第18話 かんぱいっ!

 鹿の魔物を討伐した私たちは街に戻りギルドに報告しに行った。ギルド長も出て来て、話を一通り済んだところギルド長からは「そうか……」の一言だけだった。素っ気ない感じだが、オーランド・アンシアの素顔がわかってない以上、大きく出ることが難しいのだ。


(まぁ、そうなるよね……そんなことよりも)

 私はオーランド・アンシアが去り際に言っていたことを思い出す。


『二週間後、不変の洞窟に私の研究所がある。そこで決着をつけよう。まぁその前にそいつを倒して生き残れたらな』


(二週間……)

 二週間後には決着。あの男が? いや何かあるに違いない。あの時は所謂丸腰の状態なだっただけだ。


(一体、どんな感じなんだろう……)

 私は俯いて深く試行錯誤を凝らしていると——。


「……rーベさん! リーベさん!」

「……!」

 アリスが声を上げて私を何回も呼んでいた。

「あぁ、アリス……」

「また考えことでもしてたんですか?」

「えぇ、まぁ」

「もー」

 ごめんなさいって。私は軽く心の中で留めながらアリスの話を聞く。


「それでどうしたの?」

「そろそろ夕食にしませんかっていう話ですよ~」

「あぁそうね~」

 鹿の魔物を倒して街に戻った時にはもう夕方だったのだ。そういえばお腹が空いてきた気もする。


「どこに食べに行くの?」

「それなんですg……」

「酒場に行きましょ~よ~!」

 アリスが喋ろうとしたが、ルナが割りこんで来た。

「ちょ……ルn」

「酒場に行きたいんです~」

 ルナは疲労のせいかヤケになりながら少し溶けた表情で言っていた。


(酒場か……)

 実は私はあまり酒場に行ったことがない。というもの普段一人で生活をしていたから一人で堂々と酒場に行ってお酒を飲む勇気もなかったし、飲んだら飲んだで深夜にギルドから起こされて、私だけに緊急のクエストを依頼されたりするからだ。だからお酒はあまり嗜んだことはない。


(でもさっきギルド長から「ゆっくり休んでおくように」って言われたし、ということは行っても良いのでは? あ、でも)


「どうですかリーベさん?」

「いや、行きたいんだけどね」

「うん? 何かあるんですか?」

「……テールって行っても大丈夫なのかな?」

 そう私一人なら酒場に行くことは何も問題はないのである。しかし今はテールがいる身だ。魔物のことは詳しく知らないけどテールは幼い。とてもお酒が飲めるような年じゃない。


 私がそう心配している顔をしているとキョトンとしたような顔でアリスは言った。

「あぁ、テール君なら、もう」

 アリスは首を曲げて視線を後ろに向ける。そこにはテールの他に、グリュとフィシが楽しそうに話をしていた。


「サカバ! 行ったことがないので楽しみです~!」

「そうか~テールは初めて行くんだね~」

「僕も久々に行くな~」

 和気あいあいとなんとも暖かい会話をしていた。


「大丈夫ですかね……」

「え? 何が?」

「テールはあんなに、はしゃいでるけどまだ幼いし……」

「あ~そうね」

 ルナを肩で支えていたアリスが考え込んでいるとフィシがやって来た。

「どうしたのですか? 二人して」

「フィシ、実はね……」

 私とアリスは酒場とテールのことについて話した。話を聞いたフィシは至って普通な顔つきで言った。

「いや、大丈夫じゃないですか?」

「え……」

「子どもだけなら未だしも私たちもいますし、店の人たちだってわかってくれるでしょう」

「でm……」

「だぁ~いじょ~ぶ~ですって~」

 またルナが話の腰をへし折って割って入って来た。もう飲み始めてないよね? でも若干顔が赤い気がする。


「またルナは店にもまだ入ってないのに雰囲気で酔っちゃって~」

(え? 雰囲気で酔ってんの?)


「あ、あの」

「あ~大丈夫ですよ、ルナは酒場に行く前は大体こんな感じです」

「あ、そうなの」

「えぇ、まぁ」

 ルナには悪いけどこういう方がいるから心配になるのだ。


「大丈夫ですよ、何かあったら僕が守ります」

「……そうね」

 フィシの、その一言を聞いて少し安心した気がした。


「……?」

 私たちが中々動こうとしないせいかコハクがこっちにやって来た。


「これから酒場に行くんだけど何かあったらコハクもテールのこと守ってくれる?」

「……」コクンッ

 コハクは「任せて」と言わんばかりに頷いた。

「だぁ~じょーずよぉねぇ~コハクなら~」

「……」キッ

 ルナはコハクに絡もうとするがそれを防ぐかのようにルナをにらんだ。


「コハク~ごめんねぇ~ってば」

「……」フンッ

(これは頼もしい)

 涙目になりながらコハクに謝罪をするルナを横目に私はテールを呼んだ。


「……楽しみ?」

「うん!」

 即答だった。私はアリスと顔を見合わせて笑いながら皆と一緒に酒場に向かった。因みに特に深い意味はないのだが道案内役はルナである。


「あ! ここだ!」

 それは酒場にしてはこじゃていた。二階はある縦長の建物で主にレンガで出来ている。屋根も立派で見事な三角屋根である。立派なランタンと看板も自分たちの力だけで作ったのだろうか、とにかく珍しくてずっと見てても飽きない。それにしても大きなドアである。テールは勿論だけど私たちですら上を見上げるほどの大きなドアだった。あと見るからに堅そう。


「……」

(これ開くの?)

