第12話 決めた……!
――数日後。天気の良い午前中。アリスの家にて。
「「「「「……」」」」」
フィシは眠っていた。アリスの家の客人用のベットでフィシは眠っていた。
「起きませんねー」
グリュが言った。心配そうな顔をしていてフィシの顔の高さに合わせるようにしゃがんで眺めていた。
「……」
実はあの後、スミレさんに見つけてもらい、ギルドの人達が駆けつけて来たのだ。ギルドの人達は私たちを運び出し、ギルドの中にある休養所まで行こうとしていたが、多少意識を取り戻した私がパーティーの中で一番広い家である、アリスの家にして欲しいと頼んだのだった。ギルドの人達はそういうわけには、という感じであったが、事情を察してくれたのか、スミレさんが説得をしてくれて、一緒にアリス達の治療に手伝ってくれるようになった。
スミレさんには感謝でしかなかった。私がまだ体を動かすことが難しい時にギルドから何往復もして回復薬を持ってきてくれて、治療してくれた。やがて、アリスから最初に起き始めて、アリスが元気に動けるようになってから、事情を説明をして、ギルドでの処理があるからと言って、ギルドに戻って行った。いつも要らない一言までさらりと言うスミレさんだが、あの時はとても頼もしかった。
「フィシさん……大丈夫かな?」
「「「「……」」」」ジー
「え? どうしたんですか皆さん?」
「いや、まだテール君が喋ってることにまだ違和感を感じて……」
テールが目を覚ましたのは、この中で一番遅かったのだ。この時にまた無口になるのかと思ったりもしたが「おはようございます」と普通に挨拶をして、手伝いもする時も普通にコミュニケーションを取ったのだ。忙しかったからこそ気づかなったが、こうして落ち着いた時間になると、私たちは気づき始めたのだ。
「……えぇ」
テールが少し困った顔をしていると、コハクが近づいてきた。
「……」ジー
「ど、どうしたんですか? コハクしゃん」
(あ、噛んだ)
ここにいるコハクを除いた一同がそう思った。
「……」ニコ
「……!」
コハクは顔を近づけて、フフッと笑った。それに驚いたテールは顔を真っ赤に染め上げたのだ。
(かわいい)
この二人が仲良さそうにしていると、場が少し和むような気がした。今のは、獣人族特有のスキンシップなのだろうか。正直羨ましい——。
そうこうしているうちにアリスが来た。アリスはお湯の入った、桶を持って来て、寝ているフィシの元に行き、頭の上に置いてある、タオルを交換した。
「……大丈夫かな、フィシ」
アリスが言った。いつも明るいアリスが暗い発言をすることは珍しいことである。アリスはフィシの頭をそっと撫でながら、心配そうな顔をしていた。
「そういえば、フィシのあの強さはなんだったんだろう?」
私が皆に問いかけるように言った。フィシのアリス達のパーティーの中ではヒーラーの役目であり、前線に出て戦うようなポジションではない。ましては僧侶である。後方で回復魔法などを使って、味方の支援などを中心的に行うのだ。
しかし今回の一件では、フィシの強化はレベルが違った。まるで、剣士のように杖を使い、攻撃力も高く、速さや防御力も格段に上がっていた。そしてフィシは本来、回復魔法と光属性しか使えないはずだ。ではあの炎属性は一体——。
「なんかあの時のフィシって、フィシじゃなかった気がする」
ルナが呟くように言った。
「どういうこと?」
グリュが聞き返す。するとルナが答え始めた。
「フィシっていつもクールな感じで落ち着いているじゃない?」
皆が頷く。
「でもあの時のフィシはもの凄く、そのなんていうか……」
ルナが一瞬言葉を詰まらせた感じで、少し溜めてからこういった。
「感情的だった」
沈黙の時間が流れた。
「そうだよな、いつものフィシだったらあんな『殺す』とか絶対に言わない」
グリュが解説する。
どうやら、いつものフィシはあまり感情を表に出さないで冷静な判断と適確なアドバイスを出してくれるようだ。さらにグリュの話によると、クエストとかでの行動中は決して、そのようなことを聞いたことがないというのだ。
私はそれを聞いて、疑問に思い、グリュに聞いてみた。
「じゃあ、なんでなおさらフィシはそんなことを?」
グリュの返答は意外なものだった。
「わからない」
そう、あのグリュでさえもわからないというのだ。
「そういえば、やたらテールのことを狙ってなかった?」
ルナがそう言った。
(そういえば、フィシはテールを凄い意識していた気がする)
「ねぇ、テール君、フィシに何かしたの?」
「え……いや、そんなことは」
「何かやってしまったこととか?」
「……そ、そんなことは」
こうして取り調べのような会話をやっていると——。
「……」バッ!
