第15話 このメンバーなら
森林についた私たちは奥へと向かった。二時間ぐらい経った時に何か違和感を感じた。
——妙だった。
この森林は景色が良いことでも有名ではあるが、それと同時にモンスターが多く出ることも有名なのだ。
しかし二時間経ったが見えるものは青々とした木々だけで、モンスターとは全然会わなかった。
(先に何人かの冒険者が行ったって聞いたけど流石におかしいよね)
「……ねぇルナ」
「はい?」
「この森ってこんなにモンスターって出てこなかったっけ……?」
「いや……そんなことはないはずです」
「ということは……」
「そういうことかも……」
段々と空気が重くなり、私たちは事の重大さに感づいた。
「急ごう!」
アリスが声を大にして言った。
そこから私たちは少し足早で行った。今もこうしてる間に被害が出てるかもしれないと考えたら、居ても立っても居られなかったのだ。
両方には、永遠に続きそうな森の風景、その中でやや黄色味が掛かった茶色の地面をしばらく駆けていた頃に、何かがこっちに向かって来た。
(何!? 敵!?)
私は危険を察知して構えたが、すぐに警戒を解いた。
向こうからやって来たのは、男で剣士の冒険者だった。その冒険者は片腕を支えていて、いくつか出血しており、歩くこともやっとな感じだった。
「大丈夫ですか!?」
私たちは今にも倒れそうな冒険者の体を支え、大樹に背中を当てて、ゆっくりと寝かすような体勢にさせた。
「何があったんですか!?」
グリュが聞いた。この森でモンスターこそ出るが、ここまでの傷を負った人は今までいない。何かの異変を感じる。
冒険者は息切れをしながら、少しずつ話始めた。
「こ…の…先にいる、モンスターにやられ…たんだ……」
(やっぱりこの森には……)
「どんな感じのモンスターだった?」
グリュが勢いを上げるような口調で質問をした。
「獣の…モンス…ターで…とて…も大きかった」
「他に特徴は?」
「赤黒いオー…ラを纏っていて、見せつけ…るかのように流れてた……」
「……!」
(フィシと似たような現象だ)
「……フィシ」
私は小声でフィシを呼んだ。そうしたらフィシも真剣な顔つきだったので益々革新に近づいた。私たちは同時にうなづいた。
私たちは冒険者にお礼を言い。先を急いだ。
奥に進むに連れて、この森は姿を向き出した。森という本来の恐怖ではない。これは冒険者が一番恐れるもので表現されていた。
「なにこれ……」
アリス達の目の前には、数多くの冒険者の瀕死体が広がっていた。出血しており、青い痣だって見える。それと奇妙なことに、奥に進みやすいように道は開けていたのである。
「……リーベさん」
テールが私の服を掴んで来た。その手は震えている。無理もない。まだ幼い少年なのだ。
「大丈夫よ、テール」
私はテールを安心させようと言葉を掛けたが、中々震えが止まらない様子。
「……!」
コハクがテールのことを心配したのか、私の近くに来た。
「……」ジー
コハクはテールの様子を見て、しばらく眺めた後に——。
「……」フンッ
テールを思ってのことか、コハクは私の前に立ち仁王立ちのようにして立ち上がった。その姿はまるで「大丈夫、私が守ってあげる」と言っているようにも見えた。
「……コハクさん」
震えが止まった。私から離れる。テールは今、前を向いている。コハクの行動から覚悟を決めたようだ。
「コハクさん、あの、ありがとう」
そういうとコハクは『うん』と頷き、笑顔を見せた。
私たちは多くの冒険者を後に、先を急いだ。
「ねぇ、犯人の人が試験管を持っているってことはもしかすると実験をしているってことだよね?」
「まぁそうだと思うよ」
ルナとグリュが会話をしていた。確かに、試験管なんてものは普段から使うものではない。
「じゃあさ、奥にいるんじゃない? 犯人」
「あ、そうか」
納得した。実はこの森はいくつか、大きな広間がある。
「でもそれって具体的にはどこなの?」
「一番奥なんじゃないかな、確か一番広かった気がする」
ルナはそう言って、地図を広げて大体の位置を示した。
「じゃあ、そこね」
実はこの時点で私は少し緊張していた。何せ、フィシの時だって歯が立たなかったレベルだ。いくら今回の相手がモンスターだとしても少しの不安はある。
「リーベさん?」
「……!」
フィシから声を掛けられた。自然にこの前の記憶が蘇り、重ねてしまう。私の中で鮮明に流れ始めた。
「あ、あの大丈夫ですか?」
「……!」
フィシはそう言って、私の所に歩みよっていた。心臓の鼓動が早まる——。
