たとえ、何度でも君と

夕闇 夜桜

たとえ、何度でも君と


 それは、唐突だった。


黒斗くろとが事故に遭った』


 彼と一緒に出かけていたはずの友人からの連絡に、「ああ、またか」と思いながら、息を切らし、必死に足を動かす。


(また? また・・なの?)


 ひしひしと嫌な予感がするが、それでも気づかない振りをして、足を動かし続ける。


天原あまはら君」

草薙くさなぎ


 病院の中に入ったことで、小さいながらも友人に声を掛ければ、彼は気付いたのか振り返ってくれる。


「事故って聞いたけど、何で……」

「青で渡ってたこっちに向かって、車が突っ込んできた。俺は黒斗に突き飛ばされて軽傷だったけどな」


 それを聞いて、首を横に振る。

 本人は軽傷って言っているけど、手当てされているのを見ると、やっぱり不安になってしまう。


「でも、天原君も少しとはいえ、怪我してるじゃん。二人が無事じゃなきゃ意味が無いよ」

「草薙……」


 そんなことを話しながら、『水崎みずさき黒斗』と名前が掛かれた目的の部屋に辿り着けば、隣に居る友人に、先に入るように促す。

 何か言いたそうな彼に、困ったような笑みを浮かべれば、溜め息を吐いた後、何も言わずに部屋へと入っていくのを見ながら追随する。


「よ、黒斗」

奏多かなたか」


 意識は戻っているのか、二人が声を掛け合う。


「お前は無事だったんだな」

「誰かさんが助けてくれたおかげで、軽傷で済んだよ」


 それでな、と天原君が横にズレる。


「や、黒斗。お見舞いに来ました」


 どんな反応が返ってくるのか分からず、内心緊張しながらそう告げる。

 ――でも、期待していた言葉は返って来なかった。


「……えっと、奏多?」

「何だ?」

「その子って、知り合い、か?」

「は?」


 ここまでの流れややり取りで何となく察したが、天原君は知らないが故に、ぽかんとしていた。


「……何、言ってるんだ? 草薙だぞ? 俺よりも付き合いの長い……」


 「だってお前ら、幼馴染だろ?」と恐る恐る口を開く天原君だが、黒斗は首を傾げる。


 そもそも、彼――水崎黒斗は、私の幼馴染である。

 そんな彼が最初に交通事故に遭ったのは、小学校低学年の時。

 運転手の前方不注意によるものだった。

 結果として、無事と言えば無事ではあった。――ただ一つ、黒斗の中から私に関する記憶が無くなったことを除いては。

 そして、その後も何度か事故に遭遇しては、彼の中から私に関する記憶のみが消えていく。

 さすがにそれが何度も続けば、黒斗のご両親からも気を使われたりしたのだが、それでも私は彼との関係を切ろうとは思わなかった。

 だって、黒斗がどんなに忘れようと、私の中には彼と過ごした記憶があるからだ。

 でも――


「幼馴染? 俺とその子が? 奏多の彼女さんとかじゃなくて?」

「っ、お前――」

「天原君。大丈夫、大丈夫だから。こんなことで怒ったら負けだから」


 そのことを知らない、今にも怒りをぶつけそうな天原君を宥めながら、どう言ったものか、と考える。

 ――いな。答えなんて、決まってる。


「もう、慣れって怖いよね」

「え?」

「君が事故に遭う度に、ピンポイントに私のことだけを綺麗に忘れてくれるせいで、いやでもどうすれば良いのか。身に付いちゃってる」

「……」


 二人の物言いたげな視線を受けて、口を開く。


初めまして・・・・・、草薙唯花ゆいかと言います」


 そして、彼に告げる。


「水崎黒斗君。私と、友達になってもらえますか?」


 私は、君と友人になるためなら、何度でも手を差し伸べ、同じことを言おう。


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