 全ては、ゲームのような破滅を迎えない為!

 ――そしてとうとうやってきた高校入学、ゲーム本編スタート。

 この学園で私は、主人公である月乃と出会いました。

 それと同時に、最も危険な存在とも。


 その名は、遠野花鈴。


 ほぼ全てのルートでは、主人公をサポートしてくれる典型的な親友キャラのボクっ娘美少女。

 しかし、裏ルートでは邪悪な本性を表して、主人公や私を権謀術数で地獄に叩き落とす作中最悪の性悪女。

 ぶっちゃけ他ルートも鬱いが、裏ルートは彼女のせいでその比ではないほどやばい。

 そのルートに入っても最後に主人公はハッピーかも知れないが、あのルートは途中すら地獄なので、私はごめんですわ。


 だからこそ、当面の目標は一つ。


 遠野花鈴の罠を打ち破り、平和な未来を掴み取るのよ!!

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