第3章 明かされた者

第14話 正体

 フィシ達が寝た後、しばらくしてみんな起きた。全員特にこれといったこともなく健康そのものだった。もう少しで昼なので今日の朝食は昼食と一緒にしない?と私がアリスに提案すると——。


「ダメ」


 完全否定された上にしっかりと朝食を取らされた。


「……」

(なんかあの二人……)


 私が視線を向けたのはアリスとフィシだった。なんというかなんか態度が初々しいというか気が張ってるというか、なんとも言えない感じだった。


「二人ともなんかあったの?」

(ナイス! ルナ! このまま聞いて行って!)


「え? え、え? どうして?」

 そういうアリスは少し慌てて言った。


「だっていつも通りだったら二人とも気軽に話しているけど、今日なんて目を合わせただけですぐにお互いに目を逸らすから」

「……」ウンウン

 コハクもルナの意見に共感してアリスのことをジィーと見た。


「そんなことないよね!? フィシ!」

「そうだよ! そんなこt」

 言い終わりそうになった時に丁度二人の目があった。その時二人ともすぐに顔を逸らすように動かして、やがて少し顔が赤くなった。


「そーいうことね」

「「違うから!」」

 ルナがニヤニヤしながら言うと、二人とも息があったかのように突っ込んだ。それでもしばらくはルナのにやけ顔は続いていた。


 食事が済んだ後、私たちはギルドに向かった。今回の騒動のことをギルドに報告しにいくのだ。


(……だよねー)

 ギルドに入った途端周りの人たちの視線を感じた。ギルドからの正式なことはまだ話されてはいないが、あんなことがあったのだ。情報が早いせいかすぐに噂にはなっていたようだ。


(チラッ……うーん)

「……」

 フィシは少し怯えていた。人の視線に怯えた顔をしていた。


「大丈夫だよ~テール~」

 そう言ったのはグリュだった。グリュはテールの肩に手を置いて優しく言った。少しグリュの魔力が増大したことを感知した。どうやらテールになんかしたらすぐに反撃する準備をしているようにも思えた。


 ちょっと不味いかもしれないと思った矢先——。


「あ! リーベさん! こっちです~!」

 スミレさんだ。

(ナイス! スミレさん!)

 普段、タイミングが悪いけど今回はスミレさんの良い面がはっきりと出た。


「スミレさん、この前はありがとうございました」

「アリスさん! 元気になったみたいで良かったです!」

 そっか、アリスが起きるまで、スミレさんが全部治療してくれてたんだっけ。


「あの、リーベさん、そろそろ」

「うん、わかった」

 私はあの夜に起こった出来事を話した。


「でもあの強化薬?は、一体なんだったんでしょう?」

「それが私にもわからないんだ。あの男に渡されただけであとは何も……すまない」

 フィシは申し訳なさそうな顔をしていた。


「んー」

 それを聞いたスミレさんは腕を組んで少し考え込んでいた。


「そうだ、ギルド長なら何か知ってるかも……」

 スミレさんは小声で呟いた。

「リーベさん、良いですか?」

「えぇ、よろしくお願いします」

 スミレさんはすぐにギルド長を呼びに行った。


「ギルド長……」

 テールは少し不安がっていた。

「大丈夫よテール」

 私はテールに安心させる為に頭を少し撫でた。


「久しいな、リーベ・ワシントン」

 ギルド長が来た。相変わらずのガタイの良い人でその場にいるだけでも空気が圧迫されるようだ。


「先日はどうも」

 軽く挨拶をした後にギルド長はテールの方に目をやった。


「元気そうだな」

 ギルド長はテールに声を掛けた。

「あ、はい」

 テールはギルド長にまだ恐れているのか小さく返事をした。

「魔人族、名前はなんという?」

「……ソリ・テールでう」

 ちょっと噛んだ。惜しい!


「そうか、良い名前だ。 ……飴はいるか?」

(ギルド長!?)