「さぁ行きましょう~!」

 ルナが張り切っていた。一同がルナの行動に戸惑いながら見る。その視線を察知してないのか、ルナはドアに手を掛けて押し出す。するとドアは開いた。

(あ、簡単に開くのね)


「あ! いらっしゃいませ~! どうぞ~!」

 飲み物と料理を乗せてある、お盆を持っている店員さんが私たちのことに気づいて挨拶をする。私たちは店員さんの挨拶を聞いたあとに全員が座れるような空いてる席を探して座った。木材で出来た大きな丸いテーブルに背もたれの出来る椅子だった。


「こちらから注文お願いしま~す!」

 店員さんは人数分のメニュー表を配っていった。


「……おー」

 テールが感動しながらメニュー表をずっと見ている。レストランには何回か連れていったから、見たことあるはずだけど、本当に初めての酒場だからテンションが上がっている様子だった。


「良かったねぇ、テール君」

 アリスはテールの様子を見て、微笑みながら言った。

「あ、え、いや、その」

「良いんだよ~テール~初めて来たんだから楽しまないとね~」

 テールが恥ずかしそうにしてるとグリュがフォローした。テールはもう一度メニュー表に目をやり、静かに読み始めた。


(あ、そういえば)

「ねぇ、テール」

「はい!」

「テールの種族ってこういう文化はなかったの?」

 単純な疑問だった。魔物によって当然、生活様式が違くなっているが、私たちと同じような生活をしている魔人族であればこのようなものだってあると考える。


「なくはなかったんですが、やっぱり人間と比べて娯楽が要らなかったのでなかったんですよね、サカバなんて小さい頃に読む本の中でしか出てこないんですよ」

(魔人族の絵本の中には居酒屋が描かれているのか、え、なんで? 逆に気になるよ? その本)


 テールの回答に困惑しているとルナが絡むよう会話に参加する。

「そんなことは良いから~早く食べましょうよ~飲みましょうよ~」

「ねぇ、アリス、ルナは……」

 私は小さなヒソヒソ声でアリスだけに聞こえるように話した。

「あぁ、いつもことよ」

 不安が込み上げて来る。大丈夫だろうか。


「まぁでもそろそろお腹も空いて来ましたし、注文しちゃいましょうか」

 フィシが指揮を執るような感じで提案した。確かに空腹だ。そろそろ頼もう。

「すいませ~ん! 注文お願いします!」

「は~い」

 フィシが店全体に声が通るように言うと、店員さんがメモ用紙を持って慌ただしくやって来た。それぞれ注文をする。


「あ、私は生ハム入りのシーザーサラダで! ルナは?」

 アリスは注文を終えると、ルナに声を掛けた。ルナは少しダラダラとしていたが、しっかりとメニュー表を持って指を差す。

「これ、よろしくお願いします~」

 ルナが差したのは唐揚げだった。

「じゃあ、僕はハムカツお願いします~フィシは~?」

「僕は、この、刺身の三点盛りで」

 グリュとフィシの注文を終えると、コハクが店員さんに見えるようにしてメニュー表に指を差した。

「……」ピッ

「枝豆ですね、かしこまりました」

「じゃあ、私はエビフライで」

 私は注文を終えてメニュー表をテーブルの上に置こうとしたらテールが視界に入った。


「え、あの」

 テールはまだ決まってないみたいだ。それもそうか、初めての酒場なんだから何が良くて何が悪いのかもわからないのか。

「あ、えと、その~」

「……」ピッ

 テールが迷っていると、コハクがテールの持っていたメニュー表に指を差した。コハクは「これが良いよ!」と言わんばかりの明るい目をしていた。

「あ、じゃあ、ヤキトリノモリアワセで」

「焼き鳥の盛り合わせですね! かしこまりました!」


(コハク……!)

 テールとコハク以外の我々、一同がそう思った。というのもさっきのメニュー表をみたらこの焼き鳥の盛り合わせは実はそこそこの値段をしていたのだ。


(でも、まぁ)

「楽しみだなぁ、ヤキトリノモリアワセ!」

「……」ニコッ

 楽しそうだし良いか。そうとも思ってしまった。


「お飲み物とかは宜しいでしょうか?」

 店員さんが私たちに聞く。

「あ、じゃあ私は……」

 私たちはそれぞれ注文をした。


「お待たせしましたー!」

 しばらく雑談していたら、店員さんが私たちの注文をした飲み物と御馳走を持って来た。私たちは自分たちが注文したものを持ったり、テーブルの前に置いた。


 私はジンジャーエール。

 アリスは果実酒。

 ルナはエール。

 グリュはカシスソーダ。

 コハクは果実のカクテル。

 フィシは高清酒。

 テールはお酒がまだ飲めないと思うので果実を使用したジュースにした。


「良し! 揃ったことだし、頂いちゃいますか!」

(おーみんなテンションが上がってて凄いな~あ……そういえば)


「テール……ちょっと」

「はい? どうしたんですかリーベさん?」

 私はテールに酒場ならではの挨拶について簡単に教えた。みんなが久しぶりのことだし、きっとあの挨拶は必ずするだろうと思ったからだ。


「よーし! じゃあ行くよー!」

 みんながグラスを片手に持って構える。酒場に来たんだ。やっぱりこの挨拶は外せないよね。

 アリスは大きな声で言葉を発する。

「今日はみんなお疲れ! それじゃあ!」


「「「「「「「かんぱいっ!」」」」」」」

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