(待って。落ち着け。やばい。目の前にいるのはフィシだ。いつも通りのあのフィシだ。やばい。そうだよ。何も怖くない。でも万が一何か起こったらどうする。やばい。もしも今のフィシがあの頃のフィシに戻ってしまったらどうする。やばい。何が出来る。すぐに行動出来るだろうか。みんなを守れるだろうか。やばい。私、何言ってんだろう。まだ決まったわけじゃない。やばい。だから大丈夫だ。落ち着かないと。やばい。やばい。やばい。やばい。)
思考回路が完全にエラーを起こしパニック状態になっていた。何かを考える度に、また何かを考えてしまい、直ぐに上書きされる。安心と恐怖の繰り返しが巻き起こり、回復してるのにまたダメージを受けてるような感覚になった。
「あ!」
(なんだ。何が来る。不味い。逃れられない)
「リーベさんの脚、怪我してる!」
(え、あ……)
私は自分の脚を見てみると僅かだけど確かに怪我をしていた。でもそんなに重症というわけもなく、木の枝に適当にぶつかって小さな切り傷が出来、その傷から少し血が出てた程度である。
「え!? リーベさん大丈夫!?」
先頭で歩いていた、アリスが心配してこっちに来た。しかもアリスに連れられて、ルナ、グリュ、コハク、テールもやって来たのだ。
「あ、本当だ。リーベさん大丈夫かい?」
グリュも私の傷を見て、そう言う。
「えぇ、大したことじゃないから大丈夫です」
そう答えると、今度はルナから。
「痛くない? 大丈夫?」
「これぐらい大丈夫ですよ」
ルナにも同じように聞いてくる。実際にあまり大したことないしなーっと感じていると——。
「それじゃあ、リーベさん、治療するので脚見せてください」
「え?」
「え、いや、治療するから脚を見せてください」
「あ~これぐらい大丈夫ですよ」
「ダメです。ちゃんとした治療しますよ」
こうしてフィシの治療が始まることとなった。
私はフィシに脚を見せて、治療が始まった。因みに私の脚の治療の為に、アリスたちは護衛をすることになった。フィシは私の怪我をしている所に薬草を一部分に染みこませた布で優しく、そして静かに触れた。実は少し痛かったけどあの頃フィシの攻撃と比べたら全然大丈夫だった。暴力とは裏腹に優しい痛みだったことに気がつく。
「じゃあ後は、包帯を巻いて終わりますね」
そう言って、フィシは包帯を巻き始めた。
——包帯を巻かれている途中、私は思った。
(そうだよね、いつものフィシだ。誰よりも人を見ていて優しいフィシなんだ。そうだよ、あれはフィシが悪いんじゃない。元凶はまた別じゃん! 何を怖がってたんだろう。怖がることは何もない。だってフィシも含めた、アリスたちとテールもいるんだからきっと上手くいく。ありがとう。フィシ)
包帯が巻き終わった。やっぱり手馴れていることもあってか短時間で終わった。
「どう動けそうですか?」
私は普通に立ち、フィシに見せる。
「……元気そうですね」
「どういうつもり?」
「あ、いえ、ナンデモナイデス」
フィシの発言に少しムッとしたがすぐに無かったことにして両手を使って背伸びのストレッチをしてからフィシに伝えた。
「でも、ありがとう助かった」
「どういたしまして」
「あれ~終わったの~?」
アリスが護衛に飽きたのか、それとも治療が終わったことを察したのか声を掛けて来た。
「今、終わったばかりですよ~」
「は~い」
フィシが答えるとアリスも返事をした。
(やっぱり仲良いな、あの二人)
気を抜いた考えをしていたら、テールとコハクが向かって来ていることに気づく。
「リーベさん、治った? 大丈夫?」
「……」コクコク
「二人とも大丈夫よ~ほら、治った!」
「良かったぁ」
「……」ニパー
(この二人も仲良いな)
「はい! そこの二人、イチャついてないで行くよ!」
そこの二人とはアリスとフィシのことである。なぜこの二人なのか。それはルナがやけに二人方を見て、ニヤケながら言っていたからだ。
「「イチャついてない!!!」」
「息ピッタリ」
アリスとルナが顔を赤くして、反論をするが、ルナは笑いながら茶化すように言い。グリュに関しても優しく見るような笑顔ばかりしている。アリスとフィシにとって歯がゆい感じになっていた。どうやら一本取られたようだ。
私もそろそろ出発しないと、と思い準備を急いだ。こんな時間が続いて欲しいと同時にこのメンバーならきっと大丈夫だと、少し心から願いながらアリスたちと合流してこの森の奥へと進んだ。
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