 ギルド長はコートのポケットから飴を取り出しててテールに差し出そうとした。


「あ、ありがとうございます」

 テールは少し嬉しそうにして受け取った。


「リーベ・ワシントン!」

「は、はい!」

「今回の一件についてなのだが」

「はい」

「そちらの冒険者がなんらかの薬を飲んだ後に、狂暴化あるいは過剰な魔力増幅が起こったということであってるか?」

「そうです」

「その薬を使用した時に使った、入れ物とかあるか?」

「これです」

「少し良いか」

 私はギルド長に試験管を渡した。


「おい、これを頼む」

 そう言ってギルド長は試験管を解析班に渡して、調べた。


「ギルド長これは……」

 ルナが疑問に思ったのか聞いた。

「実はここ最近、魔物がっていう報告が出てな、その魔物の近くにあったのがきまって試験管の欠片だったのだ」

「え……」

「ギルド長、解析が終了しました」

「御苦労」

 ギルド長は解析班が持ってきたレポートと試験管を持って確認した。


「そうか、やはりな」

「あのギルド長……」

 ギルド長が一人で進んでいると察したので引き留めた。


「あぁ、すまない」

「それで結果の方は?」

 私がそういうとギルド長は少しため息をして語り始めた。

「これだ。今まで調べて来たものと一致しており、犯人が同一人物であることがわかった」

 ギルド長は指名手配犯の掲示の所に行き、一枚の紙を取った。


「オーランド・アンシア」

 ギルド長は険しい顔つきをしながら言葉を並べた。


「研究者だ」


 ——外に出る。ギルドを後にする私たちはさっきのことを思い出してた。


◇◇◇


「オーランド・アンシアは今ギルドで最も捕えたいと思う人物だ」

「ギルド長、なぜ冒険者たちの中では余り知られていないのですか?」

 グリュが質問をした。確かにギルド自体が声を上げれば多額の金や恩賞に釣られてその人物を探し回る冒険者だって出るはずだ。


「それはこの手配書を見て欲しい」

「これは」

 その手配書は犯人の写真がなかったのだ。これでは情報がなさ過ぎる。


「このままでは大きく出れないというわけだ」

 ギルド長は手配書を掲示板に戻してため息をついて後に言った。


「今後、また狂暴化した魔物が出るかもしれん、その時にまた連絡をする」


◇◇◇


「と……言われたもんだけどね~」

 ルナが少し億劫な感じで言った。写真がない以上探すのは困難だ。


「ん~でも事情徴収してみない?」

 アリスの提案だった。

「まぁそれしかないか~」

 グリュが賛同した所で事情徴収が始まった。


 それぞれが一旦解散するような形で聞きに回った。アリス達は人から聞いてみて、私とテールはギルドの掲示板を見に行くことになった。ギルドの掲示板には依頼以外にも色んなことを募集している。だからもしかすると情報があったりもするのだ。


「うーん」

 さっきからテールと見ているがそんな感じの情報はなし。


【スケルトン10体討伐募集】

【森林に落とし物をしてしまったから取りに行ってくれる人募集】

【超危険ジャイアントホーク一体討伐募集】

【ギルドの雑務してくれる人募集】


(ギルド……)

 まさかギルドがこんなことを依頼していたなんて思わなかった。そして全然目立って無さそうだし。少しいい気味かもと思ってしまったところにテールから呼ばれた。


「リーベさんこれ違いますか?」

「どれどれ?」

 私はテールが持って来た依頼紙を持って読んだ。


「注意! どこか遠い町で、しろいイヌが悪さをした! 多くの車を渋滞させたり、テーブルの下に紛れ込んでいるらしい! しかし風の噂で聞いた話によると進捗の程は良いらしいとのこと」


(これって……)

「リーベさんどうでした?」

「これは違うと思うかなー」

「あ、そうでしたか」

「うん、、、」

(ごめん、テール! これはもうそんな感じの奴じゃないんだ!)

 私はテールにその紙を元の位置に戻させて、アリス達とまた合流することにした。


「どうだった?」

「特にこれといった成果がない感じです」

 集まったのは良いけどオーランド・アンシアの手掛かりはない。


(さてどうしたものかと……)


 私たちがそう悩んでいると——。


「ゴーン」

 ギルドの鐘がなった。しかもこの合図は緊急クエストの発令だった。


 私たちが急いでギルドに行くと、みんないそいそと慌ただしい感じがしていた。


「あ、リーベさん!」

「スミレさん、何があったんですか?」

「実は……近くの森林で異常の強いモンスターが出現したという報告を受けました。既にいくつかの冒険者には向かいましたが……」

「リーベさん」

 テールが私の方をじっと見て何かを伝えようとしていた。どうやら考えていることは私と一緒のようだ。


「スミレさん」

「はい」

「私たちもそれに向かいます」

「承知しました」

 そう言って、スミレさんはさっと手続きを済ませて、「お気をつけてください」という応援を貰った。


 そして私たちはアリスたちと一緒に森林へと向かった。


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