第2章 貪欲の宝玉

第5話 連れられた先

「……うーん、んぇ…」

(は……!)

 変な声が出た。目を擦って、朧気になっている視界を晴らす。すると、地面が上下しているのが見える。いや、地面が上下しているんじゃない、これは、揺れているんだなと認識する。


(あれ、今って私…………あ)

 目がやっと覚めたのと同時に、私はコハクに今まで担がれていたことを思い出す。


(え、ちょっと待って、待って、待って、私、今、え……なんか変な声出さなかった? え、この状況で? え、え、待って、ちょっと、テ、テールとコ、コハクにバレてないよね……? みんなの前では割としっかりとした大人……みたいな! 立ち位置なのに、二人から「リーベさんも寝起きはそんな声とか出すんですね」なんて言われたら……え、無理。立ち直れないどころの話じゃないじゃない! それだったらまだ一日中、ギルドの命令の下で誰とも関わらないで魔物討伐をした方がまだマシよ! え、バレてないよね……バレt……)

 私は自分の失態について恥ずかしくて顔が赤くなっていた。


「リーベさん」

「はい!」

 急にテールに呼ばれたから変に声が大きく、早くなってしまう。もう目が渦を巻いている混乱状態だった。


「え、大丈夫ですか? 顔が真っ赤ですけど……」

「え!? あ! いや!? アハハ! ちょっと暑くなって来ちゃったなぁ~って! うん! 私は大丈夫だから! ほら! 元気! 元気!」

「……本当ですか?」

「ダイジョウブ、ダイジョウブ、ワタシ、ゲンキダヨ」

 そう言って私は笑って誤魔化した。


「……」ハァ~

(やめてコハク、そんな目をしないで……)

 どうやらコハクにはバレていたようだった。コハクの視線から必死に逃げようと努める。


◇◇◇


「……」

(ふふっ……リーベさんの寝顔可愛かったなぁ~)


◇◇◇


 コハクに担がれて行っている中、私たちは街に戻りある建物の前に来た。

 その建物はこの街ではあまり見られない、一見とした古風なものを感じられる家で、屋根は青色のような本瓦で赤い柱と白い壁とちょっとした池と置き石と竹の飾ってある庭園と玄関には温かみの色を発光する照明も置いてある一戸建てに着いた。


「これってもしかして……コハクの家?」

「……」コクン

 コハクは私たちを降ろし、ここが自分の家だと言うことをアピールし始めた。そう言ってコハクは自慢するかのような目をし始めた。


「……ねぇ、そろそろ入らない? 少し疲れちゃって——。あっ痛! コハク!」

 コハクは無言でポカポカと叩いて来た。普段から鍛えているのか、妙に力が入っており、それなりに痛かった。


「コハクさんの家、確かに凄いですね、こんなに立派な家なのによく手入れされているのがわかります、——。あっちょ! コハクさん!」

 コハクは一直線に行き、テールにじゃれつき始めた。私とテールに対してのこの扱いの差を感じて、ショックを受けた。


「コハクさん、そろそろ寒くなって来たし、お家の方に入りたいなぁ~」

「……!」

 コハクはテールの言葉を聞き、玄関へ向かった。


「……テール」

「あ、いや、リーベさん……」

 そうだね。うん、そうだ。テールは悪くないよね。

 私はコハクに対して強い感情を抱えながら、テールについて行った。

 コハクが玄関のドアを開けて、中へ案内した。


「あ! コハク! おかえり! あ! リーベさん!」

 コハクの家へ入ると、エプロンを着たアリスが出迎えてくれた。


「アリス? どうしてここに?」

「そんなことはいいから~! コハク、リーベさんたちをリビングに案内してくれる?」

「……!」ビシッ

 私とテールはコハクに腕を引っ張られ強引に連れていかれる。


「ちょ、ちょっと、アリス!?」

「ごめんね~! リーベさん! もう少しで出来るから待っててね~!」

 アリスはそう言い残し、私たちを後にした。コハクに連れられて、リビングへ着いた。そのリビングはコハクが一人で住んでいるとは思えない、広くて立派なリビングで真ん中には中華風のカーペットが敷いてあり、その上で大きくて背の低いテーブルがあって、壁には赤色の縁取りをされている丸いオシャレな窓があった。端には普段からコハクが使っているサンドバックなどのトレーニング機器などがあった。


