第17話 討伐

『ホォォォォォォォォォオ"オ"オ"ン』

 その魔物は私たちを見つめ、雄叫びを上げた。奴の雄叫びは空気が震わせているような気がした。オーランド・アンシアが去った今、この魔物を野に放つことは出来ない。私たちはそれぞれ武器を持って戦闘態勢に入る。


 鹿の魔物はこっちに向かって突進して来る。


「グリュ!」

「はい!」

 グリュはゴーレムを召喚して、魔物を受け止めた。


『ホォォォォォォォォォオ"オ"オ"ン』


「……!」

(……不味いこのままだと)

 ゴーレムが若干押され気味だった。しばらくしたら押し負けてしまうだろう。


 どうしようかと打開策を考えていたら、コハクが颯爽と前え出た。

「……!」

『ホォォォォォォォォォオ"オ"オ"ン』

 コハクは魔物の横から拳を使った格闘技を出した。その業は一匹の大きな虎を模しており、魔物の身体を虎の牙でかぶりつくような、拳の業であった。


『ホォォォォォォォォォン』

 魔物に攻撃が当たり少しよろめいた。その隙を見て、グリュはゴーレムを魔法陣に戻した。


『……』キッ

 魔物の意識はコハクの方に向いた。コハクも魔物の殺気を感じて構えを取る。魔物はコハクとの距離を詰めていく。


『ホォォォォォォォォォオ"オ"オ"ン』

 魔物の月色の身体を光輝かせると、自身の前脚に氷を纏わせて上げた。


「……!」

 コハクは危険を察知して、身を引いた。この距離であれば魔物の攻撃を避けることが出来る。


 ――しかし。


 魔物がふみつけをした途端、地面に氷が張っていった。氷の結晶がコハクを襲う。


「コハク!」


(ふぅ~なんとか間に合った)

 私はコハクが氷の結晶に当たる前に抱えて避けた。特にこれといった怪我も無かったことに安心する。


「大丈夫?」

「……」コクッ

「良かった」

『ホォォォォォォォォォオ"オ"オ"ン』

「「……!」」

 魔物は威嚇をするようにまた吠えて、何回か片足で地面を蹴る仕草をしている。


(さて、どうしようかな)

 目の前にいる鹿の魔物に対して私は私なりに考察として思考し始める。


(この魔物は恐らく、【氷】と【雷】の二属性持ち、そして高い身体能力も持っている。攻撃のパターンは今の二つだけかな? いやまさかあの人がわざわざ残したんだからまだ何かあるはず、今はまだまだ情報が足りないか……)


 私はここでふと周りを見渡す。首を振ってみると二時と九時の方向にアリスとルナがいた。魔物はその真ん中で、それぞれ等間隔な距離にいた。


(……よし)


 私は二人にアイコンタクトを送ってみる。すると二人ともこちらに気づいてすぐに頷いてくれた。完全なアドリブになってはいるが自分たちがやるべきことは既に把握出来ていた。


『ホォォォォォォォォォオ"オ"オ"ン』

 魔物は私たちに向かって突進して来たが、直ぐに動きが止まる。


『……ブゥルゥン』

「かかったね」

 私はまた突進してくるだろうと予想して魔物の足元に罠魔法を仕掛けた。属性は【金】で魔物が通ったときに魔法陣が発動。その魔法陣から鎖が出て来て、身動きを封じた。


『……ホォォォオ”オ”ン』

 魔物は頭や身体を必死に振ってじたばたして見るが鎖が一行に壊れる様子はなかった。私とアリスはそれを見て、それぞれの武器を持って斬り始めた。アリスは【氷】属性を纏わせて、私は【土】属性を纏わせて攻撃した。


『……!』

 私たちが攻撃をしている間にルナが弓矢を持って走り出した。【風】属性を自分に付与させて前線に出る。


『ホォォォォォォォォォオ"オ"オ"ン』

 魔物は私の【金】属製の魔法陣を解き、私たちを振り払った。怯んだことを隙に魔物はルナの方を向かって走り出した。


「……来たね」

 魔物とぶつかりそうになる瞬間にルナは空高く飛び上がった。魔物の忽ち上を見上げる。ルナは矢を三本引いて射た。


『ホォォォォオオオ"オ"オ"オ"オ"オ"ン』

 【風】属性の纏った三本の矢は魔物の背中に命中した。魔物は痛みに苦しみ叫んでいる。


「ルナ! 危ない!」

「……っく」

 その魔物は天に向かって勇ましく歌った。


『ホォォォォォォォォォオ"オ"オ"オ”オ”オオオオン』

 すると魔物は周りに雷をいくつか落とす。青白いの稲妻が乱雑になって襲う。


(テール!)

