第13話 みんなと一緒に!
――その夜。
この日も、みんなはアリスの家で泊まることになった。いつも通りの夜である。外は暗い。静かな、夜である。夕食を食べて、お風呂に入った後にみんな大人しく寝たのだ。
「……」ウーン
私は深夜に起きてしまった。この暑いか寒いかが良くわからない気温だったことが原因だと思う。となると、この後も直ぐには眠れないことになるだろう。
「……よいしょっと」
私はベットから起き上がり、水を飲もうかと考えキッチンに向かうことにした。途中あくびをしながら、キッチンまで行こうとしていると——。
「……!」
誰かとぶつかりそうになった。私は咄嗟に察知して、ギリギリで避けて、念の為距離を取った。
(え!? 誰!? こんな夜中に危ないじゃない! ぶつかって何か壊れたりしたらどうするの!? でもなんで、こんな夜中に起きてるなんて一体誰?)
私はぶつかりそうになった人の姿を見た。それは、驚くべき人である。
「……え? フィシ?」
その正体はフィシだった。フィシは全身でローブを纏っていて、顔が見えずらい格好をしていた。
「……!」
フィシは逃げるように、走ってアリスの家に出た。
「ちょっと!」
私は追いかけようとして家の外に出たが、すぐに見失ってしまった。私は家に戻り、必死にアリスを探した。パーティーメンバーの一人が急に出て行ったのだ。これは緊急事態だと捉えるべきだと思ったからだ。
私はアリスの部屋に着いて寝ているアリスを起こすように呼び掛けた。
「アリス! 起きて!」
「ん……どうしたのリーベさん、、、」
ここ最近、ずっと看病に忙しかったせいか、まだ目覚めていないようだった。
「大変なの! フィシが!」
「え!? どうしたの!?」
フィシの名前を出した瞬間にアリスは一気に目を覚ました。事情を説明すると、アリスは身支度をした。いつもの冒険者である時の格好だった。私も準備を進めようとしているとアリスから呼ばれた。
「リーベさん、悪いけど家、頼める?」
意外なことだった。
「え? どうして? 私も行くよ?」
こんな深夜に一人で行くなんて、危険すぎる、寒いし、暗くて見えないから何が起こるかわかったもんじゃない。当然のことながら、二人で行った方が良いのだ。
「ダメかな……?」
少し困った感じにアリスは言っていた。どういうわけか知らないが一人で行きたい感じである。
私はそこまで言われたら、ということで、アリスのお願いを承諾することにした。一部の条件をつけて——。といってもそんな堅苦しいものではなく、ただ危険になったらすぐに戻るようにしなさいという約束程度のものだった。
アリスは「わかった、ありがとう、リーベさん」と言って、家を出た。少し、心配だけどアリスは約束を破ったことがないのでそれなりの信頼もあった。
◇◇◇
(フィシ、、、)
私はリーベさんに家を任せて、フィシを探していた。唯一、月だけが輝いている、深夜の中、一人で外に出たのだ。
フィシが脱走した——?
今の段階ではそう見えるかも知れないが、パーティーから脱退する時は一度ギルドの方に問い合わせないといけないのだ。しかしこんな深夜にギルドは開いている訳がない。
(と、すると、あそこかな?)
私は街の中で、ある目的地を決めて、家から持ってきた地図で確認をした。
「今、ここにいるから、ここへ出て、ここかな? あれ?」
実は、地図に関してはいつもフィシに見て貰ってたから、見方があやふやになっていた。でもとりあえず脚を運ぶことにする。途中迷子になりかけたがなんとかなった。
―—着いた。
そこは街はずれの広々とした野原。緑が広がっており、涼しい風が心地良く感じる場所だ。野原は広く、とても広く、どこまでも景色が続いていた。
その野原に一人、佇んでいる人がいる——。
私はその人が誰なのか直ぐにわかった。いつも優しくて、頼れて、信頼の出来る人——。私は少し大きく息を吸い、その人の名前を呼んだ。
「——フィシ!」
フィシは呼ばれた途端、ゆっくりとこっちを振り向いた。
「やっぱり! ここにいたんだね!」
私がそう言うとフィシは少し困ったような顔をしてこう言った。
「アリス……どうして……」
フィシは私と会いたくなかったのか気まずい顔をしていた。
「ここにいると思ったんだよね~」
私は少し気楽な感じで話始めることにした。
「……」
「ねぇ? フィシ覚えてる?」
「……あぁ」
そう私とフィシは忘れる訳がない。ここは――。
――私とフィシが初めて会った場所だった。
一年前と少し前のこと——。
当時の私たちは4人パーティーで冒険をしていた。その頃はまだ結成したばかりの初心者で手探りで行っていた。何もわからず、何も出来ず、わけのわからない毎日で、一日生活をするのもやっとのことだった。
冒険者は常に危険と共に行動する。決して安心などというものはなかった。
冒険をしているときに怪我をしてしまった時は自分の持っている回復薬などで代用するしかなかった。その回復薬も勿論、お金が掛かっていたし、ない時は包帯で緊急措置もしていた。
痛かった——。
私はこのパーティーに回復魔法が使える人を募集し始めた。最初はすぐに来てくれるものだと思った。
しかし現実は甘くなく、誰も来なかった。誰一人として来なかった。年月が経つにつれて私たちのボロボロな防具を見て笑いものにする人たちが表れていた。
痛かった——。
誰も見ず、誰も相手にせず、誰も来ない。正に孤独との戦いだった。
それこそ、パーティー内で励まし合い何とかして来たが、限界も近くなっていた。私は気分転換がてらにどこか散歩をしに行った。といっても散歩と言っても少し怪しく、フラフラ歩いて迷走に近い感じだった。
——もはや何も考えたくない。
そんな状況だった。私は街の中にいたら周りの視線が注目されることを恐れて街の外を目指して足早に行った。この時点で既に精神が衰弱してて今にもどうにかなりそうな感じだった。脚が重たく、腕もフラフラで、顔も少し汚れていたと思う。それでも柔らかい笑顔はしていたのような気がする。
闇雲に行ってた、私はやがて——。
この野原にいた。やけに広く、やけに青々として、私の何かを緩和させる風がそこにあった。
その野原の少し先の方に一人の少年がいた。コーン色の軽装備をしていて、この野原の先を見ていた。
誰かいると思った瞬間に私は意識を失った。そう、限界だったのだ。
次に目が覚めた時には私の視界には青空が広がっていた。ゆっくりと白い雲が動いていて、しばらく眺めていたら——。
「あの、大丈夫ですか?」
声が掛かった。声のする方に視線を寄せると、さっきの少年がいた。
「え、あの」
私は少し戸惑ってしまい、状況が上手く飲み込むことが出来なかった。
「あれ、私は……」
「物音がしたと思って、後ろを見たら、倒れていたんですよ」
「え? そうなの!」
私は事の大きさに関して、驚き、目を見開いていた。しかし疑問が一つ浮かび上がる。私の体は傷一つなかった。さっきまでは少し痣があったのだ。
「私の傷は?」
「それなら回復魔法で治しておいたよ」
回復魔法!?