「あ! リーベさん!」

 リビングのテーブル付近でそれぞれ食事の準備をしている、ルナ、グリュ、フィシがいた。

「ルナ!」

「リーベさぁん!」

 ルナはそう言って、私に飛びついて来た。少しよろけてしまったが、何とか受け止めることに成功。


「リーベさん! 死んじゃいや~!」

「私は、まだ、死んで、ないわよ!」

 引きはがそうとするも、わんわん泣きながら抱きついていて、一行に離れないし、離させてくれない気もする。


「あ~もう……」

「リーベさん、怪我とか、大丈夫ですか?」

 こんな状況の中、グリュは私に心配して来てくれた。


「まだ少し痛むけど、少しくらいなら動けるかな……」

「フィシ……」

「わかった。ほら、ルナ、ちょっとどいて」

 フィシは私からルナを引き離し、椅子に座らせ、杖や包帯やポーションなどの医療道具を持って来た。


「それじゃあ、治療するので、怪我した所とか見せて」

「あ、いや、そんなに大した怪我とかは……」

「コハク……やれ」

「……!」キラッ

 コハクは待ってましたと、言わんばかりの輝かしい目をして、両手を開いたり閉じたりして近づいて来た。


「えと、フィシ、これは——?」

「どうせ、遠慮して見せてくれないと思ったので。いいんですか? 早く自分から見せないと、コハクが無理やり防具、取り上げますよ?」

 私は直ぐに自分の防具を外し、テールの治療を受けることにした。


「ほら、やっぱり怪我してるじゃないですか……」

 フィシはそう言って、薬草や包帯にポーションを沁み込ませたものを使って、私の脚と脇腹を治療した。

「しばらく安静にしててください。特に脇腹、また傷が開いてく場合もありますから、激しい行動は控えて」

「はぁい」

「最強と言われている冒険者とは思えない、気の抜けた返事ですね」

「なにおぅ~!」

 反抗しようと思ったが、フィシに言われたことを思い出して椅子に座って大人しくすることにした。


「じゃあ、次テール君」

「え、僕もですか?」

「当然じゃないですか、小さい怪我から大きなことに繋がったりするんですよ?」

「え、でも、僕はそんなリーベさんと比べたら……」

「コハク、やれ」

「……!」キラッ

「直ぐ見せます」

 そう言って、テールも治療して貰った。


「みんな~! おまたせ~! 出来たよ~!」

 アリスが大きなオレンジ色の鍋を持ってキッチンからやって来た。私たちは皿などを準備したりなどをしてそれぞれテーブルの近い床の上に座った。アリスはみんないることを確認して、テーブルの真ん中にオレンジ色の鍋を置いた。


「良い匂い……」

「ふふっ、じゃあ上手く出来たかもねぇ~よっと!」

 アリスは鍋を蓋を取った。すると、白い湯気が立ち昇り、このリビング全体に料理の良い香りが充満した。


「アリス……これって……!」

「ふっふっふ、そう、今回はシチューにしてみました!」

 私たちはみんなで鍋の中にあるシチューを見る。ニンジン、じゃがいも、ブロッコリーと言った野菜や十分に煮え切って浮いている豚肉があった。如何にも心から温まりそうなメニューだった。


「はぁ~い。じゃあ盛り付けるよ~」

 完全に幼稚園の遠足のような感じになって、アリスも何かと楽しいのか、その場の雰囲気に流されたまま、みんなにシチューを盛り付けた。

 私の前にシチューが置かれ、順番にテールの前にもシチューが置かれた。私とテールはスプーンを手に取って、目の前にあるシチューを見る。


「さ、食べて食べて!」

「いただきます」「いただきます」

 スプーンでシチューに入ってた野菜をすくい、口の中へ運ぶ。


「……ん!」

「ふふっ、どう?」

「美味しい……」「美味しいです!」

「良かった~! 安心したよ~!」

 そう言って、アリスはこっちを見ながら笑みを浮かべた。でも本当にこのシチューは美味しかった。ずっと走り続けてきたということもあってたより美味しさが感じられた。


「温かくていいね~」

「こっちの気持ちもほっこりしちゃう」

「美味しい……」

「……!」キラキラ

「ねぇ、アリス、後でで良いからさ、このシチューのさ、」

「作り方でしょ? よいですよ! 簡単だからすぐ、教えるね!」

「さすがです、アリス先生」

「先生!?」

 久しぶりのこの雰囲気に私はつい楽しい感情に包まれていた。懐かしく思う、この食卓、場所こそ違うけれど、みんなとまた会えることが出来て素直に嬉しかった。


 食事が終わり、私はアリスの手伝いをしようとしていた。

「怪我してるんだから、大人しくしてても良いんですよ?」

「……いや、でも流石にご馳走だけっていうのもなんだかなぁって」

「フィシに大人しくって言われてませんでした?」

「……あぁ、いや、そのぉ~」

「……目が泳いでますよ?」

「いや! でも、私! 大丈夫だから! ほら、元気!」

「コハク!! リーベさんを連れてって!」

「……!」キラッ

「え、ちょっ、アリス!」

「リビングでテール君とゆっくりしててください~」

 そう言われて、私はコハクに担がれてリビングへ連れていかれた。

 リビングについた後にフィシから怒られて、テールとグリュとルナが場を治めようと一生懸命になっていたのはまた別の話である。

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