 私はテールの心配をする。さっきの連携でテールとはぐれてたのだ。しかしこの稲妻が当たったら大きな怪我をしてしまうだろう。


(どこだっけ、テール……あ!)

 テールの側にはなんとフィシがいた。フィシがテールを守っているのである。この前の件から本当に和解したようだ。あの二人の顔から物語っている。私はフィシに任せて回避に専念することにした。


「……!」

 雷の攻撃が終わると、魔物は改めて姿を現した。


『ホォォォォオオオ"オ"オ"オ"オ"オ"ン』

 ルナの射た矢が焦げて、しばらくしたら塵となって消えた。


(やっぱり一筋縄では行かないよね……)


『ホォォォォオオオ"オ"オ"オ"オ"オ"ン』

 魔物は魔法陣を展開して氷の弾幕を召喚した。空中にある氷の弾幕に電気を纏わせていった。その氷の弾幕に強い雷撃が目に見えてわかる。


 ――魔物は弾幕を放った。無数の氷の弾幕が降り注ぐ。


「フィシ! 私に魔力増強の魔法をかけて!」

 フィシは黙って頷き私に魔力増強の魔法をかけた。私は直ぐに炎を出して、魔物を囲むようにした。直感だけど、下手に防ぐよりも魔力同士で無効化したほうが良いと思ったのだ。相性はこっちの方が有利。それとフィシのおかげなのかより強力な炎を出した。


 魔物の氷の弾幕はそのまま炎の壁を超えることない。しかし今度は電気が通ってしまう。そこで私は炎の壁の外側に金属製の壁を作りだす。二重の層である。これによって電気を無力化した。


 壁を作りだしたことからあの魔物は身動きが取れない状況になった。


『ホォォォォオオオ"オ"オ"オ"オ"オ"ン』

 魔物の嘶きと共に私の作った二重の層の壁が崩れた。


「あれは……」

 アリスは静かに言った。私も息を飲んだ。ただじっくり見た。


「グリュ……あれって」

「うん、間違いない」

 あの魔物は【土】属性を持っていた。土属性を使って、二重の層を突破したというのだ。いやそんなことよりも。


(……三属性持ち?)

 あの魔物は【氷】【雷】【土】属性の三属性持ちだった。ありえない。この世界に属性持ちは基本一つ、レアなケースだと二つだ。三属性以上持ちは、私を除いて誰も居なかった。しかも私たち人間ではなく魔物である。


 私はオーランド・アンシアという人物が想像以上に厄介なものだと改めて認識した。とにかく事例のない三属性持ちの魔物だ。持久戦だとこっちが不利になってしまうだろう。


『ホォォォォオオ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"ン』

 その魔物は今までで一番大きな鳴き声を出した。圧力と気が私たちの精神に触れる。私たちはこの魔物がついに本気で来ることを肌で実感した。


 その魔物の身体が鮮やかに光だす。月白色はより青みと赤色はより赫くなった。私たちは武器を持って魔物の出方を待つ。


『ホォォォォオオオ"オ"オ"オ"オ"オ"ン』

 いよいよ開戦だ。魔物は氷を出して、土属性の魔法を使って地ならしを起こす勢いで突進をしてきた。


「……!」

 私はルナとアリスを置いて、前線に出て魔物の突進を両手剣で受け止めた。

(強い!)

