エピローグ

 あれから何日か月日が経った。

 窓から日差しが差し込んで部屋が暖かくなったところで目覚める。


 私はベットから起き上がり、時計を確認する。7時半を回っていた。

 ボーっとしている頭をしながら肌の温もりを感じた。傍にはテールが寝ていた。可愛い寝顔をしている。

「ふふっ……」

 私はテールの頭を撫でながら、寝顔に人差し指を当ててみる。すると、テールは少し溶けてダラーっとした顔になった。


(……可愛い)


 私はそのまま指を当てたり、押したりしてテールで少し遊んでいた。この柔らかなほっぺをいじって楽しんでいた自分がいた。


「……ん」

(さてと……)

 

 テールが起きそうになったタイミングで私は朝ごはんの支度をする。キッチンに行ってアリスに買わされたエプロンを着て、材料を用意をして、フライパンを取り出し、料理を始める。


 オーランド・アンシアと戦闘をした後、この世界はどうなったかというと——。


 特に何も変わらなかった。


 冒険者はいつも通り魔物を狩りに行き、魔物たちは冒険者を襲っている。

 オーランド・アンシアの事件に関してギルドからはただの事件として処理された。一応、大体的に放映もされたが、やがてみんなはいつも通りの生活を送っていた。

 

 ある意味平和ボケしているというか、残酷というか——。


 テールに関しても何も変わらず、私の元に居るらしい。そして私も監視役を続行出来るらしい。これに関してはギルドマスターからも特に何もない感じで、その話を聞いて帰ろうとした時にスミレさんに「良かったですね!」と言われたぐらいだった。


「リーベさん、おはようございます」

「テール~ おはよう~ 今作ってるから着替えて待っててね~」

「はーい」

 テールはまだ眠そうな顔をして目を擦りながら行った。


「あ、そういえば」

「ん?」

 テールは何かを思い出したかのような感じて私にあることを聞いてきた。


「なんかリーベさんと一緒に寝てから良い夢が多くみられるようになったんですよね」

「ふふ、良かったわね~」

「あとなんだか最近ほっぺを中心的に何か当たってる感じがするんですよね……もしかして僕、寝相が悪くなったかもしれません! リーベさん迷惑掛けてないでしょうか?」

「あぁ~それは~」

(ごめん! テール! 絶対にその原因私だわ!)

 わざとテールの方を向かないで料理を続けた。


 テールはどこかキョトンとした顔をしながら着替えをしに行った。


 私はどこかギクシャクした気持ちの中で料理を続けた。


 ——しばらくして。


(多分そろそろかな……)


「リーベさん! アリスさんたちが来ましたよ!」

「ありがとう~ テール入れてあげてくれる?」

「了解です」

 テールは家のドアを開けて、アリスたちを向かい入れた。


「リーベさん! おじゃまします~!」

「いらっしゃい~ アリス!」

「お~ これは良い匂い」

「今作ってるからもうちょっと待っててください~」

 アリスたちはリビングでくつろぐかと思ったのだが、アリスだけがキッチンの方までやって来た。

「ん? どれどれ~」

「ア、アリス、ちょっと……」

(え、大丈夫だよね? ちゃんと掃除してるから綺麗だし、エプロンもちゃんと着ているし、卵だってまだ焦がしていないし、もう、急に来たらびっくりするじゃない!)

「うん! 綺麗! 腕を上げたね!」

「ほっ……」

 そう実は今日、アリスたちが家に来る日だったのだ。先日の戦闘のお疲れ様会という名の食事会を私の家でやることになり、そして私がアリスたちに料理を振舞うことになったのだ。

 何回かみんなに振舞って来た食事会だけどいつだってこういう時は緊張してしまう。

(卵を割って、かき混ぜて、フライパンに移してと、ハムとチーズは一人これくらいかな?にして……)


 あの事件が起きてから多くのことは変わらなかったこの世界だが、少しだけだけど変わったことがある。


「フィシ~! 頭に葉っぱついてるよ~」

「ア、アリスみんなの前でこんなことしなくても、、、」

「相変わらずお熱いね~ ふ・た・り・と・も」

「熱いね~」

「グリュ!」「ルナ!」

 アリスとフィシが付き合ったのだ。中々の初々しさだ。あの事件が終わった後に二人が初めて会ったあの草原で付き合ったらしい。告白したのは意外にもフィシの方だった。しかし基本的にはアリスに振り回されている。