ルナとテールの間にコハクが割って入って来て、テールの前に立ち、両手を広げていた。どうやらテールのことを案じて守ったらしい。それを見たルナはやっと気が付いたかのように。
「ご、ごめんね! テール君怖かったね! 別に怒ってるわけではないの!」
「……」ムッ
コハクはまだ、やけに真剣な表情をしていた。
「あ、あのコハクさん、僕はもう大丈夫だよ……」
テールがそう言うとコハクはやっと動いてくれた。
「……」ムッ
でもかなりのご立腹のようだった。
「コハクもごめんなさいね~」
「……」フンッ
コハクは首を曲げて、ルナの謝罪を蹴った。
「コ~ハ~ク~」
ルナはコハクを宥めるように呼んだ。どうやら相当来たようだ。
「……n、んー」
皆がベットの方を見た。
フィシがついに意識を取り戻したようである。
「ここは……」
「フィシ!」
アリスが感極まったのか、フィシに抱き着いた。
「ア、アリス!?」
フィシはまだ起きたばっかりでまだ状況が飲み込めてないというのに、アリスに抱き着かれたことによって余計混乱したようだ。
「良かった、良かったよ……」
アリスも上手く感情をコントロール出来ずにいた。
――しばらくして。
「ごめんなさい! 僕のせいで取り返しの着かないことになってしまった」
フィシは大きな声で謝罪をした。
「それでフィシ今回のことについて色々と聞きたいんだけど良い?」
「はい」
「じゃあ、まずはなんでテールを殺ろうとしたの?」
「それは……」
「テールが魔人族だから? 冒険者としての討伐しようとしたの?」
「違う」
「え、じゃあ、なんで?」
フィシはゆっくりと深呼吸をして天を見て、ゆっくりと言った。
「僕がね、小さくてまだ子供の時に、僕の古郷はね、滅ぼされちゃったんだ」
(え!?)
全員が息を飲んで静まり返った。
「突然の出来事だったんだ、彼らは急に来て、人々を殺し、物を奪って、僕の家族、友人、故郷、全部奪って行ったんだ。あの頃の僕はただ逃げることしか出来なかった。何も守れず、何も救えず、自分の命を守ることだけが精一杯で家族も友人も見殺してしまった」
「それでどうなったの?」
アリスが微かに震える声で言った。
「適当に彷徨って冒険者になって今に至る感じです」
「その古郷を襲った種族は?」
私はフィシに聞いた。
「その種族は魔人族だったんだ」
完全に部屋からあらゆる音が消えた。フィシの古郷を襲った種族がまさかテールと同じ魔人族だったなんて——。
「そうだから、初めてテールが魔人族だとわかった時に凄く怖かったし、大きな憎しみを感じたんだ。また全部奪われる、また何もかもなくなってしまうってね」
「そうだったんだね……」
ルナがその事情をわかった様子になっているとグリュが言った。
「じゃあ、フィシが魔物を嫌っている理由って……」
「あの頃からのトラウマになってしまってね、魔物や魔族全般が怖くて堪らなかったんだ」
「じゃあ次なんだけど良い?」
「うん」
「フィシが飲んでいた奴についてなんだけど? あれってなんなの?」
そう言って私はギルドの収集班から貰った試験管をフィシに見せた。
「……それ、実は貰い物なんだ」
「え? 誰に?」
「男の人に貰ったんだ、『これを飲めば身体能力が格段に強化出来る優れものだ』って言って口車に乗ってしまった僕はそれを貰ったんだ」
「それ、ちょっと貸して」
私はルナにそれを貸した。ルナは真剣にその試験管を観察し始めた。
「なにこれ……」
「どうしたの?」
「この試験管の内部に付着した僅かな液体からもの凄い魔力を感じるの!」
「え!?」
魔力とは本来、私たち人や魔物、広く言えば植物などの生き物の中に存在するものだ。それを自分の力によって自由に放出したり、備蓄することが出来る。そして魔物の素材や植物などで作られた、武器や武具、回復薬や強化剤にも僅かな魔力が含まれている。魔力の量はどんなに強い、魔剣とか回復薬でも、我々生きているもの達に比べたら、決して超えることはない。
なぜなら死んでいるからだ。人や魔物が死んでいくと、時間が経てば死体が腐って行くのと同じような原理で、魔力も廃れていくのだ。だから研究開発が遅れているということではなく完全に不可能なのだ。
しかし今回のものは生きている生物よりも魔力があったのだ。
「フィシその男の特徴はある?」
「いや、至って普通の男で妙に馴れ馴れしかったぐらいしか……ごめん」
「いや! 大丈夫!」
私達はみんな次の目標を心の中で静かに決めていた。それはフィシと私達をこれ程まで苦しめた、その男の調査である。手掛かりは一応ある。私達は自分達で出来ることを話し合い、今日はアリスの家でゆっくり休むことにした。
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