 この魔物も本気なのだ。力が強い。私は次第に押し負けてしまう。


「ゴーレム!」

 グリュがゴーレムを召喚して魔物を殴りつけた。魔物は不意を突かれたのか攻撃のあと少し距離をとった。

「大丈夫ですか!?」

「リーベさん……」

 フィシとテールが一緒に来た。

「なんとか」

 実はさっきの影響により手が痺れていた。それほど馬鹿力だった。


 私はフィシから回復してもらい、魔物の確認をする。するとアリスとルナとコハクが前線で戦っていた。三人掛りでもとても苦戦を強いられていた。


「リーベさん大丈夫そう?」

「うん、テール大丈夫だよ」

 テールを安心させて私も戦闘に参戦しようかと行こうとした時に――。


「リーベさん」

 フィシに呼ばれた。

「どうしたのフィシ?」

「なにか作戦とかは?」

「あ、」

 そういえば特に考えてなかった。私は下を向いてどうしようかと考えようとしたが——。


「僕に一つ作戦があるんだけど良い?」

「うん! お願い」

 私はフィシの作戦を聞くことにした。こういったことは流石だと尊敬する。

「そのためにはテール君……」

「はい」

 フィシが作戦を話始める。


「……ということです」

「「わかった」」

「テール君も大丈夫?」

「うん」

「良しじゃあ身体強化の魔法かけますね、時間稼ぎよろしくお願いします」

 フィシが私とグリュに素早さ強化と攻撃強化の魔法をかけた。


 私とグリュが前へ出る。アリスたちと合流して戦いに出た。

「アリス! ルナ! コハク! 私たちに合わせて!」

 アリス、ルナ、コハクは共に状況を把握したのか頷いてくれた。


 グリュとゴーレムが前に出る。ゴーレムが一撃を繰り出す。魔物は後ろ脚ではじいた。しかし魔物の外れた視界からグリュが短刀で攻撃をしようとする。魔物は器用にも身体を回転してグリュをあしらった。


 アリスとコハクが魔物との近距離戦が始まる。それぞれ息の合ったコンビネーションで魔物への攻撃がささった。対して魔物は不利だと感じたのか、土属性で岩石を出して攻撃したが見事に避けた。ルナが弓矢での攻撃をしたが殆どが雷で撃ち落とされるか、冷気で凍らされてた。


 私は魔物の出した岩石を真っ向から打ち砕き、魔物との戦いを始める。両手剣を振り回し、氷の弾幕を弾き、その上で魔物に斬撃を浴びさせる。しかし魔物も土属性により強化された蹴りが強力だった。


 一人一人がこの戦いに必死だ。魔物も魔法を使い、吹雪並みの氷魔法を出したり、雷を落とす。さらに魔物が飛んで着地をするだけで地ならしを起こし攻撃をしてきた。


 私たちは必至に、耐えた。持久戦になって来て、苦しくなる。私たちは次第に息切れが出てしまう。息苦しさを我慢して猛攻撃をしかける。


 二分と四十二秒が経過した時だった――。


「リーベさん! 準備出来ました!」

「フィシ! テール!」

 私はアリスたちに指示を出して、魔物から離れた。


 フィシとテールが用意したのは、テールの蒼い炎を放つ用意をしていた。あの事件から出て来た、フィシの炎である。そして今回はフィシもサポートもあって強さと正確さが増大していた。


『ホォォォォオオ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"ン』


 魔物は三属性の魔法を同時に展開させ、全て自分に纏わせた。【氷】【雷】【土】をそれぞれ自分の周りに出した。


 そして勢いをつけて突進した。


 あの魔物の突進は三属性を纏わせていて一つの業となっていた。


「……!」

 テールは蒼い魔法を放った。蒼い炎は魔物を一瞬にして飲み込みんでいき包み込んだ。その威力はとても高く鹿の魔物は静止したかのように動けない様子だった。


 テールの蒼い炎を全て放ち終わって蒼い炎から魔物が出て来た。テールとフィシの魔力を一気に受けたことから大きな隙が出来た。


「リーベさん!」

 私は前に出て、両手剣をしっかりと握り、振り上げて下へ斬りつけた。


『ホォォォォオオオ"オ"オ"オ"オ"オ"ン』

 私の攻撃を最後に喰らった鹿の魔物は赤い血を流してそして倒れた。


 ――魔物を討伐した。

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