第6話 冒険者パーティの冒険者パーティ
フィシの一連の後、アリスも片付けが終わり、リビングのテーブルに全員、集まった。私とテールを除く、5人が目を閉じて、何かを考えるような表情をしていた。息が詰まるほどの重苦しい空気が漂う中、アリスはゆっくりと目を開き始めて話を始める。
「……リーベさん、ギルド長から話を聞きました」
「え……そうだったの?」
「なんですか、そのフワフワとした言い方は、心配したんですよ?」
アリスは私に指摘して、話を続ける。
「今日の昼、商店街で『貪欲の宝玉』と名乗った冒険者パーティにあったんですよね?」
「うん、そう」
「ところでリーベさん、そのパーティたちのこと知ってます?」
「え、あっ、いや、その」
「……知らないんですね」
「全く、強すぎるが故のことですかね」
アリスとフィシは少し呆れ顔をしながら、ため息をついた。
(え、そんなに、有名なの?)
私は気まずくなって、テールに横目でサインをした。
「……」
テールはキョトンとした顔で首を横に振った。(あ、良かった、仲間がいた!)と思って、再びアリスの方を見る。
「……貪欲の宝玉は、私たち冒険者パーティの中でも特に有名なパーティの1つで、結構強くて有名なんですよ? と、言ってもリーベさんのような強さではないのですが……」
「……?」
アリスは私のことを見てため息をついた。私は何か申し訳なさそうな気持ちになってアリスに向けて心の中で「ごめん!」と取り敢えず謝った。
「貪欲の宝玉の最も強い所は、その組織形態です」
アリスに変わってフィシが説明し始めた。
「貪欲の宝玉は大人数で構成されている大規模型パーティで、その人数はギルドでさえも、あまりよくわかってない。彼らは、上層部も含め、全員が冒険者パーティなんだ」
「うん? それは当然のことじゃない? だって、冒険者が集まっての1つのパーティでしょ?」
私はフィシに疑問を寄せると、少し難しい顔をしながら、説明し続ける。
「いや、違うんだ。確かに、普通の冒険者パーティならそれが普通だ。だけど、貪欲の宝玉はただの冒険者ばっかりを集めて出来た、1つのパーティということじゃない」
「どういうこと?」
「貪欲の宝玉は複数の冒険者パーティ自体で構成されて出来たパーティということだ」
「……フィシ、それって個人ではなくって、団体単位で出来たパーティってこと?」
「そうだ。だから、この世界の色んな所に貪欲の宝玉に所属している冒険者パーティがいる」
「でも、そんなに多くの冒険者パーティを引き入れて、出来たものだったとしてもすぐ解散しそうだけど……人数の多いパーティってみんなとコミュニケーションが取れなかったり、報酬の配分で喧嘩して解散っていう流れを聞くことは珍しくないし……」
「リーベさん、なぜ貪欲の宝玉がここまで大きくなれたと思います?」
「え、それは、そのパーティ自体の活躍とか見て志望して来た人をどんどん入れて来たんじゃないの?」
「……違います」
フィシは少し息を吸って、ゆっくりと呟くように言った。
「買収したんですよ、貪欲の宝玉の怖い所は、それらを可能にする経済力です」
「買収……?」
「はい」
「何を?」
「……冒険者パーティをです」
「え、それじゃあ……」
私はそんなはずはないと心の中でどこかで思いながら口にする。
「……貪欲の宝玉は冒険者パーティをお金で買ったっていうこと?」
フィシがゆっくりと頷いた所を見て、貪欲のパーティについて認識を新しくした。私が納得した様子を見てフィシはさらに説明を続ける。
「貪欲の宝玉は大規模型パーティでありながら金持ちパーティでもある。トップである、バリュー・ジャードは冒険者でありながら経営者でもある。だからその資金を使って、自分が有力だと思った冒険者や自分に逆らうこと出来ない状態にある冒険者パーティをパーティ単位で買い取ってるんだ」
「自分に逆らうことのない冒険者パーティってそんなのあるの……?」
「例えば、経済的な理由で冒険者としてやっていくこと自体が難しくなった、解散寸前のパーティとかですよ。バリュー・ジャードはそういったパーティに目を付けて、経済的な支援をする変わりに貪欲の宝玉へのパーティ加入を条件に買収していってるんですよ」
「私たちも昔、解散寸前だった時に声を掛けられたことあったよね」
「え、アリスたちのとこにもそんなのあったの?」
「うん、その時はバリュー・ジャード本人じゃなくて、貪欲の宝玉に入っていた、普通の冒険者だったんだけどね、その時、なんか胡散臭そうだなって思って断ったんだよね」
(そんな感覚で断ったんだ……)
「あの時、結構ガッツいて来て怖かったよね~」
「そう! そうなんだよ! めっちゃ怖かったよね~」
「ちょうど、僕が入った頃でしたよね」
