茨の王冠
桜餅ケーキ
強欲な王様
ある国にとても強欲な王様がいました。
王様は国の民から、決して美しく煌びやかな
民の噂通り強欲な王様は常に、冠をかぶっていました。
食事をするときも、湯浴みをするときも、眠るときですら、決して外そうとしませんでした。
また、王様にはとても美しく芸術品のような王妃がいました。
王妃は王様と結婚するまではとても病弱な事で有名で、結婚してすぐに亡くなってしまうと思われていたほどでした。しかし、王様があの美しい王冠を着けてから、王妃さまが病に苦しむことは一度もありませんでした。
その美しさは他の国にまで知れ渡り、お王妃様を見ようと、遠路はるばるやって来る者や、王妃様を手に入れようと、攻めてくる者もいました。
ですが、砲弾が打ち込まれようと、王妃様は決して、強欲な王様のそばを離れませんでした。また、王様も絶対に王妃様を奪わせまいと懸命に抵抗するのでした。
その様子は、民からすれば愛情深い優しい王様ではなく、ただ、美しい王妃様を独り占めしたいだけにしか見えないのでした。
それほど周りの者からは強欲で身勝手な王様だと思われていたのです。
二人の間には何故か子供がおらず、身寄りのなかった一人の少年を実のことして迎え入れ育てていたのでした。
民には強欲だと言われる王様も、たった一人の息子の前では様子が違いました。
息子の前ですら決して、冠を外そうとはしませんでしたが、王妃と二人で心からの愛情を惜しみなく与えていました。
ですが……成長し立派な青年になった王子は、母親である王妃に恋をしてしまいました。
それは決して許されない想い。
王子も最初の内は、必死に自らを抑えていたのです。
でも、その想いはやがて大きくなっていてしまい、やがて、抑えきれなくなった気持ちは王妃を独り占めし続ける、強欲な王様へと向かってしまうのでした。
兵士を玉座の間から下がらせると、王子は鍛錬で使う為と称して持ち出した剣を強欲な王様に向けるのでした。
王様は自らに剣を向けた王子を見て、一度大きく深呼吸をすると――王子に言いました「もし、お前が、王妃を自らの妻にしたいのであれば、決して、この冠を外してはいけない。何があってもだ」しかし、王子はそんな王様の言葉には耳も貸さず、王様の目の前までやってきて――父親でもある強欲な王様を切り捨てるのでした。
真っ赤に染まる玉座で、強欲な王様は王妃様に向け、必死に手を伸ばし、そして、王妃もその手を必死に掴もうとしました。
ですが、二人の手は繋がれることのないまま、二人の愛を受けて育った筈の王子によって阻まれるのでした。
ゆっくりと、下がっていく強欲な王様の手に、王妃は悲鳴を上げ、王様は最後にもう一度「……決して、冠を外すな……たとえ……何があっても」王子にそう言うと、息絶えるのでした。
こうして、父である強欲な王を殺し、王の座についた王子は、兵士に王が気が狂い襲いかかてきたのだと嘘を伝え、強欲な王様の亡骸を灰すらも残さぬ程に燃やし、僅かに残った灰は空へと消えて行きました。
そして、迎えた、母である王妃との結婚式。
民が見守る中、強欲な王様が決して外そうとしなかった冠を頭に乗せようとし時、冠は王子の頭に突き刺さるように張り付き、王子に耐え難い程の痛みを与えるのでした。
そのあまりの痛みに思わず、冠を外そうと手を伸ばすと、伸ばした手を王妃に掴まれ「あの冠は、つけた者の命を奪い、この指輪をつけている者に与えるの」そう言って、指に鈍く輝く真っ赤な宝石があしらわれた指輪を見せるのでした。
「あなたや民が、強欲だと思っていたあの人は私のためにその痛みにずっと、耐えていたのよ?私を死なせない為に」
王妃は冷たく笑うと、苦しむ王子の手を決して離そうとしません。
王子は必死な様子で兵士に命令しました。
王妃の腕を切り落とせと。
勿論、兵士たちは、そんな命令聞こうとしませんでしたが、従わなければ、首をはなると言われ、半ば強制的に、王妃の腕を切り落としました。
自らの腕を掴んだままの王妃の腕を投げ捨てると、王子は躊躇うことなく冠を外すと床に叩きつけ、壊してしまいました。
指輪を失い、冠も壊された王妃は、幸せそうに笑うと、真っ白な砂へと姿を変え、空の彼方へと消えていきました。
後には、死ぬよりも辛い痛みを味わった哀れな新しい王様と呆然とする兵士と民が残されました。
やがて、かつて強欲な王様が治めていた国が滅ぶのと同じ頃、病に苦しむ妻に寄り添う男の前に、美しく煌びやかな茨の冠が現れるのでした。
茨の王冠 桜餅ケーキ @hagarai
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