第8話 その先には

 私とテールはコハクに連れられ裏口のところまでやって来た。


「……!」ビシッ

「ここから出るのね」

「……」コクン

 コハクが指した裏口のドアは玄関にあったドアよりも少し小さく、どこか古ぼけている箇所があり、中華風の家なのに和風モダンな作りとなっていた。それでも一見すると物置や倉庫の扉のような地味だけど、威厳のある雰囲気が漂わせていた。


(アリスたちは今、交戦中、私たちのために時間を取ってくれてる。絶対に無駄に出来ない)

 私はテールの方を見て、名前を呼ぶ。テールがこちらに振り向いた所で私はテールの両肩に手をそっと乗せた。


「テール? これから結構動くことになるけど、良い?」

「……はい!」

「いい返事ね」

「……!」

 突然後ろからコハクがヒョコっと出て来て、両手に腰を当てて胸を張るポーズを取った。


「コハク~! 頼りにしてるよ~!」

 そう言って、私はコハクの頭を掴み、髪を少しグシャグシャにするように強めに撫でまわした。コハクも満更じゃない様子でこちらに頭を寄せて来た。


「……ふふ」

 テールが左手を口に当てて微笑んだ。その様子を見たコハクが私から抜け出し、テールの方へ駆け出してスキンシップを取り始めた。コハクさんやめて~とテールの声が聞こえた。


「それじゃあ行こっか」

「はい」

「……」コクン

 コハクは裏口の扉のドアノブに手を伸ばし、時計回りに捻り出す。するとギィと鈍い音が鳴り、扉が開かれる。


 外へ出ると、夜ということもあり街の外灯が光っていてまず目立っていた。ずっと緊張感によって張りつめていたせいか時々吹いてくる夜風が肌に伝わって心地良く感じてしまっていた。

「取り敢えず、ここから離れよっか」

 そう言うと、二人は頷きコハクを先頭にして街を走りだした。街は驚くほど静かになっていて、いつもこの時間帯ならまだ開いてる飲食店や宿屋までも今日はもう閉じていた。

 異様な風景が続いていく中、私たちは石畳で作られた街の通りを走っていった。


(……あ! 誰か来る!?)


 街を移動して少し経った頃、自分たちが進む先のところで街灯とはまた違った明かりのようなものが見えた。咄嗟に私はコハクとテールを抱え、進行方向の左側にあった道へ行き、自分たちが見えないようにして隠れた。


 私はテールとコハクを離し、様子を伺い始めた。

(追手か? まだ私たちを探してるのか……)

 壁に張り付いて、明かりを持っている人の招待を確認をする。妙な緊張を感じながらじっと見つめていた。


(え……)

 ――戦慄した。

 明かりを持っている人は貪欲の宝玉の追手ではなく、松明を持ったこの街の住人だった。普段から仲良くしていた訳ではないが、見覚えのある人だったのですぐにわかった。そしてその住人は明らかに何かを探しているような様子でその場を後にした。


 そんなと呟き、このことから私はあることを悟った。


 この街の人は見張り役になっていて私たちを探している。


 街の人を動かしたのは、恐らく貪欲の宝玉だろう。


(貪欲の宝玉は彼らに何かしらの対価を支払って雇っていったのか……)

「リーベさん……」

「テール、よく聞いて? 今、街の人たちはみんな貪欲の宝玉側について私たちのことを探している」

「え……」

「貪欲の宝玉は街の人たちに捜索をして貰えれば、自分の手下の数を減らさずに私たちを見つけてくれると考えたな、さすがに私も街の人たちには手を出せないし……」

「じゃあ、僕たちはどこへ行けば……」

「う~ん……私の家はもう居られないだろうし……」

 悩んでいるとコハクが私のことを引っ張って来た。何か伝えたいことがあるらしい。


「……」ビシッ

 コハクが指差した先にあったのはギルドだった。ここから少し遠い位置にあったが、ここからでも充分にでも行ける距離でもあった。


「……そうかこの時間のギルドなら助けてくれるかもしれない」

 今、時間は深夜に近い夜に差し掛かっている。この時間のギルドはゼロではないが、あまり来る人がいない。偶に私に来る突然呼び出しがされるような一部の例外を除いて通常、夜に受けるギルドのクエストや依頼の方が失敗するリスクや命を落とすリスクが高いため昼に受けるやつよりもその後に貰う報酬が良い。だから一部の冒険者は昼よりも夜をメインにして活動をしている人やパーティも存在している。

 しかしここら辺の地域は他の街の地域と比べて、夜に活動をする危険度の高いモンスターが少ないため比較的安全で平和なため受けられるクエストや依頼は遠方のものや報酬が安いものが多い。

 そのため、この街の夜のギルドは殆ど人が来ないのだ。来る人は大抵、酒場で酒を飲みすぎて自分の家に帰れずに迷い込んで来た冒険者か一番最近聞いて衝撃だったのが午前一時頃に眠れないからと言って一人で暇つぶしで来たという冒険者だった。


(ギルドなら助けてくれるし、部屋ももしかしたら貸し出してくれるかもしれない)

「コハク……やる~!」

「……」エッヘン

 私とテールはコハクのことをしばらく褒めて、このまま三人でギルドに向かうことにした。

 ギルドまで進むに連れて街の住人に見つからないようにしようとみんなの中で共通するに認識ではあったが、不思議とあまり見掛けなかった。街の街灯のお陰で暗い道を進むこともなく、ギルドまでの道は比較的広い道でもあったため行きやすかったまであった。


 特に何事もなく私たちはギルドの前にある広場に着いた。ギルドに続く、広場であったが見張りの住人もいなかった。息を潜め、私たちはギルドへ向かった。ギルドの扉はあるのだが、とても大きいため緊急時が起こった場合を除き、ずっと開いている状態にある。この階段を上り切ればギルドに辿り着くのだ。


「…………え?」

「ね? 言ったでしょ? メグ、リーベ・ワシントンはここに来るって」

「はぁ……そうでしたね……私には最初から当てる資格すらなかったみたいですね……」

 階段を上った先には、ギルドの中でずっと前から悠々と待っているかのように立っていた貪欲の宝玉の幹部メグ・プロフとボス、バリュー・ジャードがいた。

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