それを聞いた途端、私は自然と口にしていた。
「ねぇ、君、私のパーティーに入らない?」
——こうしてフィシは私たちのパーティーに入ったのだ。
「それでフィシが入ったんだよね」
「あぁ、今でもそのことは覚えてる」
「急だから驚いたでしょ?」
「そりゃもちろん」
二人で回想をした後に、他愛のない会話をして時間を潰していた。
「ねぇフィシ戻らない? みんなが心配するよ?」
「……」
私はフィシにそう告げると急に黙った。フィシにとって触れてはいけなかった話になり、空気に電気が走った感じがした。
「それは出来ない……」
私はフィシの方を向き、理由を待った。
「僕は今回の件で大きな被害を出してしまった、自分の感情にまかせっきりになって、過去の出来事を何時までも引き釣って、結果がアリスたちを傷つけてた」
空気が冷たく、針を刺すかのように風が吹いている。
「このままアリスたちと一緒に居ると私は、また迷惑を掛けてしまう」
私は黙って聞いていた。
「……だから僕はアリスたちのパーティーから抜けるよ」
「いやだ」
「え? アリス?」
「いやだって言ったの、ちゃんと聞いてた? 『いやがる』っていう意味だよ?」
「え……どうして」
「困るから」
「そんな……回復魔法を使える人なんてまた探せば良いだろ! 他にも冒険者なんて山のようにいる! 俺より優秀で、みんなことをみてくれるような人が向いているし! 俺はアリスたちのことを傷つけて、最悪、殺そうとまで思ったんだぞ! 街の人たちなんて黙っていない! 悪いようにみるし他の冒険者からも何かされるかもしれない! ふざけるなよ!」
「フィシはそれで良いの?」
フィシは眼を大きく開けて息づかいも荒くしていた。しかしそれは決して怒りというわけではなく、何かに焦っていることがすぐにわかった。
「フィシ——。」
私はフィシを呼んでゆっくりと話始めた。
「私たちのパーティーにはフィシが必要で、別の人じゃダメなの、他の回復魔法を使える人じゃダメなの、私たちのパーティーではフィシじゃなきゃダメなの!」
「そんな……どうして」
「私たちはねフィシの仲間だからだよ」
「……え?」
「私たちは、パーティーは、みんな仲間だよ、例え喧嘩があったり、何かあったときはみんなで解決していくのが仲間だよ、私たちのことを知りも知らないような他の人じゃダメなの!」
「……」
「今回のことなんてフィシのことを面倒見れなかった私たちの連帯責任でもあるんだよ! だからね……」
私は感極まって声が大きくなっただけではなく、激しい咳を起こしまい、深呼吸して心を落ち着かせた。
「アリス……だいzy」
「だからね!」
私はフィシの言葉を遮って続けた。
「帰ろう……フィシ!」
私は両手を広げて、フィシに言った。
朝日が出始めた時だった——。
「……」
フィシは近づいて、私に抱きつき、私の左肩に顔を乗せた。
ひそかに泣いていた。
私は急に抱きつかれたことから驚いたが、しばらくして反射的にフィシの頭に手を乗せて、そのまま頭をなでた。
「本当に、本当に、こんな僕がいて良いんですか?」
泣いているせいか、言葉が途切れ途切れになっていたが、言いたいことはわかった。そして答えははっきりしている。
「いいよ、もう大丈夫だから」
フィシはその後、しばらく私と抱き合いながら泣き続けて、泣き止んだ後は、一緒に家に帰った。
家に戻ると、リーベさんがいた。リーベさんは私とフィシが戻ってきたことを確認して、ほっとしたような顔をしていた。みんなはまだ寝ているみたいで、朝が近づいて来てるけど、私たちも少し寝ることにした。
自分たちの寝室に戻ろうとしている時にフィシと会った。
目が合ってしまう——。
フィシはさっきのことがあったのか少し気まずそうにしていた。
「フィシ」
私はフィシの名前を呼び、フィシがこっちを向いたことを確認する。
――そして。
「おかえり!」
その言葉を聞いてフィシは少し照れくさそうにしながら一言告げた。
「ただいま、アリス」
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