グリュとアリスとフィシが思い出話をし始めたと思ったらルナが咳払いをしてみんな正気に戻る。やれやれという顔をしながら、ルナは貪欲の宝玉の説明を続ける。
「貪欲の宝玉は自分の中でのチーム、冒険者のパーティを増やしていって、勢力を拡大しているんです。それに、自分から志願して入ったパーティには武器や防具なんかも支給されるらしくて、自ら頼み込んで加入した冒険者パーティもいるって聞いたわ」
「あれ……でも……」
私はルナの話を聞いて、ある疑問が浮かび上がった。私はルナの方をじっと見て恐る恐る何かに探りを入れるように語を紡ぐ。
「貪欲の宝玉にとっての利益ってどう出てるの?」
何がというわけではないのだが、単純に気になった。それほど大きい、大規模パーティであれば、運営をしていくことも大変なことくらい私だって、何か誰にも言えないような秘密っぽいものがあるかもしれない。
「独自で武器や防具を生産して売っていたり、ギルドの依頼の報酬を一部配当金として、利益を出しているらしいですよ」
(あっ、意外としっかりやっているのね……)
「リーベさん」
「え、はい」
ルナは私のことを呼び、悲しそうな顔をしながら言う。
「現在、街ではリーベさんとテール君について悪い噂が流れています」
「え、それって」
「はい、貪欲の宝玉のメンバーが街でわざと大勢の人に言いふらすような行動が度々見られました」
「どんな噂……?」
ルナは深呼吸を一回して、改めるように口をした。
——冒険者リーベ・ワシントンは、魔族を擁護し、街を壊滅へと導く化け物である。
「……………………」
「……リーベさん」
私の方にゆっくりと歩み寄ったのはテールだった。テールは涙を浮かべ今にも頬に伝るような状態で私の前に立った。
「……リーベさん、ぼくの、せい、でごめんなs」
「テール!」
私はテールのことを抱き寄せて、優しく背中を叩いた。
「大丈夫、安心して、テールは何も悪くないよ」
私はゆっくりと静かに言い聞かせ、テールのことを安心させた。
「……」ギュッ
テールのことを心配したのか、コハクも抱きついて来た。テールとコハクの体温が伝わって来てほんのりと温かい。
「よし、もう大丈夫だね!」
テールが少し落ち着いた頃、私はルナの話を聞くことにした。
「……」ギュッ
「……コハクさん?」
「……」ギュッ
「……コハクさん? 僕はもう大丈夫ですよ?」
テールが落ち着いたのにコハクはまだテールに抱きついていた。どうしようかとあたふたしながらテールはこっちを見る。
「いいんじゃない? そのままで、コハクなりにまだ心配しているのよ」
不意にアリスが言った。その次に「相変わらず仲良いね」とルナが続いて言った。
「それでリーベさん、これからのことだけど……」
「うん、そうだね」
私はテールとコハクのやり取りに目を向ける。テールはコハクにもう、大丈夫だよと言っても、コハクは首を横に振って断り、未だがっしりとテールのことを抱きしめていた。テールからコハクさ~んと子どもらしい嘆きともなるような声が聞こえ、思わず苦笑してしまう。
「ルナ、私は変わらず、テールのことを守る立場にいようと思う。それがあの子のためにもなるから」
「そうですね……」
ルナもテールのほうを見て、クスッと少し笑い出した。
――ピンポーン。
コハクの家のベルがなった。
「コハク~! 誰か来たみたいだよ~」
アリスの呼びかけに応じず、コハクはまだテールのことを抱きしめ離さない状態をキープしていた。
「僕が変わりに出るよ」
「全くもう、コハクったら」
コハクの代わりにグリュが出ることになり、アリスはやれやれとため息をついた。
「はぁ~い、どちら様ですか~?」
コハクの家のドアの前では一人の女性が立っていた。紺色のショートヘア―で灰色のような目をしていており、服装は自分の胸元までは白のシャツ、そこから下は自分の髪の色に近い紺色でストライプのある少し短めなオフショルダーワンピースを着ていた。可愛らしくも上品さを持っているその女性は無表情でこちらを見る。
「……! グリュ! 今すぐ、その人から離れろ!」
フィシは突然大声を上げ、グリュに言う。
「え……?」
グリュが不思議そうに後ろを向いた瞬間――。
グリュは刺された。
グリュは倒れこみ、お腹の辺りからグリュの血がじんわりと服へ染み込んでいくのがわかる。
未だコハクの家の前に立っているその女性は、無表情のまま、こちらを見て確認する。緊張感が部屋を伝っていく中、その女性は自分のワンピースの裾を掴み上げ、品のある大人らしい声で言った。
「ごきげんよう……親愛なる皆様方」
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