「……!」キラキラ

「コハクさん、いらっしゃい」

「……」グリグリ

「あ、あの、コハクさんあんまり頭をこっちにグリグリしないで~」

 テールとコハクもあの事件の後からより仲良くなった。因みに頭をグリグリと寄せて来るという行動は獣人族のスキンシップの一つらしい。ここまで仲良くなった所を側から見てもとても微笑ましい。


 世界は不平等で残酷だ。

 自分たちの思い描く世界とは程遠いかもしれない。

 みんながみんな優しいわけではないし、実際は協力するということなんてものはまだない。

 オーランド・アンシアの言う通り、人によって選択出来る質や量は違う。

 人を信じることが出来なくなって間違ったことをしてしまうこともあるかもしれない。

 本のようなおとぎ話に出て来る英雄は最初からいないかもしれない。

 決して完璧とは言えないそんな世界だ。

 でも私たちはそんな世界の中こうやって過ごすことが好きだ。


 私とテールはまたこうやってこの世界の中でいつも通り何気ない日常を送るだろう。晴れの日も雨の日も、暑い日も寒い日もずっと一緒だ。今度こそはこの子に寂しい思いはさせないかもしれない。だが私は立派な人間とは言えない。テールの親とは会ったこともないけれどきっと立派な方だったのだろう。でもテールに対しての思いは同じくらい持っている。今後はテールに色んなことを教えてみたいし、色んな所に行ったり、色んなことを見せてあげたい。旅行なんかも行ってみたいかも——。


『なんで私が男の子の面倒をみることに!?』


 そんなことを思っていた頃を思いだしながら、私たちはテールたちがいるリビングのところまで皿を運ぶ。

 それぞれリビングでアリス、フィシ、グリュ、ルナ、コハク、テールの順で大人しく座っていた。


 私とテールは人間と魔物だ。

 種族こそ違う私たちだけどこの時間が大好きだ。


「リーベさん! 今日はなんですか?」

「今日はですね~ ハムとチーズのフレンチトーストとオニオンスープです!」

「「「「「おぉ~」」」」」「……!」キラキラ

 会心の出来だ。みんな目を丸くして私の料理を見る。


 ——今を生きる者として。


 私はこのいつまでも温かく続いていく日常を大事にしたい。


「リーベさんもこんなに料理が出来るようになって~ 私としても嬉しいよ~」

「ちょっと! アリス! 余計なこと言わないで!」

「確かに前まではリーベさんとこんなに仲良くなれるとは思わなかったよ~」

「グリュ? 昔の私はそんなに怖く見えてたの?」

「私たち冒険者がやっとのことで倒したモンスターとかをサラッと何事もなかったかのように平然と話して実力の差を見せつけていましたからね」

「え、フィシ、私そんなことしてたっけ?」

「でも知れば知るほど意外とダメダメなところとかポンコツなところとかあっちゃって面白かった!」

「ルナ〜! やめて恥ずかしいから~」

「……」ジー

「コハク! そんな目で見ないで!」

「……マル焦げのパンみたいなものが朝食に出された時はびっくりしました」

「テール!?!?!?!??!??!!!???」

 私が高い声を出した後にそれを聞いてみんな大きく笑い出した。それと同時に恥ずかしさもあったがそれよりもなんだか馬鹿馬鹿しくなり私も一緒に笑ってしまった。


「それじゃあ、そろそろ冷めないうちに」

「そうね」

 私たちは自分たちの料理の前で手を合わせる。


「それじゃあ良い?」

 一同が「良いよー」と返事をする。


「じゃあ、いただきます!」

「「「「「いただきます!」」」」」「……!」


 ——これはステータスが別格と言われた最強な冒険者と人間の温かさによってもう一度生きることに希望を抱くことが出来た魔人族との温かく、仲睦まじい、今を生きる物語。

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